Cio D'Or - Magnetfluss

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  • Prologueとのコラボレーションのもと、ダークで精緻なテクノ・トラックを生み出し続けるなか、Cio D'or本人の新たなソロ作も届けられた。タイトルトラック "Magnetfluss"はBurialあたりを思わせるアンビエンスに包まれ、遠くで響く雷鳴のような趣がある。洞窟の中でひたひたと影も無く近寄ってくるような緊張感に覆われ、その感覚は切り貼りされた鐘のような音色やザラザラした質感のシャッフルされたリズムに、空間を縦横に移動する力強いシンセが絡むことよってさらに増幅する。トラック中盤になると、それまでの不安な感覚がかすかながらもはっきりとした存在感を示す心拍音のようなシークエンスによってさらに加速させられる。いっぽう、"Magnetkreis"というトラックも負けず劣らずアトモスフェリックだ。硬い殻に覆われたような質感を持つキックが崩れたシークエンスで刻まれながら、スチームが高圧で噴出するような音色やインダストリアルでおびただしいエコーに取り囲まれている。こうして書くとさぞかし暴力的なトラックだと思われるかもしれないが、トラック全体の印象はむしろ抑制されているように感じられる。冷酷というよりは威圧そのものといった感じだ。 "Wirbelkraft"と"Wasserkraft"、ともに"Kraft"という単語をトラックタイトルに含む2つのトラックはよりDJツール的な機能性を重視して作られている。"Wirbelkraft"のほうはヘビーな方向性で、オフビート気味のスウィープ音と象の歩みのように重いキックがこのトラックの核だ。鋭く研ぎすまされたハイハットはガラスの破片のように散らばっている。この強固なグルーヴを下地に、これまでもCio D'orが過去の作品で聴かせてきたような繊細な音色が覆い被さっていく。今回の場合はその繊細な音色はリヴァーブにまみれ、硬質なグルーヴの基盤の上で空気のように漂わせることで非常に巧妙且つ効果的に使われている。"Wasserkraft"はより軽めのメロディで、コーラスのように囁くヴォイスがほとんど消え入りそうになるくらいのバランスで配置されている。しかし、その下に敷かれたリズムはRoland系の909タムでしっかりと補強されている。それゆえ、この"Wasserkraft"はこのEP中でももっとも痛烈なトラックに仕立てられている。
RA