Roland - TB-03 Bass Line

  • Published
    Feb 2, 2017
  • Released
    September 2016
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  • ターンテーブルとサンプラーはヒップホップのロジックに欠かせない。エフェクトとミキシングデスクはダブの言語体系を作り出した。しかし、1台の機材のサウンドがジャンルの中に独自のサブカテゴリを設けさせたことはあるだろうか? 議論の余地はあるにせよ、それこそが、Roland TB-303が1980年代後半に成し遂げたことだ。その結果、この世の中にはアシッドハウス、アシッドテクノ、アシッドトランスが存在し、我々は「アシーッド」、または「Everybody Needs A 303」と叫ぶのだ。しかし、これは誤用が生み出した典型的な結果だった。TB-303は、ベースギターの笑える代用品と捉える人もいれば、空を切り裂くサウンドだと捉えた人もいる機材だった。ある意味、TB-303は失敗作だったのだ。この機材は商業的に成功せず、設定目標に到達できなかった。 しかし、その失敗が革新的な機材として再評価には必要だったのだろう。20世紀後半に起きた音楽シーンの大きな方向転換は、ターンテーブル、エコー、壊れたアンプなど、様々なテクノロジーの誤用を好むようになり、その流れの中でTB-303も復活を遂げた。しかし、今やこのアプローチは使い古され、当時の衝撃は過去のものとなっている。そして、TB-303も数年ごとに消えては、また復活するというパターンを繰り返している。また、現在はソフト・ハード両方で数多くのエミュレーターが生み出されており、オリジナルの取引価格は年を追うごとに高くなっている。世間一般ではオリジナルを超えるサウンドはないとされているのだ。そして、このような流れの中、そして、オリジナルの発売から24年が経過した今、RolandがそのTB-303をBoutiqueシリーズのひとつ、TB-03として復活させた。このニュースを知った人の中には、その銀色の細く小さいパネルにプリントされたRolandのロゴを見ただけで興奮を感じたという人もいた。 もちろん、誰もが「果たしてオリジナルと同じサウンドなのか?」と疑問に思っている。Rolandのエンジニアチームはデータを活用してオリジナルのアナログコンポーネントの動作と波形について研究し、このデジタルレプリカを生み出したが、アナログ機材の再現は近年かなり進歩しているものの、オリジナルに長時間触れたことがある人ならば、TB-03のグライド、レゾナンス、アクセント、フィルターにオリジナルとの差を見出す可能性がある。逆に触れたことがない人は、TB-03のサウンドはオリジナルのようだと感じるだろう。TB-03は “アシッド” のベテラン向けに生み出された機材ではないのだ。これは、このアシッドサウンドに触れたことがない層や、インターネット上に大量に転がっているソフトウェアバージョンの代わりとなる低価格のハードウェアバージョンを探している層のための製品だ。TB-03は携行性に優れており、内蔵スピーカーとDAWとの統合性も備えている。これは完全なレプリカではなく、手軽なソリューションとして開発されたのだ。むしろ、Boutiqueシリーズについて筆者が会話をしたアーティストの多くは、このシリーズはあくまでライブパフォーマンス向きだと発言している。インターネット上のフォーラムはサウンドの精度に関する文句で溢れているが、彼らのようなプロフェッショナルなアーティストたちは、ライブ時に生み出せるインパクト、そして機内持ち込み用のスーツケースに入り、乗り換え時のロストバゲージのリスクを軽減してくれるそのサイズに魅力を感じている。
    TB-03にはオリジナルのやや不可解なシーケンス方式が引き継がれているが、新しいステップモードは初心者が簡単にパターンを組めるように配慮されている。しかし、ピアノロールを使用したMIDI入力で得られるような視覚的レファレンスが存在しないという、オリジナルのシーケンス方式の “魅力” と呼べる部分は残されている。このプログラミングにおけるややユニークなアプローチが、自分の脳を新しい形で刺激し、通常のアプローチでは生まれないようなパターンの作成を促してくれると感じている人もいる。筆者も今回のテストで数回に渡り、あらかじめイメージしていたパターンの作成に失敗しながら、最終的にそれより面白いパターンを生み出せた。“ハッピーアクシデント” という言葉は使い古されたものかも知れないが、オリジナルのTB-303はクリエイティブで面白いミスや苛立ちを次々と生み出す機材だった。TB-03もその点は同じだ。 また、TB-03は、望むのであれば、コンピュータからMIDIデータを送信したり、TRIGGER INを使用して外部ハードウェアと同期させたりすることも可能だ。特にTRIGGER INを使用した同期は満足度が高く、たとえば、フィルターを開き、レゾナンスをブーストさせ、エンベロープをモジュレーションさせることで、他のシンセやドラムマシンの上に、液体的な微妙なうねりを重ねることができる。これは、シンプルでドライなドラムループに奇妙なテクスチャを加えられる面白い方法だと感じられた。もうひとつポテンシャルを感じさせる方法が、キックドラムをTRIGGERと接続し、フィルターを閉じたまま、レゾナンスを下げ、エンベロープをブーストさせて、タイトなトランジェントのサブベースを加えるという方法だ。2つの信号をまとめてコンプレスすることで、非常に分厚いサウンドを生み出すことができる。 この方法を行う際に筆者が最も好感を持ったのは、矩形波を選択し、フィルターを閉じ、レゾナンスを外し、エンベロープをブーストした時だった。エンベロープが素早く動くため、明るいアタックで低域のサウンドを強調できる。この組み合わせは、ドラムの周囲を活き活きと跳ね回るような、シンコペーションさせた複雑なリズムのベースラインの作成に適している。また、このような設定は303特有のスクリームサウンドも生み出さないので、パンチの効いたベースライン用としては万能だ。
    オリジナルと同様、レゾナンスは非常に特徴的なバンドパスエフェクトを生み出すので、低域のラインよりも中域のラインの表現の方が適している。TB-03のノコギリ波は矩形波よりもフラットかつタイトなサウンドで、中域はよりブザー的に鳴るが、これをグライド、メランコリックなメロディ、そしてテールの長いリバーブと組み合わせればTin Man的なムードが生み出せ、そこにキックとハットを少し足せば、そのムードは助長される。エフェクトに関して言えば、TB-03にはオーバードライブ、ディレイ、リバーブが備わっているが、リバーブはメニュー内に隠されている。個人的には、トラック制作時には内蔵エフェクトではなく外部プラグインを使用したいと思ったが、AUXのチャンネル数が限られる可能性もあるライブ時にはこの内蔵のディレイとリバーブが役に立ってくれるだろう。 TB-03に関しては、操作が非常に楽しく、そのサウンドも意外なほど説得力があるという印象を持った。もちろん、生み出せるサウンドには限りがあるが、多少クリエイティブなアプローチを取れば、予想以上に万能な働きをしてくれる上に、そのユニークなプログラミング方法も意外な結果を生み出してくれる。個人的には、典型的なスクリームサウンドを使用しない時の方が楽しかったが、そのようなサウンドを求めている人にとって、TB-03は非常に便利なオプションと言えるだろう。96kHz・24bitのサウンドカードを備え、ハードウェアとソフトウェアの両方との統合性も備えていることを踏まえれば、その便利さは更に際立ってくる。現在のモノシンセ市場は、Make Noise 0-Coast(TB-03よりも高価だが)など多種多様な興味深い機材群で溢れているが、TB-03は、自分の手荷物の中にシグネチャーサウンドを忍ばせておきたい人にとっては最適な機材と言えるだろう。 Ratings: Cost: 4.4 Versatility: 3.9 Ease of use: 4.2 Sound: 4.1
RA