Flower Camp

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  • 5年目を迎え、九州のテクノ・ハウスシーンの中ではすでに定着した感もあるFlower Camp。元はと言えば長崎の名店Orbの店主・Mitsuが中心となってオーガナイズするパーティーFlowerの出張版として始まったそうだが、国内外から招致された通好みのDJ・プロデューサーと九州各地で活躍するベテランアクトの競演により、中規模な野外パーティーの中でも抜きんでたクオリティを実現した野外パーティーとなった。 会場は長崎・鳥甲山山中のとりかぶと生活科学研究所。奇妙な造形ながらどこか温かみのある小屋が立ち並ぶこのスポットは、テントを張るスペースはもちろん、宿泊小屋や露天風呂も完備。開催時はこだわりのフードやレコードショップ、マッサージなどの出店も充実しており、場内はまるで3日間だけの村のよう。ブースはデコレーションのCocotamaplantsによって自然と調和するように彩られ、両脇には長崎Orbから持ち込まれたMaster Blaster SP4が粒立ちの良いタフなサウンドを響かせる。 初日は霧雨が降りしきるやや過酷な状況のなかスタート。Makotoのストレートなミニマルテクノ中心の選曲から、Plan Bからのリリース歴を持つTakenawaとDeeのユニットSTVによるアシッディーな展開のセットに耳を傾けつつ、多くの人は雨雲の行方を伺っているようであった。夜を迎えてからは長崎拠点の二人組Synergieのアナログ色の強いシーケンスと太いボトムのグルーヴを主軸としたダークなミニマルから、長崎にてパーティーFlowerをMitsuと共に主催するRama、大分Sound Bar AZULのDon-Tabascoによる直球なテクノ中心のセットに。1日目の終着点はThe Bunker NYやTime To Expressからリリースを重ね、日本のテクノシーンをけん引するひとりとなったWata Igarashi。徐々に雨脚も弱まるなか、猛然とエネルギーを解き放っていくようなディープ・ミニマルで締めくくった。 2日目のスターターKenrouの終わり際からフロアへと向かうと、前日の大雨にもかかわらず水たまりがわずかに残る程度まで場内は回復しており、大分拠点のベテランAizawaと主催のMitsuによる低空飛行なミニマルハウスに後押しされ「ようやくじっくり踊れる」と思える雰囲気に。その期待に応える、一際モダンな選曲で魅せてくれたのが小倉Rockarrowsのysk。ブレイクビーツ系のテクノから催眠的なミニマルまで用いて空気を刷新した。続くは福岡にてテクノ・エレクトロニカ系パーティーOtonohaを15年にわたって開催する重鎮Ozaki Koichiのライブセット。柔らかな秋空の光も相まって、クリアな上音のフレーズと落ち着いた展開のシーケンスを聴きこませてくれた。一転して踊れるムードをもたらしたのは福岡拠点のハウスパーティーDeliciousをNobと共にとりしきる主催するRyo。トランシーな感覚を漂わせつつUSハウスからミニマルまで自在に往復し、後半に向けてのさらなる勢いを生み出していた。 岡山・東京拠点のプロデューサーSASAKI Hiroakiは、ダビーで滑らかな低域のグルーヴと冷ややかな空気と共鳴するようなフレーズを基調とし、一挙手一投足から集中力が伝わるライブセットを完遂した。続いてはDelicious主催のNobが流れを徐々にタフなボトムのハウスグルーヴへと変換、Flower Campの夜に欠かせない存在である京都拠点の辣腕DJ Kazumaへと繋ぐ。空気感を丁寧に紡いでいくような、艶やかでどこか神秘性すら感じさせるディープハウス・テクノでいよいよこの日のクライマックスへ。2日目のトリは昨年と同じくKuniyukiのライブに託された。特注のモジュラーを用いたシンセ・セッションから始まり、徐々に情感あふれるサウンドスケープへと移行。荘厳さすら感じられる、思わず足を止めて聴きこんでしまうほどの音の旅であった。
    3日目はバイヤー/DJとして各地でユニークな音楽を探求してきた奇才Compumaによる土着感あるビートと蠢くアシッドハウス中心の選曲で、雲ひとつない晴天の朝を迎えた。沼という表現がふさわしい前半の展開が後半のメロディアスな展開の昂揚感を高める味わい深いセットから、老舗decadent DELUXEのスタッフも務め、永く福岡のクラブシーンで活躍するNanoがビートダウンからトライバルまで包括するスペーシーな世界へと誘う。福岡拠点のユニットMono Safariによるライブアクトは3日間の中でも白眉で、ドラムパッドとパーカッションの演奏を交えたアブストラクトなビートと穏やかに広がるフレーズを武器に、雄大なダウンビートから重厚なテクノまで比類なき表現力をもって楽しませてくれた。Flower Camp 2016年のラストを担ったのは全国各地を巡ってきた流浪の実力派DJ Kentaro Iwaki。オールドスクールなハウスから徐々にMaurizioやRicardo Villalobosなど骨太なミニマル中心の選曲へ移行したと思うと、中盤は和物・ディスコセットへと展開する予想のつかない展開。終盤はエモーショナルなUSハウス中心の踊れる流れで着地した。 若い世代から子供連れまで多種多様な客層が訪れていたが、前のめりに遊ぶというよりは会場の雰囲気やキャンプをゆるやかに楽しんでいるような印象で、終始穏やかな空気が流れていた。ジャンルでいえば、1日目はストレートなテクノ、2日目はミニマル・ディープハウス中心、3日目はハウスを軸としたオールジャンル…と、日にちごとに独立したイベントのよう。しかし通して体験してみると一つの流れとして楽しめる、各アクトの得意分野を深く理解し、活かしきったタイムテーブルがパーティーの肝となったのは間違いない。 とりかぶと生活科学研究所には直通の交通機関もなく、福岡市街からは車で3時間近く。決して気軽には行ける場所ではない。しかし柔らかな陽射しや広がる星空のもと、山中の自然を凝縮したフロアで味わった体験は「またここに戻ろう」と思わせるほどの感動を与えてくれた。そしてその瞬間に至るための細やかな心配りや、随所にこだわりを込められるだけのコンパクトな規模感がFlower Campを唯一無二のものとしている。
RA