Caprices Festival 2017

  • Published
    Apr 21, 2017
  • Words
    Luka Taraskevics
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  • スキーリゾートでの音楽フェスティバルは、もはや画期的なコンセプトとは言えない。アンドラにはSnowboxxやHorizon Festivalがあり、フランスのシャモニーにはChamonix Unlimitedがある。その中でも最も有名であろうSnowbombingは、2005年にスタートして以来、オーストリアの小さな街マイヤーホーフェンで開催を続けている。そして参加者たちは、晴れやかなゲレンデでの日中と、夜中に登場するビッグなラインナップというコンビネーションに魅了され続けている。だが筆者個人にとって、このコンビネーションはものすごく魅力的というわけではない。午前6時にパーティーを終えてからゲレンデに出るだなんてかなり危険な行為だし、すごく楽しいようには思えないからだ。 Capricesが目をつけたのはそこだった。同フェスティバルの舞台となるのは、南スイスの美しい高原クラン=モンタナにある3つの会場。そのいずれもが最高のサウンドシステムを備えており、あまり多くのアクトを見逃さなくて済むようにスケジュールが組まれている。スキーの時間がたくさん取れるプログラミングではないが(とは言え、アルプス全体で雪のコンディションが悪い時期でもあった為、その点に関してはさほど気にならなかった)、それこそがCapricesがライバルに差をつけている部分でもある。このフェスティバルにおける見所は、ハウス/テクノのビッグネームが登場する素晴らしいヴェニュー。雪はオマケに過ぎないのだ。 Capricesを手がけるModernity Eventsは、熱気球の中でのDJセットや、Ryan Crossonに高度3000フィートの山を通るゴンドラの中でたった8人の為にプレイさせるなど、ギミック好きなクルーとして知られる。Capricesの会場のチョイスからも、それを垣間みることができるだろう。3ヶ所のうち最もストレートなThe Moonでさえ、革新的なライティングと洗練されたヴィジュアルで全体が彩られていた。巨大なグレーのテント以外の何物にも見えない外観が、内装を一層引き立たせている。三夜連続で朝5時までパーティーが続くこのヴェニューには、Marcel DettmannやKerri Chandler、Cassyといったアーティストが出演し、この週末で最もビッグな瞬間の数々が生まれた。金曜夜にCassyに続いて登場したApolloniaは、そのだだっ広いフロアでどうも調子が出なかったようで、Jeff Samuel "Chloe's Brain"のようはバウンシーなハウストラックは、どうもしっくり来なかった。しかし、翌日の夜にはTalabomanとMano Le Toughの2組が、巨大な空間に必要な壮大さをしっかりと演出していた。
    また、Capricesは今年、クラン=モンタナのニュースポットCry d'Erで夕方のパーティーを行った。昨年12月にオープンしたばかりのCry d'Erは、海抜2,200メートルにそびえ立つ、巨大な常設会場だ。他の2つのステージと比べてもう少し谷を下った場所に位置する同ヴェニューは辿り着くのすら少し大変で、それだけの価値があったかどうか筆者には確証が持てなかった。マッターホルンの地平線に太陽が沈む素晴らしい光景の後、暗闇に包まれた室内は何の特徴もないクラブのようになってしまった。しかも、自宅からうんざりするほど遠い場所にあるクラブだ。
    3つの中で最もアイコニックなヴェニューであろうMDRNTYのステージは、巨大な温室のよう。山の端の方に建ち、麓にはヴァレー州の美しい街並を見渡すことができる。そんな場所で、Capricesにおけるベストパーティーが繰り広げられた。プログラムは週末中、昼から午後7時頃まで行われ、強力なラインナップ(Sven Väth、Craig Richards、Seth Troxler)と陽気なデイタイムのクラウド、そして素晴らしい景観のコンビネーションは、参加者たちにとって最高の思い出となったはずだ。 そして、フェスティバルのハイライトが起きたのもこの場所だった。Troxler、Richards、そしてVillalobosによるタッグチームだ。この日の彼らは皆絶好調。特に本領を発揮していたVillalobosは、ブース内を動き回りながら取り巻きたちとキスやハグを交わしていた。Objekt "Needle & Thread"のブレイクダウンの間に彼は痺れを切らしたようで、パンチの効いたハウストラックを器用に被せてクラウドを喜ばせた。
    日曜日は、フランクフルトの名門Cocoonが同ステージをテイクオーバー。同レーベルを代表するtINI、Dana Ruhという2人のアーティスト、そしてもちろんSven Väthがラインナップされていた。最終日ということもあり、人が集まり出すのに少し時間がかかったが、早く到着したクラウドは、Dana Ruhの洗練されたミニマルハウスで二日酔いを覚ますことができたはずだ。この日偶然にも誕生日を迎えたtINIは、午後2時頃に登壇。彼女はブース内を飛び回り、周囲にも伝染するほどのエネルギーに満ちたプレイを披露し、中でもInland Knights "12 'till 8"やSakro "No Time To Explain"などのトラックに大きなレスポンスがあった。クラウドの歓声が響く中、Väthがフェスティバルを3時間のセットで締めくくる為に姿を現し、フロアの空気は明らかに変わった。彼のセットはROD "Hor"のような辛辣なテクノから、Pig & Dan "The Saint (Job San)"のようなアップリフティングなコードまでと幅広い内容だった。 地元との騒音問題に関する厳格な同意書により、残念ながらアンコールのリクエストは受け付けられなかったが、Väthの誘いによってフロアからtINIに向けてHappy Birthdayの合唱が沸き起こった。その感動的な瞬間は、あの場にいた人たちの心にもきっとしばらく残るに違いない。
    Photo credit / Aldo Parades (Taloboman, Mano Le Tough, Sven Väth) Valeriu Catalineanu - Romanian Club Culture (Craig Richards, Ricardo Villalobos)
RA