Global Ark 2018

  • 群馬の美しい湖畔を舞台に、混沌とした雰囲気の野外イベントが開催された。
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  • 今年のGlobal Arkは開催地を変え、群馬県の山高くに安住の地を見出すことができたようだ。透明な水が輝くように美しい湖のほとりにある菅沼キャンプ村は、この3日間のフェスティバルに最適な場所だった。フェスティバル本番が始まる前の金曜の夜は、キャンプエリアのすぐ横にあるWood Landフロアだけを使い、静かにスタートした。Wood Landフロアは背の高い木々が並ぶ緑濃い森の只中にあり、DIYな雰囲気が強く感じられた。夜が始まった頃には、ほんの数人のレイヴァー達がフロアにいるだけだったが、Tomo Hachigaが登場した深夜過ぎには、観客はぐっと増えていた。彼のセットが場のヴァイブを、皆で飲んでパーティーを楽しく過ごそうという雰囲気に変え、完璧な森のレイヴへと変貌させた。Katsu AraiとKaisyu Kimuraが場を引き継いだ頃、僕はRiverエリアのオープニングに向けてちょっと早めに寝床についた。 森の隣の湖沿いにあるRiverステージは、すぐに僕のお気に入りステージとなった。フェスティバルの他のエリアから離れた小さな島のようになっていた。しかし完全に離れているわけではなく、ほんの100メートルほど先にあるメインとなるGroundステージのサウンドシステムの音が、Riverステージにも届いていて、音がオーバーラップしてしまう残念な時もあった。日中、観客の大半は森と湖の間を行き来していたようだ。カヌーに乗っている人もいれば、パドリングをしている人もおり、中には一人で湖沿いで何時間も楽しく過ごしている英国人男性もいた。
    僕はdewとCHAOSのセットを少し見てから、Upper Brothersが盛り上げ曲の応酬を重ね、観客を存分に沸かせているWood Landステージへと向かった。Upper Brothersは豪雨と雷をも物ともせず、雨が降りしきる中で歓喜の声はより一層大きくなっていった。僕は湖畔に戻り、Naoのセットを十分に楽しんだ。アンビエントとテクノの間を行く彼女のセットは、これから来る長い夜に向けて穏やかに準備を整えさせてくれた。次いでNgt.がブレイクスに大きく寄ったライブセットを披露し、Ruralの主催者でもあるAtsushiがこれに続いた。Atsushiはセットを通してBPMを次第に上げていき、スペーシーなテクノがやがてマントラ(呪文)へと化した。Groundステージへと赴く前にフードの出店が並ぶ小径に寄り道すると、辺りは多種多様な居酒屋の連なりのようになっていて、休憩したり、お喋りをしたり、夕食をしたりするダンサー達の誰もが笑顔を浮かべていた。 夜が深まる前に登場したDJ Yaziのセットは、僕にとって本フェスティバル中ベストのものとなった。またも天候の神が、フェスティバルには厄介な天気をもたらし、Groundステージをずぶ濡れで泥だらけなダンスフロアへと変えたものの、ダンサー達はそんな中で一体となり、それが幸い、彼のセットにぴったりのセッティングとなった。Yaziはほぼ1時間近く、4つ打ち以外の音であれば何でもプレイするような、従来的な枠組みを押し広げていくプレイをし、これが彼のDJスキルの確かな証しとなっていた。ゴールデンタイムにプレイするテクノDJには”パーティー向けのテクノ”を期待する人も居るだろうが、Yaziはそのかわりに、徐々に展開する、遅めでよりトリッピーな音楽体験を選んだのだ。観客の顔を見れば、それが正しい選択だったということは明らかで、皆が雨と音楽とを一身に浴びるひとつの大きな集団になっていった。
    続くJimpsterはハウスに大きく寄ったセットで場を引き継いだが、Yaziのセットの後にはちょっと厳しい方向転換だったようだ。彼のセットは確かなものではあったが、もしかすると先のYaziほどにはこの場にフィットしてないかもしれないと僕は感じていた。Bob Rogueのライブセットはよりダーク、よりトリッピーで、彼はシンセとモジュラーを多用し激しく盛り上がっていた。厳しい表情の中に時折笑顔を交えながら機材をコントロールし続ける彼のセットは、テクノのライブの可能性を見せるショーケースだった。すっかり満足した僕らは、朝方の霧に烟り、独特な様子を見せる湖の景色を楽しんだ。僕はフェスティバルが終わる直前に目を覚まし、なんとかDJ MIKUのセットに間に合うことができた。”Age of love”は、このトリッピーで、ある種カオスで、それでいて素晴らしいフェスティバルの締めくくりに、ふさわしい曲だった。
RA