Modeselektor - Monkeytown

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  • Modeselektorはここ数年に渡ってありとあらゆるジャンルに首を突っ込んでいた印象があるが、ベルリン出身のこのデュオは今作を持って、「愛すべき奇妙な変人」から「多ジャンル主義者」へと急激に変化を遂げたようだ。この『Modeselektion』のジャンルは多岐に渡っているが、ベースミュージックとテクノの境界線上にまたがる全てのトッププロデューサーたちが参加しているかのようなスペシャルなトラック群となっている。3枚目となる今回のアルバムはBPitch Controlからではなく、自分たちのレーベルMonkeytownからのリリースとなっているが、そのスペシャルなテイストは1曲目から感じられる。1曲目”Blue Clouds”の陰湿なドラムサウンドは前作『Happy Birthday!』のどの収録曲よりもCosmin TRG的なテクノを打ち出してきているが、紆余曲折しながら上昇するシンセが鳴り響くパートにまで進んで行く様子は典型的なModeselektorの「ごった煮」サウンドと言える。 『Monkeytown』ではこの「ごった煮」サウンドが上手くまとまっている。Gernot BronsertとSebastian Szaryはただ闇雲に色々手を出しているのではなく、今作で過去最高の「精度」を勝ち得たかのようだ。このアルバムでも彼らはアイディアからアイディアへ飛び回っているが、そういったアイディアをほぼ全て確実に自分たちのものにしている印象を受ける。激しいエレクトロ調の”Evil Twin”や”Humanized”は彼らの初期作品を思い起こさせるが、奇妙でスムースなインストゥルメンタル”German Clap”やブリープ音が鳴り響く”Grillwalker”などはNight Slugs的なトラックとしては最高の出来を誇っている。しかし、こうやって彼らがどの流行を取り入れたとしても、彼らのサウンドは彼ら独自のものなのだ。言うならば『Monkeytown』は、今の流行をModeselektorが自分たちの特徴であるパンクなスタイルに取り入れた作品と言えよう。そしてその結果として生まれたトラック群は、彼らがインスピレーションを受けた元の作品群よりもスリルに満ちている。 このアルバムはヴォーカルにかなりのウェイトを置いているが、Modeselektorの2人はヴォーカリストの選択には細心の注意を払っており、また同時にヴォーカリスト側からの要求も注意深く吟味しながら制作を進めている。RadioheadのThom Yorkeが前作に続いて2曲参加しているが、前作の”White Flash”のIDM的なアプローチとは異なり、今回はThom Yorkeのバンドサウンドとして聴こえるように努力しているように思える。その”Shipwreck”は、リズムとギターが細かく張り巡らされた”Reckoner”以降のRadioheadのベストトラックだろう。他にはWarpのPVTが”Green Light Go”で印象的なヴォーカルワークを披露しており、Miss Platnumは”Berlin”でその実力を如何なく発揮しつつModeselektorの遊び心によって強烈なエディットを施されている。またカナダ人ラッパーBusdriverのリズミカルな声は、壊れたビートブルドーザーとも言えるトラックの上で不自然に引き伸ばされている。 こういった派手なゲストが盛り込まれていることで、『Monkeytown』はアンダーグラウンドシーン以外からも賞賛されることになるだろうが、2人は決してそのネームバリューに頼っているわけではない。実際、世界最高のバンドのひとつに所属するヴォーカリストが2曲アルバムに参加しているが、その事実はスペシャルイベントというよりはあくまでModeselektorの日常に近いトーンを保っている。そしてアルバム『Monkeytown』の場合も同様だ。BronsertとSzaryはこのアルバムで別に新しいことに挑戦しているわけではないが、その代わりに今作品は難しい理屈抜きに簡単に楽しむことができる年間最優秀ダンスミュージックアルバムのひとつになっているのだ。
RA