Jeff Mills - The Kill Zone

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  • Jeff Millsはデトロイトテクノの古参アーティストのひとりとして並々ならぬ尊敬に値する人物だ。というよりも、30年近くにわたって品位や一貫性、そして、好奇心を保ってきたアーティストという意味で、彼は稀有な存在だ。テクノに限らず、自らの栄光に甘んじるアーティストが多い中、Millsは果敢な探求者としての印象を保ち続けている。 "The Hunter"はMillsが先日発表したアルバム『Free Fall Galaxy』から2曲目のシングルカットとなる。これに合わせて未発表トラック2曲を収録したのが「The Kill Zone」だ。『Free Fall Galaxy』が想像上の宇宙コンセプトを原動力にしていたのに対し、「The Kill Zone」で焦点が当てられているのは生存本能だ。心電図の発信音が無調のドローン上へ刻まれる"The Hunter"に身の毛がよだつ。多様な感覚が大量に襲ってくる"Asphyxiation"はリスナーを一気にクラブ特有の酩酊状態へと導く。そして"The Kill Zone"では9分間の宇宙遊泳が繰り広げられる。 とりわけ宇宙やフューチャリズム、SFといったお得意のテーマで、Millsは巧みに特定のムードや光景を想起させてきたが、今回本当に素晴らしいのは構成とアレンジにおける彼のセンスだ。MillsがX-102でコラボレーションしたキーボーディストMike Banksと同等のミュージシャンシップを獲得することはおそらくないだろう。しかし彼はきめ細かく世界を構築する創造者としての聴覚を持っている。様々な音場で複雑に折り重なるリズム、対位法によるメロディ、雰囲気を醸すドローン、その他にも細かなサウンドディテールが全曲を満たしている。どの曲においても一貫して素材同士が作用し合って特徴的なパートを生み出している。その音楽は優れた実験的アヴァンギャルド作品のように複雑かつ微細、そして、豊潤だ。それでいて素晴らしい聞き心地を保ち続けている。
  • Tracklist
      A1 The Hunter A2 Asphyxiation B1 The Kill Zone
RA