Roland - TR-09 Rhythm Composer

  • Published
    Nov 16, 2016
  • Released
    September 2016
  • Share
  • もはや想定外とも言える形で、Roland TR-909はダンスミュージックで最も偏愛されている機材のひとつとなっている。発売当時このドラムマシンは売れなかった。また、数々の伝説を残してきたものの、そのサウンドの一部は非常に繊細な調整が必要とされる(シンバルを通したスペクトラムアナライザーのピーキーなディスプレイを見れば理解できるだろう)。しかし、逆に言えば、不朽の名作の創出に技術的な不安定さはほとんど影響しないということを理解するための最適な例とも言える。しかし、上記のような「欠点」があるにせよ、909の特徴的なサウンドはスーパーナチュラルに近いパワーを手に入れており、たとえば、そのハットは黄金時代そのものを体現しているように感じられる。この小さな機材がいかにしてサブカルチャーサウンド全体と共鳴する存在になったのかというストーリーは長大だが、実はサウンド自体はその長大なストーリーを生み出した数ある理由のひとつに過ぎない。 現在、ほぼすべてのDAWに優秀な909サンプルが用意されているが、オリジナルのTR-909は依然として4,000ドルを超える値段で取り引きされている。もちろん、TR-09、TR-8、TR-909、サンプルパックの “909” サウンドはそれぞれ微妙に異なる。しかし、音楽制作の視点から考えれば、その差がトラックのクオリティを左右するとは言いがたく、良くても “杞憂” 程度だ。しかし、世間の多くは今回取り上げているTR-09のサウンドがオリジナルのそれとどう違うのかについて知りたがっているように思える。TR-09にはTR-8と同じく、RolandのACBテクノロジーが用いられており、波形よりもコンポーネントのモデリングが重視されている。とはいえ、RolandはTR-09のためにACB用のチップを新たに開発しているので、TR-09とTR-8のサウンドは多少異なる。より一般的に説明するならば、そのサウンドは平均的なサンプルパックと比較すると、やや抑えられた、丸みを帯びたものになっており、オリジナルに近い。また、各サウンドはトリガー毎に多少の違いがあるので、TR-09で組んだビートはDAWのサンプルで組んだビートよりも “リアル” に聴こえる。しかし、サウンドの違いよりも、サウンドに何を加えるのか、どのようなシーケンスを組むのかの方が、ファイナルトラックに差を生み出す。“オリジナル音源” という存在は作り手をまやかす時がある。言ってしまえば、TR-09でトラックを生み出すことができなければオリジナルの909でもできない。そしてTR-09がその「差」を生み出せる可能性を秘めている部分がインターフェイスだ。 TR-09のコントロールは大部分がオリジナルと同じだ。TR-09のサウンドと筆者御用達のWave Alchemyのサンプルサウンドは大して違わない(特にサチュレーションとパラレルコンプレッションを通したあとは)が、生み出されるリズムやパラメータの変化の付け方には大きな違いがあった。個人的にはインターフェイスが自分のハイハットの使い方に変化を加えてくれる点が嬉しく思えた。以下のサンプルは筆者がTR-09を使用して組んだ最初のビートパターンのひとつだが、ハットとスネアの関係性はかなり満足できるものだった。このサンプルはステレオアウトをレコーディングしたものだが、ビート自体はインストゥルメントごとに組んだものだ。
    サウンドの大半には2種類のVELOCITYが用意されており、ステップごとのACCENTとTOTAL ACCENTも備わっている。ハットはクローズとオープンが消し合うようになっているので、VELOCITY、ACCENTの位置、TOTAL ACCENTの量、DECAYのリアルタイム変化を組み合わせたサウンドは非常にリアルで、シャッフルを組み合わせればその効果はさらに増す。これはスネアも同じで、TONEとSNAPPYを先に述べた機能と組み合わせれば、ヒスがかった、ノイジーなスネアパターンが組める。また、3種類のタムも同じで、ピッチを上手く変化させていけば、ベースラインを生み出すことができる。
    上のようなドラムサウンドは誰もが聞き慣れたもので、MIDIマッピングでも再現できるものだが、TR-09では瞬時に生み出すことができる。 TR-09を使えば、インストゥルメント間を行き来しながらパラメータを変化させることで、耳に残りやすいがディテールが細かいエナジーを簡単に生み出せる。インディヴィジュアル・アウトプットは備わっていないが、Micro USBで接続すればサウンドカードとして機能するため、インストゥルメンタルごと、またはグループごとにDAW上に書き出すことができる。これは、制作用機材としての利便性を大幅に高めてくれる機能だ。筆者の場合は、各トラックのダイナミクス系パラメータとリズムをしばらく試したあと、各チャンネルのベストパターンを抜き出し、更なるエディットを加えていった。直線的なダンスミュージックを制作している場合は、直感に従ってジャムするだけで、構成を変化させる方法が見えてくる。パターンに強度を与える場合も、ベースラインと空間系エフェクト以外はほとんど必要ない。また、筆者が制作中にTR-09特有の機能、内蔵コンプレッサーを使用することはなかった。これは複数のインストゥルメントをひとつのチャンネルから出力する場合に便利な機能で、主にキックドラムが強調される。
    オリジナルの909に触れたことがない人でも、10分もあれば、WRITEとPLAYの切り替え、TRACKとPATTERNの階層構造、STEPとTAPモードのスムースな操作などが理解できるようになる。この即時性こそが、TR-09の魅力の中心だ。正直に言えば、今回のテストでは、パターンを繋げてソングにできるTRACKモードはほとんど使用しなかった。PATTERNモードを使い続けるよりも、ややセットアップに時間がかかってしまうからだ。また、基本的にはTAPではなく、STEPモードだけを使用していたが、TR-09はシーケンサーを止めることなくTAPとSTEPを切り替えられるという点については触れておくべきだろう。PATTERN WRITEとPATTERN PLAYの切り替えは特にスピーディで、LAST STEPを4/8ステップを切り替えるのもビートリピート系のリズムを作り出せるので面白かった。TR-09は操作を体で憶えることができるので、1日、2日もあれば、完全な初心者でもJeff Mills的なジャムが楽しめるようになる。もうひとつの便利なワークフロー上の機能は、PATTERN PLAYモードが複数のパターンをリンクできるという機能で、これを使えば異なるパターンを連続でプレイバックできる。これは、インストゥルメントの編成をスムースに切り替え、エンドレスにシフトしていくパターンを組む際の連続変化を楽にしてくれる。
    ゲイン、チューン、コンプレッション、ディケイなどの機能は一部がメニュー内に隠されているので、各インストゥルメントのレベルノブをなるべく12時で揃えるために、多少の時間をかけてインストゥルメントごとのゲイン構造を学ぶことが重要だと感じた。ここでフロントパネルに並んだ各種ノブの話をしたいと思うが、ノブは小さく、狭い間隔で並べられており、表面も滑らかなので、ノブを途中で一度掴み直さなければ端から端まで振り切るのが難しく感じた。しかし、この問題は取り外し可能なスタンドを外して筐体を水平に設置すれば大幅に軽減された。 個人的には、TR-09の最大の魅力はトラックのアイディアを触媒として形にしてくれる点にあると感じた。筆者はこれまで909のサンプルだけを使って制作をスタートさせることはなかったが、TR-09のインターフェイスにはアイディアを先へ進めたいと感じさせるようなインタラクティビティが備わっている。音楽制作の楽しさの重要性を軽視し、実はそれほど重要ではない技術的な側面に気を取られてしまうことは多い。しかし、TR-09は非常に楽しく、簡単で、使いやすい。また、クラッチバッグ程度のサイズだが、そのサウンドも本格使用に十分なクオリティだ。 Ratings: Cost: 3.5 Versatility: 3.6 Sound: 4.1 Ease of use: 4.7
RA