MUTEK 2017: Five key performances

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  • 2017年、MUTEKには多くの変化があった。約1週間に渡るこのショウケースは今年、日程を6月初めから8月後半に変更。モントリオールの競合カルチャーイベントたちを出し抜き、より涼しい天気の中開催された。また、同フェスティバルはライブアクトに焦点を当てていることで知られるが、今年はそのポリシーを緩めることで多くのDJを迎え、よりコンテンポラリーで自由な雰囲気を生み出していた。メインの4日間は、それぞれ異なった街(バルセロナ、ベルリン、メキシコシティ、ロンドン)にフォーカスし、新鮮なキュレーション的視点を提示。そして最も重要なのは、MUTEKがSociété Des Arts Technologiques(略称SAT)に戻ってきたということだ。この多層階のオーディオヴィジュアル複合施設は(施設内には3Dドームシアターも併設されている)、昨年の会場であるモントリオール現代美術館よりもずっとエレクトロニックミュージックに適している。 その他の点に関しては、MUTEK 2017はいつもと全く変わらなかった。大胆で、アイディアに満ち溢れ、そして常にカッティングエッジ。20年近く続くフェスティバルにとっては驚くべきことだ。エクスペリメンタルミュージックの最極端からZipのようなミニマルハウス、さらにはBeatrice Dillon、Max Cooper、Sensate Focus、Sarah Davachi、ESB、Nicola Cruz、そしてAurora Halalなど、あらゆる音楽をカバーした独創的で、包括的なラインナップとなった2017年は、同フェスティバルが2000年にスタートして以来具体化し続けてきたアドベンチャラスな精神を、再確認し、そして新たに活気づかせた年となった。 それでは、MUTEK 2017のキーとなった5組のパフォーマンスを紹介しよう。
    Deathprod 木曜のナイトプログラムは、MUTEKにおいてダンスアクトの最大のホームとなる収容人数2300人の大型クラブMétropolisにて、4組のドローンアーティストがパフォーマンスを行うという意欲的な内容だった。その締めくくりを担ったのが、ノルウェー人サウンドアーティストのHelge Stenだ。その巨大なスペースと強力なサウンドシステムには、ドローンアーティストたちがなかなか体験することのないであろうレベルのパワーがあった。そして、Stenはこの機会を最大限に活用した。 一筋のライトビームと、2つのシンプルなスポットライトに照らされた彼は、響き渡るドローンの波を放った。そこから連鎖するディストーションのパルスに切り替わった瞬間、オーディエンスたちははたから見ても分かるほどドキッとしていた。反復するごとにディストーションはよりアグレッシブになり、合間にある静寂はより緊張感を増した。ある瞬間、音楽が鳴り止み、静寂が10秒間続いた。それはまるで、ジェットコースターの頂上から降下する直前のようにも感じられた。 筆者の友人の1人はStenのセットについて、彼がこれまで聴いてきた中で最も大きな音だったと話していた。筆者自身は耳を擘く轟音の1つ1つの輪郭や変形に浸っていたが、その6分後には帰路に着いた。ただ床に座り、振動を感じているだけでも、感覚にかなりの負荷がかかっていたのだろう。それは、全神経を集中させる必要のあるアンビエントミュージックだった。鋭い高音を除き、中低音域においてはノイズミュージックと言ってもいいほど。筆者にとって、過去最高に強烈な音楽体験の1つとなった。
    Marie Davidson 土曜夜のMarie Davidsonのセットには、特別な空気が漂っていた。モントリオール出身、現在ベルリンを拠点とするこの人気シンセアーティストは、RoxymoreやMonolakeらと並んで、INTER_CONNECT Berlinショウケースのピークタイムに登場した。会場のSATはうだるような暑さだったが、彼女の凱旋ギグを体験した人は間違いない選択をしたことだろう。Davidsonのパフォーマンスは非常に力強く、高速のスネアと猛烈なキックから始まり、いつもより更にハードで、EBMにインスパイアされたスタイルになっていた。彼女の音楽の大きな特徴の1つでもある彼女自身のヴォーカルは、一時嘆かわしいサウンドミキシングに苦しむエレクトロニクスの下に埋もれてしまっていたが、そんなことはほとんど関係なかった。彼女がステージ上を闊歩し、動き回る姿は、今回のフェスティバルの中で最も印象的で、刺激的なパフォーマンスの1つとなった。
    Kara-Lis Coverdale Kara-Lis Coverdaleは、着実に世界的な評価を高めているもう1人のモントリオールのアーティストだ。Tim HeckerやOneohtrix Point Neverのような先駆的プロデューサーたちと比較されることの多いCoverdaleだが、彼女は拍動するメロディーと、明るく、大幅に加工され、時にシンセティックなテクスチャのあるミニマルミュージックのドローンが融合した音楽を作る。そのシンセティックなサウンドが、今回のMUTEKで初披露となったコンセプチュアルなライブパフォーマンス、『VoxU』では顕著に表れていた。(非)人間の声の可能性にフォーカスした今作は、パイプオルガンの音と、あらゆる種類の合唱のようなパッドや合成されたヴォーカルが入り混じっている。安っぽいサウンドが、ハイアートの域にまで高められていた。また、『VoxU』はCoverdaleのキャリアの中でも最も穏やかで、そして最もドローンな作品のうちの1つであり、不変の、時にリラクシングな雰囲気の漂う40分間のセットの間、ある1人のオーディエンスはヨガをしていた。 しかし、Coverdaleのパフォーマンスがスペシャルだった1番の理由は、フロアのコントロールの仕方にあった。彼女が出演したのは、SATの建物内にある3Dプロジェクション用のジオデシック・ドーム、Satosphèreで日曜夜に行われたResident Advisorのショウケース。その日は今回のフェスティバルの中でも最も眩く、どっぷりと浸かれるヴィジュアル体験の数々が繰り広げられたが、Coverdaleはそんなのはお構いなしというところだった。その代わりに、彼女は室内に張り巡らせた照明装置を、楽器のように使ってみせたのだ。照明の色はその時々のムードを反映するように変化したり、ある時にはコントローラーが見える程度の彼女の上の照明以外全てが消え、ほぼ真っ暗闇の状態になったりした。最も強烈な瞬間にはスモークを炊き、その後消散させた。明るくなっている瞬間は、ランプから発せられる熱さえも、パフォーマンスの一部のように感じられた。昨年のMUTEKではアップカミングなアーティストとして注目を集めたKara-Lis Coverdaleだったが、今年は自分の力でその実力を証明してみせた。
    You're Me 最近になって2人組から3人組になった、バンクーバー拠点のYu Su、Scott Gailey-Johnson、Aiden AyersからなるYou're Meもまた、Satosphèreに登場したアクトだ。彼らのパフォーマンスではLLLがヴィジュアルを担当し、壁と天井全体には白黒のコラージュが忙しなく映し出された。同グループは、2016年のデビューLP『Plant Cell Division』では牧歌的で彷徨うようなエレクトロニクスを展開したが、今回の彼らのサウンドは、よりディテールが細かく独創的で、ベースギターの音が目立ち、そしてフィールドレコーディングとオールドスクールなニューエイジのムードが融合していた。トリオは流れる水や熱帯雨林の雰囲気といった生命の音を、温かさと共に彼らのエレクトロニクスに注入し、その後スムースなバックトラックに心地良くキャッチーなヴォーカルを乗せた、Gigi Masinを彷彿とさせる新曲を披露した。それは、カナダのエレクトロニックミュージックシーンにおいて最も期待でき、特徴的なアクトの1組に成長しつつある若きバンドによる、予想外ながらも驚くほど自然なセットであった。 
    Kuniyuki 月曜未明の午前2時だったにも関わらず、今年のMUTEKの大トリを務めた日本人プロデューサーKuniyukiは、エネルギーに溢れた満員のクラウドを大きく盛り上げた。ビートレスなイントロの後、あっという間に活き活きとして遊び心のある即興的なムードを組み上げた彼のパフォーマンスは、今回のフェスティバルで最も記憶に残るものの1つとなった。彼は自身の機材セットアップの後ろで体を揺らしながら、7 Upの空ボトルや、その他様々な道具からドラムループを作り、足早のテクノ/ハウスビートを響かせていた。また、お馴染みのフルートも登場していた。 夜の盛り上がりが最高潮に達した時、1人のファンがステージに飛び乗り、Kuniyukiの後ろで両手を大きく振ったり、彼の周りで踊ったりし始めた。セキュリティスタッフがその招かれざるゲストをフロアに戻るようエスコートとした時、Kuniyukiはセキュリティを制止し、ファンにマイクを手渡した。そして彼は間抜けなメロディを大声で歌った後、ようやくステージから降ろされた。最初は不快だったその調子外れなヴォーカルを、なんとKuniyukiはサンプルとして取り込みループさせ、オーディエンスからは大歓声が沸き起こった。長く、シリアスなフェスティバルの後に集団のエネルギーが解放された瞬間、そして予想外の滑稽な瞬間があって、1つの素晴らしいフェスティバルが完成するのだと改めて思わされた。MUTEKは、世界で最もアヴァンギャルドなエレクトロニックミュージックフェスティバルの1つ。そしてモントリオールは、世界最高のパーティー都市のうちの1つである。この2つが組み合わさっているからこそ、18年たった今も尚、我々は彼らに驚かされ続けているのだろう。 Photo credit / Trung Nguyen
RA