Various Artists - Total 12

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  • フェスティバルの季節も終わりに近づき、少しづつ夜が長くなる夏の終わりの季節に毎年届けられるKompaktのTotalシリーズ・コンピも12作目を迎えた。'03年の『Total 5』以降、すべてCD2枚組のヴォリュームでリリースされてきた当シリーズだが、今回は久々にCD1枚でのリリースとなっている。現在にいたるまでケルン・サウンドを決定づけてきたアーティストたちの名前に対し、より注目させようという意図もあるのだろう。SuperpitcherやMathias Aguayo、Gui Borattoといったおなじみのメンツやレーベル首脳の2人であるMichael MayerとWolfgang Voigtに加え、Jorg BurgerによるThe Modernist名義の復活、Wolfgang Voigtの実弟Reinhard、そしてBurger/Voigt改めMohnといった面々が並び、トピックは尽きない。 このシリーズをずっとフォローしてきているファンならきっと気付くであろういくつかの驚きがこのTotal 12には潜んでいる。このコンピレーションには密かに輝くような魅力が込められているし、Kompakt伝統のアンビエント・テクノ路線ももちろん健在だ。たしかに、こうしたレーベルカラーに基づく「らしさ」は意地悪い言い方をすれば予測できる分かりきったサウンドとも言い換えられるし、Kompaktのような老舗レーベルでさえ昨今めまぐるしく移り変わるシーンのトレンドにあって独自性をキープするのに苦労しているであろう実情も窺い知れる。しかし、このレーベルの良さを知る人ならば独特のリラックスしたムードに潜む煌めきをかならず感じ取ることができるはずだ。Michael MayerはWhoMadeWhoの"Every Minuite Alone"をゆったりとしたメランコリックなムードに作り替え、孤高の響きをたたえている。一方Superpitcherの"White Lightning"は眩いようなシンセと熱っぽいメロディに彩られ、彼が昨年リリースしたアルバム『Kilimanjaro』に収録されたどのトラックよりも力強い仕上がりになっている。 Kompaktと最近契約を交わしたばかりの注目デュオ、Comaは"Playground Altona"と題されたトラックを提供。メロディックなトランス的トラック構造を下敷きに、シンプルで飾り気のないリズムと揺れるようなベルの音色をうまく組み合わせている。このコンピレーションに収録されたトラックのなかでも、もっともヒプノティックな妖しさを放つのがWolfgang Voigtによる"Frieden"だ。オペラ歌手のサンプルを深く繊細に沈み込むようなパルス・トーンへと加工し、彼らしいクラシカルなループと組み合わせて、ぐるぐると駆け巡るような子守唄とでも言うべき独特のムードに仕立てている。Jorg BurgerのThe Modernist名義復帰作はその名も"Remodernist"と題され、煌めくようなシーケンスが散りばめられたパンピンなテクノ・トラックは'00年代前半を思い起こさせる仕上がりだ。 ここまで述べてきた内容だとやはり徹頭徹尾「Kompaktらしさ」にあふれたコンピレーションのように思えるのだが、良い意味でその予定調和を乱そうとするトラックも収録されているところも興味深い。まずMathias Aguayoの滑稽なクンビア調テクノ"I Don't Smoke"がそんなトラックのひとつだ。ふらふらとよろめくベースとトライバルなリズムの組み合わせはほとんどスタジオでふざけながら作ったような趣もあり、MathiasとRebolledoらしい胡散臭いフレーズが彼ら流のダンスミュージックにうまくはめ込まれていてコンピ全体のなかでも粋な刺激を与えている。Gui Borattoの"Drill"もまた異彩を放っていて、隙間無く埋められた音場に破壊的なシンセが暴れている。身体性は希薄で、まるで分厚い泡のなかに放り込まれたような感覚だ。間もなくリリースされるであろう彼の3枚目のアルバム同様、このトラックも以前の彼の作風にも増してダークで痛烈なムードを持っている。しかしその変化自体もどこかいびつな印象で、やはり彼はアーティストとして成熟することよりも無邪気な感覚のなかで戯れつづけることを重んじているのだろうと推測する。このコンピレーションに収められた「ヴェテランの夢想者たち」によるトラックのなかにあって、言うなればMathias AguayoとGui Borattoの2人はちょっとした人選ミスとも言えるが、同時に彼らのトラックの存在が効果的なアクセントになっているのもまた事実だ。
RA