Yussef Kamaal in Tokyo

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  • いざ当日を迎えると何とも言えない緊張感と期待で胸がいっぱいになった。「メンバーのHenry Wuが急遽キャンセルとなりました」 — 公演日から約2週間前、ベニューからの連絡に筆者は少し落胆していた。知り合いは「Henry WuがいないYussef Kamaalは麺を抜いたラーメンのようなもの」というジョークさえ言っていた。ドラムのYussef DayesとキーボードのHenry Wu(Kamaal Williams)から成るロンドン出身デュオYussef Kamaalは、昨年11月にGilles PetersonのレーベルBrownswood Recordingsより1stアルバム『Black Force』をリリース。70年代ファンクとグルーヴィーでスペーシーなジャズサウンドが混ざり合う、ボーダーレスで洗練されたその世界観は、新世代アーティストの中でも一目置かれる存在と言っても過言ではないだろう。今回の初来日公演では主要メンバーのHenry Wuが不参加となったものの、ある意味とても貴重で、期待を裏切らない、むしろ期待以上の素晴らしいパフォーマンスが実現された。 公演が行われたビルボードライブ東京は、六本木の複合施設・東京ミッドタウン内に位置するジャズ・クラブだ。ステージ裏は全面ガラス張りとなっており、都心のビル街が一望できる仕様で(演奏中は残念ながらカーテンが閉まるが、そのおかげで演奏に集中できた)、ブラックライトを基調とした店内の照明はポッシュな雰囲気をつくりだす一つのエレメントとなっている。吹き抜けが開放的なフロアはすべてテーブル席となっており、着席してカクテルを飲みながら(もしくはディナーを食べながら)、しっとりとした空間の中でアーティストの生演奏を堪能することができる。この日は仕事帰りのスーツ姿やカジュアルにドレスアップした30~40代の来場者が多く見受けられた一方で、カジュアルな服装の音楽ファンも混ざり合い、格式張らない心地の良い雰囲気が漂っていた。 カーテンが閉まると同時にYussef Dayesと演奏メンバーの4人が登場し、“Yo Chavez”でスタートを切る。リズムが波に乗るまで若干ハラハラする場面が見受けられたものの、この日2回目の公演だったこともあってか面白いほどに急速なペースで一体感が生まれたことに驚いた。特に気になっていた代役のキーボード奏者は、控えめではあるが申し分のないスキルでローズピアノとシンセの2種を交互に一生懸命奏でていた。力強くもメロウなギター、バックボーンを支えるベース、そしてなんと言っても全体をリードしながら圧倒的な存在感をみせるYussef Dayesのドラムには圧巻。完璧なリズム感をもった4人が奏でる音の一つ一つが体に染み込み、時折みせる空白のブレイクは心地良い緊張感をもたらすと同時に、オーディエンスの熱気を確実に上げていた。アルバム曲だけではなく、ギターによるソロ演奏、アンコールではメンバー全員による即興ジャムも行われ、熱気を増したフロアは最終的にスタンディング状態となり、1時間強に及んだライブは歓声と高揚感につつまれた中で終演を向かえた。 じんわり音に聴き惚れる時間や、鳥肌が立つような瞬間もあった今回の公演は、メンバー各々のエネルギーに満ちあふれており、特にYussef Dayesの超越したスキルは、良い意味でHenry Wuの存在を忘れさせてくれた(しかしながら次の公演ではぜひ2人揃った状態でのパフォーマンスを観てみたいのも事実だ)。ファンクやソウル、ジャズだけに留まらず、クラブミュージックの影響も多いに感じられるYussef Kamaalの音楽は、今後どのように進化していくのだろう。終演後に物販で購入したレコードが入った袋を握りしめ、ニヤニヤしながら帰路についた。
RA