Pole - Waldgeschichten EP

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  • Pole名義としては2年振りの新作となる「Waldgeschichten」(=森への愛)と題されたこの作品で、Stefan Betkeは森をテーマにしている。"Wipfel"(=木の先端)は軋むパーカッションの殻をなぞりながら偶発的に鳴る乾いたノイズと木漏れ日のようなコードが浮かび上がるとトラックの雰囲気ががらりと変化する。"Wurzel"(=根)はひたすら地下を進み、暗くダビーで湿り気を帯びた道をのっしりと進む。こうした比喩的なアプローチは特に新しいものではなく、実際にWolfgang VoigtやPantha du Princeをはじめ多くのアーティストがこうしたロマン主義的なアプローチで作品を創ったり、タイトルに冠してきている。しかし、この「パセティック・フォーラシー/感傷的虚偽」(訳注:文学などにおいて無生物に人間の感情を持たせた表現を作り出すこと)とでも言うべきPole独特の精緻なアプローチは、彼が過去に展開してきたサウンドのアプローチを思い起こせば非常に納得のいく多くの共通点が見つかる。それはダビーで煙に燻されたような初期作品から、さらに明瞭なトーンとクリーンなディテールに変化してきた昨今の作品を聴けば分かるはずだ。過去13年以上に及ぶキャリアのなかで、Poleはいくつかのはっきりした音楽的ステージを通過してきた。いまではクラシックとされるグラニュラー・ダブ・テクノにはじまり、奇妙に屈折したヒップホップへの偏向、そして2007年『Steingarten』での非常に角の取れたサウンドなどを経て、現在のBetkeはほとんど特定のスタイルには拘ってはいないように見受けられる。現在の彼は、ただサウンドそのものが自律して自由に呼吸できる空間を用意しているにすぎないのだ。とりわけ"Wipfel"はその点でも素晴らしく、非常に広い空間のなかに色彩豊かなステレオイメージがただ広がっている。今年リリースされたレコードの中でも、最も贅沢なサウンドのひとつだと言えるだろう。
RA