Marginal Consort at TOKAS Hongo

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  • 即興演奏という視点で音楽を捉えてみると、ある一定の決まったリズムや構成をもとに展開される演奏から、より自由な形態になればなるほど、聞く側にとってそれは決してわかりやすいものではない。パフォーマーのアーティスト性と、その周りを取り囲むその場その時の状況でしか起こりえない偶発性が即興の醍醐味だが、中にはサウンドそのものや、そのサウンドが生まれる過程に意識をもっていかれがちなアート寄りなものもあるし、自分の中での基準ではあるが、これは音楽なのか?という疑問を抱くようなものもあったりする。しかし自由な即興であっても演奏を行うのが一人ではなく複数人、つまり同時進行で各自がパフォーマンスしていく形態になると、そこには意識的な、全体としての調和が少なからず目的とされているはずだ。この4人組の集団即興プロジェクト、Marginal Consortの3時間に及ぶライブパフォーマンス中で数度感じた、その調和の瞬間はまさに音楽的であり、それまで聞くことと同じぐらい見ることにも意識してライブを体感していたのだか、その時ばかりは目を閉じ、音の重なりに身を委ねてただただ感じることしかできなかった。 今井和雄、越川T、多田正美、椎啓の4人によるこのグループは、それぞれミュージシャンやアーティスト、サウンドエンジニアなど異なる分野で活動するメンバーが集まり、日本では基本的に一年に一度の頻度でライブパフォーマンスを、海外でもたびたび公演を行っている。今回は、アートネットワークのハブとして芸術文化を創造・発信する機関、トーキョーアーツアンドスペース(TOKAS) 主催のOpen Site 2017-2018のプログラムの一環としてライブが実現していた。会場となったTOKAS本郷内にあるキャパシティー数十人程のギャラリーには、四隅に演者とテーブルが配置され、ライブ中オーディエンスはその間の空間を自由に歩きまわることができるという、Marginal Consortのライブではお決まりの設定。私も何度か気になった演者の近くへ移動して凝視したり、座る位置を変えたり、それぞれの音が均等に聞こえる中央に腰を下ろしたりした。 始まってまもなく感じたのは、それぞれが独自の方法で音を創造という実験のほか何ものでもないということ。今井氏に至っては一見科学者さながらで、身近にある素材や日常雑貨とエレクトロニクスを組み合わせた発明機のような装置を使ってどこか懐かしい聞いたことのあるサウンドや意外なサウンドを生み出し、その斬新なアイデアと大胆なパフォーマンスに見ていて思わず笑みがこぼれてしまう場面が何度もあった。多田氏は様々な種類のパーカッションでリズムを奏でたり、木や竹など自然の素材とエレクトロニクスを用い、鼓動するパルス音に美しい素朴な鳴りの旋律をかぶせたりしていた。時にはだはだしい身体の動きを兼ねたそのパフォーマンスは、それ自体が美しいアートとして成立していた。椎氏は精巧に作られた自作の弦楽器などをメインに演奏し、このグループの中でもベースとなる、安定した低めのサウンドを淡々と出していた印象だ。越川氏は西洋/東洋の様々な笛や弦楽器などを中心に、控えめながらも際立ったメロディを奏でていた。 一人一人が楽器やパフォーマンスを次々と変えていくこのグループの演奏に、あらかじめ定められた決まり事などはないように感じた。それゆえ、音楽的なグルーヴやハーモニーが結実し高揚をもたらす瞬間の誕生は、奇跡に近い。アコースティックと電子音が絶妙に絡みあった、有機的な旋律に乗る心地良い感覚が強く印象に残っている。椎氏が、毎回ライブの時には新しい楽器を持ち込んでいるとプレイ後に語っていたが、多様な個として、集団として実験と調和を繰り返しながら20年以上にわたり活動を続けるMarginal Consortのライブからは、即興演奏の奥深さを感じた。 Photo credit / Toshiya Suda
RA