The xx in Tokyo

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  • センチメンタルでメランコリー、どこか懐かしくもフレッシュなThe xxの音楽から受けるその印象は、今も昔も変わらない。彼らの創造するビートにのったオルタナティブで現代的なダンス・ロックミュージックは、飽きるどころか、聴くたびに落ち着く子守唄を聴いているような感覚に陥る。錆びることのない音を極限まで絞り込んだミニマルなラブソングは、どこか冷たくも温かい、靄がかったイギリスの曇り空を思い浮かべさせる。3rdアルバム『I See You』のリリースを来年1月に控えた彼らの日本での単独公演は3年ぶり。会場となった豊洲PITはファンで埋め尽くされ、彼らの日本での人気っぷりがうかがえた。 オープニング・アクトを飾ったのは、あたたかくソフトなメロディーにのせたR&B調のセクシーなボーカルが印象的な、南ロンドン出身のシンガー・ソングライターSampha。メインアクトを待ちきれない会場のオーディエンスに心地の良いエネルギーを与えた。いよいよThe xxの3人組が登場すると、新曲"Lips"を筆頭に、ヒットシングル"Crystalised"を披露。続く"VCR"では一気に会場の熱気を高めた。ボーカル2人によるアカペラ・アレンジが印象的だった"Basic Space"では、じっとりとした緊張感が漂う空気の中で、声の美しさに聴き入ることができた。さらにJamie xxのソロプロジェクトと掛け合わせた楽曲"Shelter / Gosh"は、ドラムンベース、ガレージ、ハウス、ロックを交えた独特のダンスミュージックによって、会場の雰囲気をより幻想的なものにした。 NirvanaやSonic Youthなどの90年代オルタナティブ・ロックバンドを彷彿させるほか、イギリスらしいアンニュイで洗練された、余分な音は含まれないミニマル感。太いベースラインとキック、美しいギター音にのせた男女のボーカルの掛け合いのバランスは本当に見事であった。ライブだからこそ実現する、アレンジを加え曲の一つ一つに個性をもたせ、かつ全体のバランスをとったストーリー性のある素晴らしいセットリストを体感できた。 この夜の問題を強いて言えば、会場内に1箇所だけ設置されたバーに並んだ長蛇の列である。この列のおかげで来場者の数十名はThe xxのオープニングを見逃しただろう。またサウンドシステムに関しては、少しボリュームを上げても良いかもしれないと思う瞬間があったが、20〜30代の落ち着いたオーディエンスの雰囲気のおかげもあってか、そんなことはすぐに忘れ、終始心地良く音楽に没頭することができた。アンコールで迎えた1曲目は新曲の"On Hold"。過去の作品と比べると、サンプリングやドラムマシーンが目立ち、ダンス色が少し強くなった印象で、1月リリースのアルバムへの期待がさらに高まった。ラスト2曲"Intro"と"Angels"は、思わずため息がでるようなしっとりとした雰囲気で、大満足なエンディングを迎えた。 活動開始から11年、そしてファーストアルバム『xx』リリースから約7年。サウスロンドン出身の3人の波長は日々変化し続けており、それらが一体化したときにこそ、彼ら独特の力を発揮するように感じる。歌詞はストレートなラブ・ソング。ロマンティックで幻想的ながらも、退廃的なアンニュイ感を含んだロックミュージックを築き上げる彼らの音楽からは、やはりイギリスの、心地よく切なくなるような、靄がかったダークな空を思い浮かべずにはいられない。 Photo credit: Ryota Mori
RA