Houghton Festival 2017

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  • 「フェスティバルはそんなに好きじゃないんだ」Craig RichardsはかつてRAに、そう話していた。「大きいテントでプレイして、ひどい大きな音だったりする… そういうのは僕の好みではない」。それを踏まえると、Richardsがキュレートし、今年初開催されたフェスティバルHoughtonは、決してありきたりな内容になるはずがなかった。しかし同時に、4日間に及ぶこのフェスティバルがどれほどスペシャルなものになるのか、事前に予想することはほぼ不可能だった。ノンストップで音楽が鳴り続いた72時間ののち、会場から帰る際、このフェスティバルはヨーロッパで一番のフェスティバルになるのではないかという声も聞こえてきた。 Houghtonは、イリギス王族の邸宅の隣にある、絵のように美しい私有地、Houghton Hallの敷地内で開催され、Gottwoodチームがその制作を手がけた。会場は緑の生い茂る広大な森林地帯で、湖もある。UKのフェスティバルの多くで見られる音に関する制約はなく、音楽は24時間鳴りっぱなし。粋で素晴らしいプロダクションと、質の高いラインナップが見事に合わさり、非現実的なレイヴ・ユートピアが創り出されていた。 数あるステージはそれぞれに世界観が感じられ、何人かのDJは7時間以上プレイ。それらの体験は大抵が音にどっぷりとハマれるものだった。それに加え、ケイタイの電波はほとんどなく、会場の案内表示は最小限。それが拍車をかけ、客は皆、自分を見失うよう働きかけるというシナリオになっていた。最も壮観なステージはThe Quarryで、地中に掘られた円形競技場のような空間にレーザーが激しく飛び交っていた。野外ステージのThe Pavilionは、草木が生い茂ったところにあり、そこもファンタスティックな空間ができていた。しかし筆者にとって一番Houghtonの献身を見せられたのは、Brilliant Cornersのテントだった。その空間はまるでオーディオマニア向けのハウスパーティーさながらで、観葉植物やたくさんのクッションが置かれ、木製のダンスフロアーがそこにはあった。天井に吊られたランプが暖かいムードを作り、お香の匂いが充満。外の入り口には、John Coltraneのアルバムタイトルから拝借した”Giant Steps”のネオンサインが輝いていた。音は素晴らしい鳴りで、高価な(そして非実用的なほど壊れやすい)Klipshのスピーカーに、ヴィンテージのTechnicsターンテーブルユニットを備えていた。結果、最高にしゃれたヴァイブスが生まれており、再現したいと望むフェスティバルがあっていいほどだと思った。
    週末に渡って筆者は何人かの素晴らしいDJセットを聴いた。The QuarryステージのAndrew Weatherallは、控えめなテンポと慎重なトラックセレクションにおいてマスタークラス。自身のディスコカットを10分かそれ以上に引き伸ばし、そのサウンドがクラウドに響きわたるまでの長い間、彼は目をつぶっていた。The WarehouseステージのRareshはもう一人のハイライトで、両サイドが外に抜けた広い格納庫のような空間で日の出時間にプレイし、じらされるような、何ともよくわからないハウス寄りのミニマル・サウンドを淡々とかけていた。他にも、汽車でしか辿り着くことのできない、マップに載っていない半シークレット・ステージでプレイしたSonja Moonearも素晴らしかった。セットの最後の瞬間は、独特の陶酔状態となり、滅多の聞くことのできないメロディックなテクノで締めくくられた。 そして、おろらくこのフェスティバルで最も期待されていたセットは、Craig RichardsとRicardo Villalobosのバックトゥーバックだろう。2人は日曜の朝に8時間プレイした。彼らのfabricでのパフォーマンスと同様、最初の方は不快なほど忙しない。しかしクラウドがまばらになりヴァイブスが緩むにつれ、改善されていく。木々の間をすり抜け太陽の光が差してくると、音楽は妙によじれた展開になっていく。Vincent J AlvisのUKカラージ・トラック”Body Killin (M Dubs Remix)”が、Liz Torresの80年代クラシック”Can't Get Enough”にミックスされると、Villalobosが気をおかしくさせるようなドローンをプレイし、そこにカッティングしたドラムトラックをランダムに混ぜていく。その後、彼はブースからしばらくの間姿を消し、戻ってきたかと思えば2枚の同じレコードを使ってとんでもないミックスをしてみせた。早朝のこんなおかしな時間ですら、これまでの3日間が作用してか、歓喜に湧いていた。
    総計するとCraig Richardsはこのフェスティバルで20時間以上プレイしたことになる。セットとセットの合間には他のアクトも見ていたようだ。土曜日の朝、Gideonの卓越したルーツ&ダブ・セットを楽しんでいたほんの一握りの客の中に彼の姿を見かけた。Richardsがどこかで睡眠を取ったのは確かだか、全くいつかはわからない。彼の尋常ならぬスタミナが、Houghton全体のエネルギーへ反射しているかのようだった。多くのDJは、新しいスタイルを発揮できるであろう4時間かそれ以上の長尺でプレイ。金曜の夜のMidlandはニューウェイブから容赦のないテクノまで縦横無尽に駆け巡り、そこでかけたトラックの30%は、今までプレイしたかったけどタイミングがなかったレコードだったと筆者に話してくれた。 全体を通して、Houghtonには、フェイティバルというよりも良いレイヴで感じることのできる、快楽主義的なヴァイブスがあった。ドリンクはビールが£6と決して安くはなかったが、ステージはどこもとても精巧で大掛かりな作りであり、それくらい払う価値があると皆感じたはずだ。第一回目となった今回、天気もほとんど完璧で、それが功を奏したのは間違いない(もし激しい雨に見舞われていたらこのレビューもそれほど輝いていなかっただろう)。美しいロケーションに、良い音楽、見事なプロダクションを備えたフェスティバルは数多くあるが、何とも定義しがたいマジックが生み出されることは稀だ。そのマジックこそが、今回参加した人々の心の中に、Houghtonがこんなにもスペシャルな場だと印象づける隠し味になったと言えるだろう。 Photo credit / Jake Davis, Hungry Visuals
RA