Spectrum Formosus 2017

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  • 台湾のSmoke Machineクルーがこの冬新たに立ち上げたフェスティバル、Spectrum Formosus。彼らはここ数年、アジアのダンスミュージックシーンと関わりながら、この地域でベストとの呼び声が高いOrganik Festivalを手がけている。そのため今回の新しいフェスへの期待は高かった。しかしこの2つのフェスティバルは多くの点で対象的な部分がある。Organikはビーチで開催されたのに対して、Spectrum Formosusは茶畑のある山の中を会場とした。音楽的にもそれぞれ別の世界観を提示しており、新しいフェスでは主にエクスペリメンタルやアンビエントのアクトにフォーカスを当て、バレーやヴァイオリン、他にも様々なエレクトロニックではないパフォーマンスを取り入れることでその要素を高めていた。 無数のヤシの木が立ち並ぶ小道を辿っていくとフェスティバルの会場に到着。精巧なインスタレーションがそこかしこに施され、魅惑的な空間を作り出していた。その道を先へ進むと、2つのメインステージがわりと近距離で設置されている。そこから目を遠くに向けると、会場を取り囲む緑豊かな山々とは対象的に、台北の街並みが一望できた。3つ目のステージへ行くには、草木の生い茂る湿地の上にかけられた吊り橋を渡る必要があり、その先の小道を抜けるとジャングルの中にある縦長の広場へと辿り着く。 2つのメインステージのプログラムは、オーガナイザーによってバッティングしないようにアレンジされており、ともに新しいアクトの発掘を目的として出演者が組まれていた。奥まったところにあるステージ3に限っては、秘密の遊び場のような雰囲気で、比較的音楽ディレクションが統一されていた。また、そこは3日間に渡って一番夜遅くまで開いていたフロアでもあり、終われない人たちの最終地点として機能していた。
    初日の金曜日は気温も低く雨が降っており、3日間の中でも一番厳しい日だった。Vice Cityのセットの最中だった夕方には、ようやくオーディエンスから笑顔が見られ、Yukaのプレイ時間になった頃にはさらに良い雰囲気になっていた。タイトに織り込まれた彼女パフォーマンスは、クラウドを夢心地にさせ、続くIlian TapeのAndreaは、雨の降るなか最後までダンサーをしっかりと捕まえ、徐々にブレイキーでレイヴィーなサウンドへとシフトしていった。 土曜日の始まりは一変して、雨もなく少し太陽が出た瞬間もあり、初日より多くの来場者が見られた。そしてついに待ち望んでいた、これぞフェスティバルといった雰囲気が醸し出されていた。トレッキングをしている最中に偶然この会場に辿り着いた年配のカップルがいたり、犬や赤ちゃんの姿も見られた。日中のダンスミュージックではないプログラムは、そういった予期せぬオーディエンスに最適だったように思う。この日、メインステージはKornerのレジデントAl Burroとバレーダンサーによる組み合わせのセットで幕を開け、明るいアンビエントが紡ぎ出されていた。
    橋を渡った先のフロアでは、ソウルのDJ Jesse YouがKポップやディスコに時折クラシックをミックスした、完璧とも言える土曜日のウォームアップセットをプレイしていた。一方のステージ1では、台湾の有名なインディーバンドForestsがスタート。彼らは元々ロック寄りだったが、最近はよりダークでエクスペリメンタルなサウンドへとシフトしており、ステージ前ではライブに合わせて、カラフルな衣装と強烈なマスクを身に付けた台湾の伝統演劇舞踏家たちがパフォーマンスを披露。視覚的にも印象的なショーだった。その後、隣のステージ2へ行くと、より抽象的なダンサーたちが待ち構えていた。白いペイントを身体に施したベルリン拠点のアーティストValentin Tszinを中心とした集団が、バレーを基調としたパフォーマンスを披露。生々しい、ヒューマニティを感じるストーリー性のあるそのパフォーマンスは、オーディエンスの目を釘付けにしていた。だんだんと日が暮れるにつれ、美しく彩られた雲が空を覆うなか、流れ星が見えた。暗くなった頃に、Tzusingが始まった。彼はMichael Jacksonの”Jam”から、KポップスターT.O.Pのおなじみヒット曲””Doom Dada”までをプレイ。様々な時代と国を超越したそのセットの背景で、茶畑は真っ赤にライティングされていた。続くは、このフェスティバルの中でも知名度のあるアクトの一組、Tropic Of Cancer。これまでの会場の雰囲気が一変、大勢のオーディエンスが彼女たちのパフォーマンスを一目見ようと押し寄せた。ライブが始まるやいなや、そこにいた人たちは皆、メロウでうっとりとしたサウンドに引き込まれ、多少の風や雨なんかはどうでもよくなっていた。
    その夜に雨は止み、日曜日は軽く太陽が出ていた。地元台北で活動するディープハウスのDJたちを聴こうと人が集まり、会場は早い時間帯からエネルギーに満ち溢れていた。Bass KitchenのメンバーであるInitials B.B.が、古い台湾のアンビエントトラックを織り交ぜた2時間のセットを披露し、同じくメンバーのYoshi Noriは、彼のトレードマークであるハウスサウンドをステージ3でプレイしていた。Shining Star from Tokyoと沖縄拠点のAtaは、日本のシーンのクオリティを証明するようなセットをプレイ。とりわけAtaは、ジャンルやムードを優雅に行き来しながらも、それらをスムースにミックスしてみせた。 いよいよフェスも終盤を迎えようとするなか、ステージ1ではRabih Beainiが準備に取り掛かっていた。日本の太古を思わせるような美しい音楽からスタートし、ヘビーなサウンドと、反復するキックやヒプノティックなヴォーカルとのバランスを絶妙にとりながら、時にトランス状態へともっていく。そこから、彼はオーディエンスをアフリカや中東の国々へと連れていき、アジアへまた戻ってきたりした。最後の1時間は、エモーショナルなメロディが押し寄せるキックドラムにまとわりつき、なんとも幻想的な、完全なる別世界へ来たような感覚に陥った。曇った空に強い風が吹き荒れていた。トリのVargは、Beainiとは異なる任務を果たした。1時間強に及ぶライブは、ダークでよりアンビエントな空間を創造し、時折その薄暗いムードは唸るベースラインやキックドラムによって破壊されながらも、最後はアトモスフェリックなムードで締めくくられた。3日間にわたる美しいフェスティバルの、最高のエンディングを迎えた。 Photo credit / Kaz Kimishita
RA