MODE 2018: Kukangendai, Goat & Beatrice Dillon

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  • ロンドン拠点のプロモーターThirty Three Thirty Three (33-33) が6月から7月の数週間にわたり、坂本龍一をキュレーターに迎えたMODEという名のイベントシリーズを様々なヴェニューで開催している。すでに行われたイベントの中には、Barbican HallでのAlva Noteと坂本氏のコラボレーションライブや、細野晴臣のソロライブ、坂本氏とDavid Toopによるパフォーマンスなどがあり、坂本自身のプロジェクトを中心に、電子音楽やサウンドアートの世界における偉大なアーティストが出演した。そうした名前に並んで抜擢されたアーティストの中に、日本の次世代を担うエクスペリメンタルバンド、Goatと空間現代の2組がいた。彼らはMODEのショーケースとしてUK国内数カ所でパフォーマンスしたのだが、そのうちの一つでロンドンのハックニーにあるベニューOsloで開催された、2組が揃って出演したイベントへ足を運んだ。 会場はキャパシティー300人程の、縦長前方にステージがあるライブスペース。トップバッターの空間現代が始まる頃には程々に人が集まってきていた。ギターボーカル、ベース、ドラムからなる3ピースバンドである彼らのおもしろいところは、ノってきた途中でリズムやその速度を変化させたり、拍子の切り替えでリズムを掴み直してまたノるといった絶妙なズレ感が高い完成度でプレイされているところにあり、キレのいい跳ねたリズムがファンクのようなグルーヴを生み出していた。ボイスは良いさじ加減で入り、キーは他のパートとぴったり合っていた。また、秀逸なドラムのリードからベースとギターのリードに切り替わる瞬間や、今度は逆にドラムが壊しに入ってまた戻るといった行き来はとてもスリリングで見事だった。いきなり無音を挟み、ドラムが空振りになって次の音が入ったタイミングでは歓声が上がり、フロアの雰囲気は最高潮に達していた。
    周りを見渡すと会場は人でいっぱいになり、熱気を帯びていた。続くGoatのライブは、まずはメンバー4人がボンゴとコンガを奏でる、Steve Reichを彷彿させる極めてミニマルなリズムセッションからスタート。2曲目はマリンバ2台とグロッケンシュピールを使い、トライバルなリズムが野生的本能の世界へと誘っていく。その後はベース、ドラム、数種のパーカッション、サックスの編成に移行し、 計算された複雑なリズムを反復していく。中でもサックスがいい仕事をしていて、”フォン”と鳴くように聞こえる高音が、走り続けるタイトで乾いた他の音の中に色っぽさを添えていた。徐々にどんどん迫力を増していき、ギターノイズのような音が入ると一気に浮遊感に包まれ、シューゲイザーのような音像の世界観が繰り広げられていた。ピーク時には大喝采が沸き起こり、その温度を保ったままライブは終わりを迎えた。 最後にプレイしたのはUK出身のプロデューサーBeatrice Dillon。彼女はリズムがユニークな硬質で男前なエレクトロニックミュージックを展開していく。Ricardo Villalobosを想起させるような音色も見られ、テクノでありながらもポリリズムを多用したダンス仕様のセットでグルーヴを生み出し、一気にパーティー感のあるフロアへと変化させ、オーディエンスを沸かせていた。 しかし私は、先程の2組のバンドが続いた後だったため、どうしても人力によるダイナミズムが身体に残っていて何か物足りなく感じてしまった。少し時間が経つと慣れてきて、彼女のより多様で緻密な展開に脳と身体がロックされていくのを感じた。リズムやミニマルという共通項のもと、バンド編成によるこれまでにない手法や作曲で身体に訴えかけるサウンドのアプローチを探求しているバンド2組と、異端の電子音楽プロデューサーが一堂に会したこのイベント。アコースティックの楽器を使って人力で生み出される空気感と、エレトロニクスの正確さから生まれるグルーヴの違いを考えさせられた貴重な一夜だった。 Photo credit / Brian Whar
RA