Pioneer DJ - Toraiz SP-16

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  • 16個のマルチカラーLEDパフォーマンスパッド、Roland TR-8スタイルのシーケンサー、そして7インチの大型タッチディスプレイを備えたToraizは、ライブパフォーマンスのハブ機材になるようにデザインされている。ToraizはCDJや他のPioneer DJの機材群と同期できるが、業界基準となっているそれらとの連携だけに機能が限定されているわけではない。Toraizはライブショー全体を統率することが可能で、Dave Smithの最新フラッグシップモデル、Prophet-6にも搭載されているCurtisフィルターでオーディオを自由に変えることも可能だ。 Toraizからサウンドを出力するためには、まずサウンドをロードする必要があるが、奇妙なことにToraizにはキットの概念が導入されていないため、パッドごとにサンプルをロードする必要がある。しかし、幸運なことにCDJスタイルのロータリーノブをクリックしてサウンドをロードしたあとは、単純に隣のパッドを押して、次のサウンドのロードへ移行できるようになっている。よって、かなり素早く16個のサンプルがロードできるが、この作業はライブ中に行いたいものではない。サンプルのロードはシンプルなフォルダ階層になっており、これはこれで特に問題はないのだが、大型のディスプレイを活かしきれていない。Rekordboxのタグやカラー、キー、プレイリスト、波形などとの互換性を備えるようになれば、Toraizはさらに優れた機材になるだろう。 パッドへのサンプルアサインが終わったあとは、サウンドのシーケンスを行っていく。各パターンは最大4小節で、各シーンには最大16個のパターンが収容できる。シーンは16個用意されているので、計算では256パターン、1024小節分のシーケンスが組めるということになる。シーケンサー経由で入力された各ステップのベロシティは固定されているので、ベロシティに変化を加えたい場合は、RECボタンを押してパッドで手打ちしてシーケンスを組む必要がある。パッドは硬めの感触だが反応性は良く、1/32に設定できるオートクォンタイズも自然だ。Toraizのオートメーションは、レコーディングではなく、ステップパラメーターエディットでプログラムするので、たとえば、パターン内のハイハットのリリースを長くしたい場合は、そのステップを長押しして、サンプルのリリースタイムを調整し、終わったらステップから指を離すことになる。
    ステップのタイプは、パラメーターだけに反映されて、サウンドをトリガーしないように変更することも可能だ。ステップベースのパラメーターエディットは他のスムースなオートメーションオプションと比較すると制限されているように感じるかも知れないが、実際はシーケンスのグルーヴの微調整で大いに役立ってくれる。しかし、残念なことにエフェクトのセンドレベルなどいくつかのパラメーターはシーケンサーを使ったオートメーションができない。 サウンドがロードされたあとは、ディスプレイ下のノブを使用して様々なパラメーターを変更させることができるが、タッチディスプレイ上でノブを押したり、指をスライドさせたりしてもパラメーターが変化しないという点は、やや残念に感じられた。基本的に、パフォーマンス面で考えれば、タッチスクリーンはもっと活用できたように思える。指で操作しやすいノブやスライダーが備わったアサイン可能なマクロページや、X/Yパッドがあっても良いはずだ。尚、フロントパネル左側にはタッチストリップが備わっており、ピッチかノートリピートを変化させることができる上に、2つのユーザーバンクを使用すれば、8個のパラメーターを同時に変化させることができる。これは優れた機能と言えるが、より細かいミキサー系機能は現時点では備わっていない。 エフェクトに関して言えば、最近のアップデートによってPioneer DJは4種類のインサートエフェクトを追加している。これらのエフェクトはセンドエフェクトとして設定することが可能だが、サウンドごとに1種類のエフェクトしか設定できない。これらのエフェクトの中でベストと言えるはLoFiだろう。これはオールドスクールなサンプラーのようにビットを粗くしたり、プリアンプゲインを上げてサウンドを歪ませたりすることができる。各エフェクトのパラメーターはシーケンサーで変化を付けられるが、これはノブのマニュアル操作よりも好ましく、面白い。 もうひとつの新しい機能と言えるのが、サウンドごとのLFOで、サンプルのスタートタイプ、ピッチ、エフェクトのパラメーター、MIDI CCなどのパラメーターを変化させることができる。これは非常に使い勝手の良いツールで、LFOの送り先を決めたあと、シーケンサーでレートとデプスのオートメーションを書き込めば、ユニークでクリエイティブなサウンドデザインが行え、さらには嬉しいサプライズも提供してくれる。これらはToraiz最大の長所のひとつで、ユーザーのクリエイティビティを刺激し、実験や変化の追加を促してくれるので、すぐに予想外のサウンド、マウス操作では生み出せないようなサウンドを生み出せるようになるが、サウンドごとに複数のLFOがアサインできるようになればさらに嬉しい。 パフォーマンスパッドの機能は、TRACKとMUTEの他にSLICEとSCALEが備わっている。SLICEはループを1~64個までスライスして、パッド上に配置する機能だ。現時点では勝手にスライスされるだけで微調整はできないが、Pioneer DJは、トランジェントスライスを今後追加するとしている。SCALEは選択したサンプルを音階でプレイできる機能だが、その内容は非常に限定されている。音階はアップのみで、ダウンはできない。また、オリジナルサンプルのピッチを変えない限り、オクターブやスケールのタイプを変えることも不可能だ。音階の変化がMIDI INで操作できるようになれば、よりフレキシブルなサウンドクリエイトが可能になるが、Toraizが本格的なスタジオ機材を目指しているのであれば、サンプラー機能については大幅に改良する必要がある。 言うまでもないが、Toraizは自分のサウンドをサンプリングできる。TRS端子のステレオ1系統が入力端子として備わっており、入力と同時にレコーディングをスタートさせるスレッショルド値の調整も可能だ。また、ひとつのサウンドにつき最長32秒までレコーディングできる。レコーディングされたサウンドは、設定されているBPMに合わせて自動的にタイムストレッチされるので、短いサンプルをレコーディングする時はオフにしておきたい。サンプルはループさせることが可能だが、クロスフェード機能がないので、クリックなしでループポイントを探すのは難しい。
    バックパネルにはTRS端子のステレオ4系統の出力端子が備わっている。これらはToraiz内で自由にアサインできるが、RCA端子で接続できても良かっただろう。RCAの入力端子があればターンテーブルとの接続が楽になり、RCAの出力端子があれば、DJミキサーとの接続が楽になっていたはずだ。TRS端子はサウンドクオリティの面ではRCAよりも優れているが、利便性を考えてRCAの選択肢があっても悪くないはずだ。 他のライバル製品に対してToraizが持っている最大のアドバンテージは、イーサネットを経由したPro DJ Link機能だ。この機能を使用すれば、ToraizをCDJ、XDJなど、対応している他のハードウェアと同期させることができる。同期は非常にタイトで、BPMを大きく変化させても瞬時に追従する。また、Toraizにはピッチベンドが用意されているので、必要に応じてマニュアルでのピッチ調整も可能だ。尚、最新ファームウェアによって、イーサネットと同時にMIDI DINとUSB経由の同期もできるようになった。これは、Toraizを経由したCDJとAbleton Liveの同期や、ToraizとDAWの同期ができることを意味する。 Toraizには小さな問題がまだ数多く存在し、Pioneer DJはゆっくりとそれらの解決に取り組んでいる。発売するのがいささか早すぎたようにも感じられるが、ハードウェアとしては非常によくできており、よく考えられている。また、このレビューを書いている時点ですでに大幅なファームウェアアップデートが行われており、Pioneer DJがユーザーのフィードバックに耳を傾けていることは明らかだ。Dave Smith製フィルターは素晴らしい追加と言える。DRIVEノブは、自分がToraizで組んだトラックをDJセット中のマスタリング済みの他のトラックに上手く馴染ませてくれる。尚、現時点でフィルターはマスターチャンネルにしかアサインできないが、トラック別にアサインできるようになる予定だ。 ライブパフォーマンスは非常に複雑でパーソナルなものになる場合が多いが、Pioneer DJはベテランパフォーマーと、ライブパフォーマンスに興味は持っているがどうやって始めたら良いのか分からないというビギナーの両方を満足させる中間地点を上手く見出している。USBスティック上にプロジェクトをセーブできる仕様は、DJセット用のUSBスティック1本とライブパフォーマンス用USBスティック1本だけでクラブへ行くことを可能にしており、エレクトロニック・ミュージックのライブパフォーマンスの敷居を下げている。全体的には非常にエキサイティングな機材という印象で、そこにはデザインの優秀さが大きく寄与している。ファームウェアのアップデートが今のペースで続いていけば、ライブセットのセンターという意味で、ラップトップの強力なライバルになるはずだ。Rekordboxとの本格的な統合、Pioneer DJ独自のキットフォーマットの採用、MIDIファイルのサポート、タッチスクリーンでのパフォーマンス機能の追加などを是非実現してもらいたい。しかし、Toraizがスタジオ x DJのクロスオーバー機材市場参入へ向けたPioneer DJの第一歩であるならば、今後に期待できそうだ。 Ratings: Cost: 3.5 Versatility: 3.9 Ease of use: 4.0 Sound: 4.2
RA