花紅柳緑@浜離宮恩賜庭園 at Red Bull Music Festival Tokyo 2019

  • 美しい日本庭園をアンビエントミュージックで包み込んだコンセプチュアルなイベントは、非日常感に溢れていた。
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  • 約2週間にわたって都内各所で開催された、Red Bull Music Festival Tokyoの最終イベントが浜離宮恩賜庭園で催された。2017年から東京での開催がスタートしたこのフェスティバルは、ポップスやロックから、ヒップホップ、ゲーム音楽など、さまざまな音楽を包括したキュレーションだったが、今年は例年に比べて、よりエレクトロニックミュージックにフォーカスされていた印象だ。その中で主要音楽ベニューから挑戦的なロケーションを会場とし、異なるカルチャーを巻き込んだ創意に富んだイベントが目白押しで、回遊して深くフェスを楽しむことができたように思う。 この日の会場は、もともとは徳川将軍家の庭園で、その後は皇居の離宮となり、現在は都の文化財庭園という由緒ある場所だ。広大な敷地には歴史を物語る立派な木々が立ち並び、中に進んでいくと大きな池と茶屋が点在している。背景には高層ビルがそびえ立ち、その目に映る時代感のギャップが、伝統を守り続ける特別な空間にいることを際立たせていた。夜の暗い庭園には、あちらこちらにカラフルなライティングが施され、会場全体が一つのインスタレーション作品になっている。イベントが始まってすぐに3つあるステージの一つ、池の上に浮かぶ"中島の御茶屋"へHaiokaのライヴを見に向かった。それにもかかわず、靴を脱いであがる小さな和室のキャパシティは限られており、すでに順番待ちの状態。中に入るのは諦め、池にかかる橋の上から遠目に、テラスで琴を弾きながら電子音を重ねていく奥ゆかしさの表れたパフォーマンスをしばしの間堪能した。 橋を渡りきると、開けた丘の上にステージが設置された"富士見山下"に到着。Inoyamalandのライヴが始まるのを待ちながら、バーでドリンクをもらったり、居合わせた人たちとの会話を楽しんだ。特に近年、世界での日本の音楽の再評価の波が来ているが、海外レーベルによる80年代のアンビエント/環境音楽作品の相次ぐリイシューは、その大きな一端を担っていると言えるだろう。そうした流れを受け、渦中のアーティストである日本アンビエントの始祖Inoyamalandを大抜擢し、「環境音楽」や「和」といったキーワードに合致するRBMAの卒業生を集結させた今回のラインナップは見事である。しかも、こういった音楽イベントが行われるのは前代未聞だという、誰も想像していなかったであろう都内随一の日本庭園を会場にしたことで、これ以上にない最高にコンセプチュアルなイベントが出来上がっていた。
    Inoyamalandは、2人がシンセサイザーを弾いてセッションをしていくスタイルのライヴで、ピアノやオルガン音色のメロディーをベースに、宇宙的な電子音を散りばめたり、子供の声のサンプリングを重ねて、まるでおとぎの国にいるようなうっとりとした夢見心地の世界観を創りあげていた。この日強めに吹いていた風とスモーク、ライティングの効果も相まり、ステージは幻想的なムードで彩られていた。その後は"中島の御茶屋"へ戻り、Kate NVを橋の上から鑑賞。高田みどりを彷彿とさせるミニマルなマリンバの音や、どこか異国感の漂う自身の歌声、シンセなどを一つ一つ丁寧に積み上げていくライヴは瞑想的でもあり、アンビエントとポップが慎ましく混在する絶妙なパフォーマンスだった。最後は、会場の一番手前にあるステージ"鷹の茶屋"へYoshi Horikawaのライヴを見に。おろらくこの日で一番ダンサブルなセットだったのではないだろうか。鉛筆を走らせる音や、さざ波、虫のさえずりといった彼を特徴づけるようなフィールドレコーディングサウンドに、ビートと壮大なメロディーが組み合わさり、多くのオーディエンスが身体を揺らしていた。 どのパフォーマンスもじっくり聴き込むことはできたが、それ以上に、美しい庭園を散策しながら、聞こえてくる音や、目に映る景観、そこに居合わせた人との時間をゆるやかに楽しむような、その場に溶け込み合う状況、空間を総じて体感することのできたイベントだった。それが、なかなか非日常的な体験であった。
    Photo credit / Yusuke Kashiwazaki, Yasuharu Sasaki, Suguru Saito / Red Bull Content Pool
RA