Re:birth 2019

  • ゴア・トランスからエクスペリメンタルまで、音楽の幅広さとダイナミクスを兼ね揃えた千葉のフェスティバルが7年目の開催を迎えた。
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  • 例年いい噂を聞いてきたせいあって、Rebirthは気になる音楽 / フェス情報のアンテナに引っかかっていたフェスの一つだ。行ってみないか、という話が持ち上がったのは開催直前だったが、決断早くバスに飛び乗り千葉へ向かった。到着したのは金曜日の夜、暗闇と静寂に包まれた真っ暗な一本道で降車すると、気温は真夜中近くにも関わらずじっとりとしていた。会場に近づくにつれ、残暑を謳歌するコオロギの鳴き声が時折静寂を破り、空に垂直に伸びる閃光の瞬きが時折遠景の視界に映る。約1500人規模のフェスティバルがすぐそこにあるとは思えない静かさ、寂しさだ。 音楽、人、灯り、何かが起きる期待を胸に、ペースを上げて道を急ぐ。それに、オープニング・ナイトのアクトをなるべく逃したくない。10分もしないうちにエントランスに到着。この頃には、頭上に空を照らすライトが煌々と瞬いている。エントランスのテントが特徴無いのに引き換え、会場内の他の全ては特徴に溢れていた。採鉱場跡地を借りた会場はそびえ立つ巨大な崖を見上げる。湖があり、その水面に月の光が映ると同時に、巨大なライティング・システムを用いたヴィジュアル・ショーが崖に映し出され、夜の空間を理想的に彩っている。 池を囲む様に、異なるインターバルで3つのステージが配置されているこのフェスティバル。規模的には参加人数に対して小ぢんまりとしている。ステージ間の距離はそう離れておらず、簡単に行き来が可能ながら、音の干渉を防ぐべく配置が工夫されている。山の中腹に位置するメインステージに向かうと、メインアクトを務めるGoa Gilの丸一日セットが始まって約5時間が経過した頃だった。世界中で開催される彼の24時間セットの伝説については話にはよく聞いており、筆者は興味津々だった。金曜日のオープニング早々、フェスティバルが幕開けて間もない午後の7時にGoa Gilのセット開始を持ってくるタイムテーブルの組み方から、このフェスティバルのフォーカスやダイナミクスと言った事が読み取れる。焦点は、パーティー、レイヴ、愉楽と悦びに当てられている様だ。そして思惑通り形となっていた。
    派手にデコレーションされたステージはカラフルな照明に包まれ、まるで巨大な宇宙船が地球のレイヴを求めるオーディエンスの元にGoa Gilを連れてやってきたかの様な印象だ。地球離れしたトランスの音をダンサーに伝導するGil。ひたすら満面の輝く笑顔で、踊り狂うクラウドに向けて次から次へとゴア直送のレコードをミックスするDJブースに立ったGilを見ていると、ゴア・トレイン(もちろんソウル・トレインとかけて)に乗らないわけには行かないという気持ちになる。 高速のゴア・トランスで3時間ほど踊り抜けると、異なるトラック、BPM、方向性が欲しくなり移動することにした。そこにTobias.が格好の音を提供してくれた。過去に日本国内のフェスティバルで、より大きなクラウドに向けてプレイする彼を見たことがあったので、テクノだけでは飽き足りないRe:birthの観客の音のテイストに対してどんなプレイを見せてくれるのか興味深い。予想と裏腹にファンキーな曲でセットを開始したのに少し驚くも、間も無くすると彼のトレードマークである線形でドライヴ感のあるテクノに切り替わった。Gilの音が高速のゴア・トレインであったのに対して、Tobias.のセットは直線的で、リニアなドイツの高速道路を果てなく夜通しドライヴする光景を想起させた。だが、ジャーマン・ハイウェイもどこかで終着を迎える。Tobias.のセットが終わるや、僕は丘を登り、息を呑む様な景色を堪能する。夜を切り分ける様に、太陽の最初の日差しが忍び寄ろうとしていた。フェステバルを取り囲む景色は幻想的なファンタジーに見えた。灰色の無機質な東京のビル群を遠くに想う、わずか湾を挟んですぐなのだが、ここには、ごちゃごちゃとしながら喜びに満ちた理想郷が広がっているではないか。
    夜がすっかり明けると、雲ひとつ無い空が広がっていた。容赦のない照りつける太陽のおかげで、巨大な擦り鉢状のキャンプ場は土埃に包まれた。緑豊かな景色は、太陽の熱気で干からび、砂が舞い、希少な日陰だけが頼りだ。湖で泳ぐことで暑さを逃れる作戦を取った者も見られるが、ほとんどの観客は日陰に避難した。土埃、熱気、それから汗。そして、Goa Gil。彼は驚くことに、昨晩からブースに立ち続け、笑顔のままレイヴし続け、ゴア・トレインを走らせ続ける。底知れないエネルギーとポジティブなエネルギーに圧倒されずにいられない。暑い太陽に打ち勝てるのは、Goa Gilだけだ。彼が長引く、ゆったりとした、スペーシーなトライバル・アンビエントでセットを締めくくる中、ダンスフロアは、24時間かけて熟成したハーモニー溢れる一つの生命体の様に感じられた。盛大な拍手を送るフロアは愛と賛美に包まれた。 Goa Gilのゴア・トレインの乗り心地を数時間ほど堪能した後、Zvizmoがライブセットを披露する3つ目のステージに向かった。このデュオのセットは圧倒されるほど素晴らしかった。あらゆるジャンルを横断しながら、全てを一つにフュージョンさせる。ガバとグリッチが混ざり合うかと思えば、ヒップホップとハウス、ダブとドラム&ベースもフュージョンする。BPMが速度を増す中、彼らはクラウドをワイルドに踊らせ続け、最後の最後まで観客を楽しませ熱狂させた。Zvizmoのセットが真夜中に終わると、Akiram Enが夜の幕開けの役を担った。彼は先立つセットに反して、Vladimir Ivkovicの様なスタイルで、テクノのピッチをぐっと下げてプレイした。先行するZvizmoと、彼の後にプレイしたDJ Yaziと対照的だったと言ってよい。DJ Yaziは彼のシグネチャーであるダークでトリッピーなヴァイブを打ち出したプレイで、時間帯と会場によく合う音でダンスフロアを満員にした。Yaziに続くのはSecret Cinemaだ。20年に及ぶDJキャリアを誇るベテランの彼は、抜かりのない大箱テクノで観客の残りのエネルギーを搾り取るべく踊らせてくれた。 仮眠を取って目を覚ますと、接近中の台風の影響でフェスティバルのタイムテーブルは大幅に改変されたという知らせを受けた。セット時間を各々縮小して、なんとも遺憾な事にフェスティバルは時間を数時間切り上げて終了する事に。Luigi Tozziが彼のヒプノティックな音を聴かせる中、最後の日差しが近づく台風が連れてきた雲に飲み込まれ消えた。湖で最後のひと泳ぎを楽しむ僕は、来年のRe:birthではお天気の神様がもう少し容赦をしてくれることを願っていた。 Photo credit / Yumiya Saiki, Dana Nada
RA