YPY in Kagawa

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  • バンドGoat/bonanzasのリーダーであり、birdFriendレーベルの主催でもある日野浩志郎によるソロ・ユニットYPYのライブをメイン・アクトに据えたパーティLuxが、香川県高松市のバー/イベントスペースであるノイズ喫茶iLにて行われた。イベントをオーガナイズするDJ Pheme、そしてHideaki TakimotoのDJによって練り上げられた、熱量を持った暗闇がフロアーに充満したタイミングで、YPYのライブが始まる。トラック名、というよりは暗号のような文字列と”現場用”のセッティング・メモがラフにラベリングされたカセット・テープが二、三十本ほど無造作にブースに並べられ、2台のカセットMTRとDJミキサーがドライブする。 湿気を含んだミニマル・ディスコダブ、90年代R&S Recrods風のハード・テクノ、ドローン・ブレイクなど、カセットからカセットを繋いで繰り出されるバラエティに富んだグルーヴは、ともすれば一見DJと変わらないように聴こえるが、ブレイク明けから(普通のDJ Mixであれば)ガツンと四つ打ちが入るタイミングで、BPMの違う次のトラックのゆるやかなシンセ・ノイズがフェード・インし、絶妙な「スカし」と「焦らし」が生々しく演じられる事で「ライブ」である事を担保している。ミキサーの右チャンネルから4つ打ちのトラックを、左チャンネルから別のトラックからクラーベのみを鳴らした(と思われる)中盤のブレイクの、さじ加減ひとつのポリリズムは、ライブのターニング・ポイントだった。フロアからの方々からの声援、うめき声がBPMを加速させる。 音の表面的な質感について。カセット特有のコンプレッサー/サウンドは、ドラムマシンの金属系のサウンドをことごとく鈍色にビットダウンし、ノイズ喫茶iLのコンクリート製のスクウェアな空間と相まって、Jamal Mossにも似た圧をもって迫る。「カセットテープの音を爆音で聴く」という体験のシンプルな驚き。またNaoto TsujitaによるVJも、この夜のデザインに欠かせないイディオムであった。90年代から西日本を中心にテクノ系のパーティで活躍する彼のVJは、「色」ではなく光と影、モノクロームで構成された映像でビビットなグラデーションを描く。ミニマルと言うよりは「頑固」という言葉の似合う彼の一貫した映像美学は現場で体験して欲しい。 ライブは一時間弱のコンパクトな展開でつつがなく終了……が、観客の熱気ある声援に応え、アンコールの準備。「ちょっと構成考えるんで...」と照れながら、積み重なったカセットの山を将棋崩しのように手繰る姿が、印象に残った。
RA