XOXO feat. Kenji Takimi and Keita Sano at YEBISU YA PRO

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  • この数年、岡山からユニークなハウス・ミュージックのプロデューサーが続けざまに現れている。フランスのAntinoteからリリースしているInoue Shirabe、AltzによるAltzumusicaから今年デビューしたDaisuke Kondo…。中でも快進撃を続けているのがKeita Sanoだ。2014年のMister Saturday Night Recordsからのリリースに始まり様々なレーベルからハイペースに作品を発表。昨年はCrue-L Recordsよりフル・アルバム『The Sun Child』をリリース。サニーデイ・サービスや同郷岡山のバンド・ロンリーなどのリミックスなどを経て今夏、Mad Love Recordsを旗揚げ、リリース第一弾として自ら新作「Mad Love」をリリース。多作ぶりに比例する手数の多さを見せつつ、いずれもシカゴ・ハウスの無頼とアシッド・ハウスのナンセンスの巧みなブレンドにその作家性が刻印している。 そのKeita Sanoのライブセット、そしてCrue-Lを率いるKenji TakimiのDJをメイン・アクトに据えたのが今回のパーティだ。会場であるYEBISU YA PROはKeita Sanoのホームとも言える場所で、地方ながら石野卓球やtofubeatsがレジデント・パーティを持つ希有なクラブである。DJ FxJxTを始め地元DJらによって暖められたらフロアー。0時過ぎに、Keita Sanoがブースに登場。ラップトップと小さなMIDIコントローラーだけのコンパクトな機材だが、出音はパワフル。PAとしてKeita Sano『The Sun Child』のミックスも手掛けた得能直也‏を招いてのセッティングだ。 Keita Sanoのライブセットは、彼の手数の多さがそのまま反映されたワイルドな展開を見せる。フレンチ・タッチのディスコ・ループからプリセット・パターンのようにシンプルなアシッド・ベースへ、レイヤーの抜き差しよりはフィルター使いによって矢継ぎ早に自分の曲を連結していく。それは全体の構図よりもひとつひとつのパーツを舐めるように注視していく浮世絵のバランス感覚に似ている。特に中盤、Organumばりの長い長い金属的なドローンのブレイクから、じわじわとスイスのニューウェイヴ・デュオYelloの"Bostich"からサンプルされたマーチ風のドラム–––ポスト・パンクの隠れたダンス・アンセムであり、Kerri ChandlerやTodd Terryもサンプリングしたトラックだ–––が聴こえてきた時のグラデーションは鮮烈だった。 1時間強ほどのKeita Sanoのライブから、Kenji TakimiのDJにシフト。Keita Sanoが描いたアグレッシブなグルーヴを、Kenji Takimiは倍の尺でより繊細に演出してフロアーに還元する。オーガニックなドラムの音色が耳に優しいディープ・ハウスから、ボリウッド風のラグジュアリーなディスコ、Summer Madnessをサンプルした(あのサイレン・シンセは鳴らずにエレピのループが鳴り続ける酷暑の焦らし仕様)ハウス…と、こちらもバラエティ豊かながら、それを感じさせないシームレスなミックスに熟練の妙技を感じた。 気が付けば朝の5時、フロアーではKeita Sanoが恰幅の良いシルエットを揺らし、ご機嫌に踊っている。この日は冒頭で紹介したInoue ShirabeとDaisuke Kondoも会場に遊びに来ており、彼らは皆88年の生まれで、それぞれ中学もしくは高校から付き合いのある同級生だと言う。フッドの仲間と今でもつるみつつ、それぞれが東京を一足飛ばしに地下水脈を辿って世界のアンダーグラウンドと渡り合う…帰り道、始発の車窓から、朝日の反射がかすかに揺れる瀬戸内海を眺めながら、同行の友人と「まだまだ、これから面白いシーンが出来そうだ」と希望を語り合った。Keita Sanoを始め、彼らと彼らをサポートする地元のシーンに今後も注目していきたい。
RA