The Field - Looping State of Mind

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  • 2007年はパッとしないクロスオーヴァーなダンスアルバムばかりが頻発した年だった。その年Kompaktはソファーで揺れている様な連中向けに、Gui Borattoの『Chromophobia』とThe Fieldの『Here We Go Sublime』という、彼らのトレードマークとも言える非テクノ的カレイドスコピックサウンドな2枚のアルバムを出した。(昨年)Dialからのリリースで信頼を得たPantha Du Princeは、傑作『The Bliss』に続いてのアルバム『Black Noise』で最終的には経済的にも成功した。その年は当然の流れでホームリスナーに持て囃される年になっていることだったのだが、思い返してみると、何か足らなかった気がするのはBorattoやAxel WillnerことThe Field の次回作がデビュー作ほど重要な作品ではなかったことが原因になっているようだ。より新たな方法を志したと思うが、Willnerの『Yesterday and Today』はDan Enqvistをベーシストに、Andreas Soderstromをドラマーに迎えてよりオーガニックなサウンドになり、いけてないクラウトロック志向への熱意の為に彼の目が回るようなトランス感を犠牲にしてしまっている。とにかく両者とも、その年の注目株と言うには及ばなかった。 さてこのサードアルバムはというと、Willnerはまたもやコラボクリエイティヴモードに入って、Jasper SkarinがドラムスをSoderstromと代わり、Jorg Burger(注:The Modernist)がミックスで参加している。彼のベルリンのホームスタジオで作られたラフをもとに3人はケルンのDumbo Studioで7曲を収めた『Looping State of Mind』という気の利いたタイトルのアルバムを録音した。時折Gas(注:Burgerのかつての相方Mike Inkのディープダブ名義)の催眠的サウンドと2ndで見せたクラウトロックなアウトバーン小旅行がパーフェクトに融合したようにも感じられるが、よりテクスチャーとニュアンスが細かくなって、以前同様にループした(Loopingな)あのサウンドがやはりもっとも印象に残る。 その確信は(アルバムを聴くと)すぐに得られる。例えば”Is This Power”の暖かなベースのループや、”Then It’s White”のピアノや渓谷で響くようなヴォーカルサンプルはトランス感を出すというよりもラグジュアリーでクールな感じを演出している。過去の栄光を良しとしながらも巧妙で思慮深く創作に向かう彼を伺い知ることが出来る。もし”It’s Up There”や”Arpeggiated Love”がファーストアルバムの焼き直しのように表面的には聞こえたとしても、その第一印象は心地良い感覚とサウンドの新たな局面によって覆されるだろう。他の要素があるのだ。前期のトラックでのファンク間あふれるベースのブレイクや控えめにうねったシンセ音、そして「Are you gay?」と言っている機械的なヴォイスサンプルなどを彼の真骨頂と言えるヒプノティックなサウンドに仕立てている。だるくなって寄りかかる前の、快楽的ではないけれども少しだけ弛緩した、ウトウトした瞬間が再びやってくるのだ。 一方タイトルトラックで彼はバレアリックなディスコサウンドにも手を付けている。恍惚的なシンセドローンやゴロついたパーカッションにヴェルヴェッツをも思い起こさせるギターのソフトなループ。”Burned Out”も同様にイビザでぶっ飛んだようなヴォーカルサンプルに、前記のようなシルキーなギターループがエッジを削られてよりスロウなテンポで、よりふんだんにあしらわれている。Willnerがもし望んだならば、Victoria Bergstromの様な才人に混じって音楽を聴きながらぶらぶらするのに精を出すことも出来ただろう。纏めると、このアルバムは単なるLooping State of Mindではなく、今までの彼の多岐に渡る音楽を十分に満足のいく形で物語る作品である。彼がエレクトロニックミュージックの世界における、より鋭敏でラテラルな思考の持ち主であることがよく分かるだろう。
RA