Teenage Engineering - PO-32 Tonic

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  • Teenage Engineeringのpocket operator(PO)シリーズがスタートしてから数年が経つ。これまでPOシリーズは、単純なオモチャ、または最低限のハードウェアで何が生み出せるのかを調べる興味深い実験として見なされることが多かった(POシリーズについては、こちらのオリジナルレビューも参考にしても良いだろう)。しかし、スウェーデン・ストックホルムに拠点を置く彼らは、先日リリースしたドラムマシンPO-32 Tonicで世間を驚かせた。この製品には、これまでのPOシリーズから大きくシフトチェンジする新機能 - カスタムサウンドのロード - が追加されている。 PO-32 TonicはTeenage EngineeringとSonic ChargeのMagnus Lidströmによるコラボレーション製品だ。“Tonic” という製品名はMagnus Lidströmが率いるSonic Chargeが開発したソフトウェアドラムシンセサイザーmicrotonicにちなんでおり、PO-32のドラムシンセエンジンはmicrotonicがベースとなっている。Magnus Lidströmは、Teenage EngineeringのOP-1のCWOディレイを手がけていたが、PO-32は彼にとって新しいチャレンジとなった。モダンなプラグインの複雑なドラムシンセエンジンを、POシリーズで使用されている小型のマイクロコントローラーCPU(RAMの容量もGBではなくKB)に詰め込むためには、何ヶ月にも及ぶDSPとCPUマネージメントの試行錯誤が必要だった。 その努力の結果として生まれたPO-32は、microtonicが高次元で最適化されている製品で、microtonicはPO-32の演算能力の99.999%を使い切っている。この仕様の大きなメリットのひとつが、microtonicとPO-32の互換性だ。この互換性があるため、microtonicの最新バージョンがあれば、昔懐かしいダイヤルアップモデムと同じように音声信号を送ることで、microtonicで作成したカスタムサウンドをPO-32上にデータ転送できるようになっている。microtonic側から送られるインターネット初期を思い起こさせるトーンをPO-32の内蔵マイクがデータとして認識し、PO-32で使用可能なサウンドとしてロードする。尚、PO-32をスピーカーに近づけるのを好まない人は、オーディオケーブル経由でカスタムサウンドを送ることができる。 microtonicとの統合が図られているのはカスタムサウンドだけではない。ドラムパターンもPO-32に内蔵されている16個のパターンスロットに転送することができる。ただし、注意点がいくつかある。PO-32はモノラル出力・最大同時発音数4なので、ステレオ出力・最大同時発音数8のmicrotonic上で組まれたパターンをそのまま転送することはできない。そこで、転送プロセスをより簡単にするために、Magnus LidströmはmicrotonicとPO-32の統合用ユーティリティをいくつか用意している。たとえば、microtonicの「sound + pattern」の転送オプションを選択すると、「optimize for PO-32」と表示されているボタンが確認できるのだが、このボタンを使用すれば、最大同時発音数超過によるサウンドのスティーリング(超過した分だけサウンドが消されてしまう現象)を最小限に抑え、できる限りオリジナルのパターンに近づける処理が行われる。この機能を重視しない人もいるかもしれないが、この小さな機材の有用性を大きく高めてくれるものだ。
    PO-32は、他のPOシリーズ製品と同じワークフローデザインを数多く共有している。16個のサウンドと16種類のパターンが使用可能で、両モードは専用ボタン(sound / pattern)を押して切り替えることができる。最大同時発音数が4のため、16個のサウンドを縦4列に割って視覚化されているのは非常に重要なポイントだ。縦1列の中で別のサウンドを押せば、新たに押されたサウンドが鳴っているサウンドをスティーリングする。これは同列内の別のサウンドを押せば、オリジナルのサウンドをミュートできることも意味している。16個のボタンにはそれぞれ小さなアイコンが描かれており、どのようなサウンドがデフォルトで内蔵されているのかが分かるようになっているが、このスティーリングの関係を分かりやすくするために縦のラインも描かれている。 PO-32のエフェクトはMagnus Lidströmのクレバーな才能が発揮されている部分で、専用のDSPコードを追加する代わりに、microtonicのシンセエンジンを流用することで、疑似ディレイやビートチョップなど、様々な便利なエフェクトが生み出せる。PO-32も他のPOシリーズと同じ2つのノブを採用しており、これらを回転させれば各サウンドのピッチやパラメーターをモーフィングできるのだが、面白いのはパラメーターのモーフィングを担うノブだ。このノブはmicrotonicと同じモーフィングエンジンを使用しているため、ユーザーがノブの両端(上限・下限)の数値を設定して、その設定数値内でパラメーターを変化させることができる。Microtonicでは、このモーフィングはプラグイン全体に適用されるが、PO-32では、ひとつのサウンドにつき2種類のモーフィングバリエーションを組み合わせることができる。そしてピッチとモーフィングの両方をシーケンス内でパラメーターロックできることに気が付けば、この気取らない小さな機材が秘めている膨大なシンセシスパワーが明らかになる。
    今回のテストで筆者が感じた問題点はPOシリーズ共通のもので、特に気になったのは独立したミュート機能の欠如だ。ユーザーガイドには、同列内の別のサウンドを押せばミュートになると示されているが、一般的なトグルボタンで個々のサウンドをミュートできれば、PO-32はさらに使い勝手の良い機材になるだろう。また、オーディオイン / アウト端子にケーブルを接続するたびに、PO-32本体の音量レベルと同期設定をリセットしなければならない点も気になった。PO-32の内蔵マイクはオーディオケーブルが接続されるとオフになる仕様のため、microtonicからサウンドを転送したいと思った時に毎回ケーブルを抜かなければならないのはやや面倒だ。このようにいくつか小さな不満はあるが、PO-32は価格分の価値が十分にある機材だ。この低価格でここまで優れたサウンドを持つドラムマシンには出会ったことがない。 Ratings: Cost: 4.7 Versatility: 3.7 Ease of use: 4.0 Sound: 4.7
RA