Autechre at Liquidroom

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  • 闇はマジックをもたらす。大勢がひとつの場所に同じ目的で集まっている。周りに人の気配を感じながらも何も目に映るものがなく、周りの目も一切ない。そうした状況の中でAutechreの音に取り囲まれカラダ全身で浴びせられたとある瞬間、人間の感覚を超えるような感覚に迫る怖さと悦びを感じた。見えないことをいいことに本能のままに身体はうごめき、小刻みに頭は震れ、目はどこでもないどこかを見ていたかもしれない。意識が影へと近づくような至福の瞬間を体験できることはそうそうない。ライブが終わった時、驚きが隠せなかったし、短かすぎるとさえ感じてしまった。 Autechreの来日は2015年のTaicoclubに出演して以来3年ぶり。その時のライブ音源はホームのWarp Recordsからリリースされた。翌年にはアルバム『elseq 1–5』を発表。この春にはロンドン拠点のラジオ局NTSで4週間にわたり、全4回・計8時間のライブセッションを放送し、音源が『NTS Sessions 1-4』としてリリースされた。フィジカル版は現在出荷待ちの状態だ。そうした絶好のタイミングで来日が実現。かねてからWarpをはじめとする重要レーベル作品の国内ディストリビュート/レーベルとしての活動やイベント企画を手掛けるBeatinkが主催し、会場は、彼らのライブを聞くにあたってこの上ない音響環境を堅持するライブスペースLiquidroomで開催された。チケットは発売から即ソールドアウトし、1000人程のキャパシティーの同会場は身動きができないほど人で埋まっていた。 Autechreの出番10分前、バー前にいるとフロアに入るようアナウンスがあった。中に入るとすでに十分暗かったが、Skam Recordを主宰するAndy MaddocksのDJする姿がかろうじて見えた。そして完全にライトが落ち、歓声と共のAutechreのライブがスタート。70分に及んだ彼らのライブはつまるところアブストラクトで、どこまでも果てしない可能性を感じるような世界観だった。深遠な音響空間、立体的で構造化された音像、無秩序でどこまでも予測不可能な展開、記憶に残るメロディ、緻密なサウンドデザイン… 本当にいろんな一面がある。脳内へも身体へも訴えかけてくる。身体が覚えているリズムだけでもかなり広範で、異なるいくつかのジャンルを連想させた。 また、音のないスペースがたびたび存在し、そうした無音の静けさと音のある激しさの対比が空間に緊張感をもたらしていた。要所で会場から叫び声がたびたびあがる。ライブ中盤辺りに『NTS session 4』に収録されている、素晴らしく優美で幻想的なメロディが印象的なトラック“column thirteen”らしき展開に入った時が個人的なハイライトだった。そこに至るまでにも既にいろんな混沌を通りすぎ、そこを経てからの解放的な流れが気持ちの高ぶりに拍車をかけた。難解さと明快さ、スリルと安堵、拘束と解放といった相反する要素でさえも混在し、どのスタイルのサウンドも現代において究極に貫かれているところがAutechreの凄さであると感じた。
RA