Dekmantel Festival 2017: Five key performances

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  • 今年のDekmantel Festivalの2日目の夜、スピリチュアル・ジャズ・アーティストのIdris Ackamoorはクラウドに向けて、彼のバンドはアムステルダムの地で45年前に結成したのだと語りかけた。現在66歳のAckamoorはその後、かつての自身のたまり場を幾つか列挙した。「Literary Caféを覚えている人はいるかな?」と彼は尋ねた。返事をする者は誰もいなかった。「Cosmosはどうだ?Cosmosくらい分かるはずだろ!」ダメだった。ようやく反応があったのは、彼が現在も営業を続けるParadisoの店名を挙げた時。オーディエンスたちから大きな歓声が沸き起こった。会場のBimhuisにいたクラウドは非常に若く、Ackamoorが初めてアムステルダムに来た時に訪れたスポットを知っているような年齢層ではなかったものの、彼の音楽は知っていたし、その良さを理解していたようだ。その数時間後に出演した73歳のブラジル人アーティストMarcos Valleに関しても同様だった。1983年に発表されヨーロッパでカルト的な人気を博した、ボディービルディングについてのブギー・チューン、"Estrelar"をValleが演奏している間、ほとんどのクラウドが歌詞を間違えずに歌っていた。 Dekmantel Festivalはこの5年間で、若くて物知りのエレクトロニック・ミュージック・ラバーたちを引き寄せる存在となった。ハウスとディスコ、テクノを中心としながらも、その音楽の守備範囲をじっくりと確実に広げ、同時にコア・アーティストたちを新たな高みへと導いた。2016年のメインステージでのMotor City Drum Ensembleの成功で大胆になった主催チームは、今年は数多くの変化球をプログラムに組み込んだ。DJ NobuやBen UFO、Antal & Huneeといったアクトがクロージングセットを託され、感動的な結末を迎えた。自身の才能を見つめ直すようなスロットにねじ込まれたアクトもおり、Nina Kraviz、Marcel Dettmann、Motor City Drum Ensembleらは、Selectorsステージのオープニングセットを担当。これは今年のプログラムの中でも特に賢明な決断だった。3人共このチャレンジにやる気を起こしていたようで、更にはクラウドたちが1日の開始時間に会場に到着することをを促していた。 それでは、この週末のキーとなった5組のパフォーマンスを振り返ってみよう。
    Steve Reich Dekmantelのオープニングコンサート・シリーズは、それだけでフェスティバルと言っていいほど急速な発展を見せている。木曜日のラインナップはほぼ全てがライブアクトで、ラテンやフリージャズ、ポストパンク、実験エレクトロニクスなどなど多様なサウンドをフィーチャー。その中でも、近年Dekmantelが如何に自らの道を切り開いてきたのかを最もよく示唆していたのは、水曜夜にコンサートホールMuziekgebouwで行われたSteve Reichのパフォーマンスだった。アメリカ人音楽家のSteve Reichは、トーナル・コードとリスナーを引き込むようなリズムで構成されるミニマリズム・スタイルで、アヴァンギャルド・ミュージックの人気獲得に大きく貢献した人物だ。その複雑さにも関わらず、いわゆるクラシック音楽には全く興味がなさそうな人たちにとっても聴きやすく、彼の音楽のファンは増え続けている。水曜のオーディエンスは年齢層が幅広く、ReichがClappingを演奏する為、オランダのパーカッション・アンサンブルSlagwerk Den Haagのメンバーの1人と共に登壇した時、クラウドからは温かいリアクションが感じられた。その後Slagwerk Den Haagは、Mallet QuartetMusic For Mallet Instruments, Voices And Organを演奏。マリンバや鉄琴、グロッケンシュピール(鉄琴の一種)のレイヤーの上で、パーカッションの倍音から生まれたであろう透き通ったヴォイスが漂っていた。そして90分間に及ぶDrummingのパフォーマンスでは、グロッケンシュピールの煌めくサウンドが、螺旋階段を転げ落ちる宝石のように鳴り響く中、オーディエンスたちはそれぞれが感じる異なるリズムで頭を揺らしていた。
    Ge-ology & Red Greg Selectorsステージは、Dekmantel 2017の成功に重要な役割を果たした。今回のフェスティバルの中でもトップクラスのビッグネーム数組が同ステージのオープニングを務め、最高のパーティーのスタートを切った。金曜のRed GregとGe-ologyによるB2Bは、その中のハイライトの1つだった。この2人のDJには、全く異なるバックグラウンドがある。Ge-ologyはニューヨークのヒップホップ・シーンをルーツに持つ一方、Red GregはUKのソウル・ムーブメントに関わりのある人物だ。この日の出番まで会ったことすらなかった2人だが、彼らのプレイはそんなことを全く感じさせなかった。彼らのディスコとブギーへの情熱が完ぺきに合致したようだ。ある時Ge-ologyがWebster Lewisの"There's A Happy Feeling"をドロップ。それは、Red Gregが個人的にリエディットして高い評価を獲得した、オブスキュアなジャズ・ファンクだった。そうしてお互いが相手のスタイルへの気配りを見せた瞬間が、この他に何度もあった。 そこからは、2人によるオブスキュアながらもたまらなくダンサブルな音楽の応酬が繰り広げられた。作られた年代も国も幅広く、聴く者を笑顔にさせるような音楽ばかりだった。また、どんなやり方をしていたのか分からないが、彼らのEQの使い方は少し魔法がかっていたようにも思えた。レコード1枚1枚がエネルギーに溢れ、ローエンドのパワーは過剰になりすぎることもなく大きく鳴り響いていた。セットが進むにつれ、Ge-ologyはディスコからアシッドハウスへと切り替え、ある瞬間にはレコード丸1枚を逆回転でプレイしてみせた。(これはシカゴハウスのRon Hardyにインスパイアされたトリックであり、Ge-ologyもしばしば使っている。)そのレコードがクラウドたちを混乱させ始めた時に、Red Gregが完ぺきにピッチのあったディスコ・バンガーを投下。フロアからはたくさんの拳が空に突き上げられた。
    Joy Orbison & Jon K GreenhouseステージでのJoy OrbisonとJon KによるB2Bセットは、今回のフェスティバルの中でもあらゆることがカチッとハマった瞬間の1つのサウンドトラックとなった。1日、あるいは2日間パーティーし続けることによってタガが外れてきていたあろうクラウドたちの間には、リラックスした流動性が感じられた。知らない者同士が混じり合い、ドリンクのボトルがあちこちに回され、人々のダンスの動きはどんどんとバカになっていった。ゆっくりと始まり、カオス状態で終わった2時間半のセットに、彼らは煽動されたのだ。 自然光がたっぷりと降り注ぎ、多くの植物でデコレーションされ、ブースが少し高くなっているGreenhouseのサイズは、DJたちによりディープで奇妙な選曲をさせる。それをJoy OrbisonとJon Kの2人は理解していたようだ。プレイ開始後、彼らはBPM120半ばで、蛇行するようなメロディーと絶妙なドラムのトラックの数々でテンションを組み上げていった。1時間程経った頃、ステージ全体からスモークが噴射され、男性達が上半身裸になる中で2人がドロップしたTheo Parrish & Marcellus Pittmanによるメロウなハウストラック"Questions Comments"は最高だった。筆者がその曲をShazamで調べたのは19時4分。そして19時19分に調べた次の曲は、Vybz Kartelによるダンスホール・トラック"Badda Dan Dem"だ。このようなことが、彼らのセットにおけるキーとなった。一度トイレへ行くと、フロアに戻ってきた時にはどんな展開でそこに辿り着いたのか見当もつかないようなトラックがかかっているのだ。彼らがプレイしていた曲をザッと挙げるだけでも、UKガラージのクラシック(Wookie "Down On Me")やクラシックハウス(Ron Trent & Chez Damier)、ダンスホールがもう数曲(Equiknoxx "Fly Away"、Ghetto Vanessa "Yuh Live Nice")、ボールルーム(LSDXOXO "Dope Dick Dealer")、そしてBabyfatherによるバンガー"Shook"などなど。Joy OrbisonとJon Kがこの日以前に共演したことがあったかについては不明だが、彼らによるB2Bは、Dekmantelの素晴らしい部分を際立たせるほど見事なセットだった。
    DJ Nobu UFOステージは、アムステルダムセ・ボスのその他のステージとは全く違った雰囲気を持つ。他のスポットには太陽光が降り注ぐのに対し、そこは暗く、汗ばむようなテクノ・テントで、今年はこれまで以上に暗く、じっとりと感じられた。(サングラスや眼鏡をかけていた人は、ステージの屋内に入って数分間はレンズが曇るという体験をしたはずだ。)巨大なダンスフロアの天井に格子状に吊るされた新しい照明は、アムステルダムの人気クラブDe Schoolを彷彿させた。そして、その他多くのフェスティバルのステージとは異なり、煙たい暗闇に包まれたDJの姿は、クラウド側からほぼ目視することができなかった。 土曜のプログラムはミニLabyrinthとでも言いたくなるような内容で、Donato DozzyとPeter Van Hoesenによる魅惑的なハイブリッド・セットの後、DJ Nobuが同ステージのトリを務めた。クラウドからDozzyとHoesenへの拍手が続く中、最初のキックドラムが鳴った瞬間から、Nobuが既にフロアをコントロールしていることが分かった。彼はハードで速いテクノをプレイし、ミックスを終える前にそれぞれのトラックをきちんと聴かせながら、フロアのエネルギーを高い状態でキープ。Mary Veloの"Methods"や、Phil Kieran "Wasps Under A Toy Boat"のPlanetary Assault Systemsは、特に莫大な効果を発揮していた。ビッグネームのオープニングアクトたちが早い時間の出番でも称賛を得たのと同じように、今回DJ Nobuがクロージングセットで成功を収めたのは称賛に値することだ。彼は実に守備範囲の広いDJであり、自分がプレイするのが東京の小さなリスニングバーで行われるマラソンパーティーであれ、巨大なフェスティバルのテントのクロージングであれ、しっかりとキメてくれる。Dekmantel 2017で挑戦を与えられた彼は、それを見事に乗り越えたのだ。
    Helena Hauff Antal & Hunee、I-F、British Murder Boys、それともObjekt & Call Super?この週末の終わりをどこで迎えるかを決めるのは、決して容易なことではなかった。だが、Boiler RoomステージでのHelena Hauffのクロージングセットには、一段と興味をそそられるものがあった。Hauffは現在シーンにおいて絶好調のDJの1人として広く評価されている。今や世界各地のクラブやフェスティバルに出演しているが、彼女が最初に認知されるきっかけとなった、揺るぎなく独特なエッジは、今も尚変わらない。その点に関しては、Boiler RoomはDekmantelの中でも安定したヴァイブスのあるステージだ。彼らがステージに使用している壊れそうな小さな小屋と、パーティーの様子が撮影されているという事実のコンビネーションが、盛り上がりの激しさを更にレベルアップさせていた。 Hauffもその盛り上がりを感じていたかもしれないが、彼女はそれを表に出さなかった。Hauffは冷静沈着のお手本のようなDJであり、彼女の周囲で大勢の人が激しく踊る中、テクノ、あるいはエレクトロ・ボムを素早く、そして正確にミックスしてみせた。彼女の選曲には、この瞬間の現実が映し出されていた。それは今年のフェスティバルにおける最後の1時間であり、突き抜けるしかないという時間だった。Thomas Schumacherによる"When I Rock"のようなトラックが、頭上で光る赤い照明と相まって、邪悪ながらも祝い事のようなムードを生み出していた。最後のレコード(Umekが2000年にZeta Reticula名義で発表した猛烈なエレクトロトラック)をかけながら、Hauffは髪を左右に振り乱し、大きな笑顔を見せ、完全にパーティーに没頭している様子だった。彼女の背後では水のペットボトルが飛び交い、少なくとも1人の人間がクラウドサーフィンをしていた。Boiler RoomのMichail Stanglがマイクを手にし、この週末にかけて全員が感じた一体感とリスペクト、そしてそれを日々の生活に生かすことなどを語った。陳腐に聞こえてしまうかもしれないが、最高のフェスティバルでは本当に夢のような気分を味わえるという考えを、彼はしっかりと捉えていた。
    Photo credits / Bart Heemskerk - Lead, Steve Reich, DJ Nobu, Helena Hauff, Hunee & Nina Kraviz, Young Marco, Call Super & Objekt, Muziekgebouw, Omar-S, Mainstage Kasia Zacharko - Ge-ology & Red Greg, Joy Orbison & Jon K, Ben UFO, Joe Claussell, Yannick van de Wijngaert - Beatrice Dillon
RA