ZINKandSILENTLISTEN at TPAM 2019

  • アコースティックとエレクトロニクスを駆使したインプロヴィゼーション・デュオが横浜でパフォーマンスした。
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  • 横浜を舞台にした国際舞台芸術ミーティング、TPAM(Performing Arts Meeting)が今年も約1週間にわたり様々なヴェニューで開催された。10年以上毎年開催されているTPAMのプログラムは、演劇やダンス、パフォーマンス系が大きな割合を占める。例えば筆者が参加した他の公演には、100人の人がカセットプレーヤーを持って音を再生しながら回遊するという、恩田晃ディレクションによるJosé Macedaの作品をAntibodies Collectiveが演出した「カセット100」がある。いわゆる純粋に音楽ライブのみをフィーチャーしたプログラムは少なく、あるとしても型から外れているような側面をもった内容に見受けられた。そうした独創性に富むプログラムの中で見つけた、横濱エアジンで開催されたZINKandSILENTLISTENのライブ公演に足を運んだ。 エアジンは1969年から続く老舗ライブハウスで、ジャズからフリージャズ、フリーインプロビゼーション、現代音楽まで実験的な新しい音楽が起こる場として存在している。20人も入れば賑やかな店内は、味のある年季と木の温もりを感じる暖かい空間だ。そこへ登場したのは共にベルリンを拠点とするドイツ人作曲家/ピアニストのStefan Schultzeと、スイス出身のクラリネット奏者Claudio Puntinから成るデュオ、ZINKandSILENTLISTEN。Puntinの方はMax LoderbauerとSamuel RohrerとのトリオAmbiqとしての活動や、Ricardo Villalobosとのコラボレーションでも知られる。このプロジェクトは両者ともそれぞれのメイン楽器に加えてエレクトロニクスを多用しており、Schultzeは様々なプリパレーションを施したピアノを内側と鍵盤の双方から打楽器のように使うこともあればシンプルに弾くときもあり、Puntinは2本のクラリネットをメインに笛やテープレコーダーなどの小道具も使う。そこに2人ともエフェクターを介して音色を加工したり、その場で生じた音を録音してループさせていた。 全部で1時間ほど演奏したように思う。1曲目でいきなり驚いたのはSchultzeが複雑な変拍子のリズム作りに挑戦していたことだ。ピアノを弾いて再生させてはそれを繰り返していた。他の曲では一瞬4つ打ちのビートさえも展開する場面があり、その時はじっと座って聴いているのが少々不自然に感じたほどだった。中盤あたりの、ミニマルなピアノ演奏の上に、Puntinが音域をマニピュレートしてマイク越しにハミングしたり、笛や手と息を使って風のような音を演出していた曲はとても美しく、荒涼としたどこか懐かしい不思議な物語の世界に迷い込んだような感覚におちいった。その後は一転して、ベースクラリネットが馬の鳴き声のように激しく鳴る、赤く燃え上がるようなエモーショナルな展開の曲も披露。アンコールに応えて、最後は、いくらか幻覚的な要素をともなった音風景の広がるダークなアンビエント調の曲で終了。2人の息が一番合っていたのか、どっぶりと深淵な域にまで連れていかれた、個人的にこのショーのベストトラックだった。満席のフロアからはたくさんの笑顔と盛大な拍手が送られていた。 見て聴いていて、自然と片方がループしたリズムを展開している間にもう片方がフリーに演奏するという構成がベースにあり、うまく調和しているように感じた。個々のスキルが高いことは明白で、そこにあうんの呼吸でコミュニケーションが取られていたのだ。一方でテンポが微妙にズレた両者の異なる固定されたリズムがぶつかり合い、ぎこちなさを感じる場面もあった。インプロならではの、その場で立ち上がった意思のある音が調和していくまでの展開が挑戦的でおもしろい。アコースティックの生きた音の魅力と、エレクトロニクスによって押し広げられた音のソースやリズムが溶け込み、そこから生み出される音楽的なハーモニーの可能性を探求している。そんなことを感じるライブパフォーマンスだった。
RA