Formula Sound/Funktion-One - FF6.2 L

  • Published
    Oct 31, 2016
  • Released
    April 2016
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  • 10年ほど前から、トップレベルのサウンドシステムを使用するクラブやダンスミュージックイベントを見かける回数が増えている。そのようなラウドスピーカーとアンプの大半は、至高のサウンドクオリティを目指すために金に糸目を付けずに細部までこだわり抜いて作り上げられたものだが、DJミキサーはよりコンシューマー向きで、シグナルチェインに弱点を抱えている場合が多い。もちろん、この評価は、オーディオマニアたちが発する情報をどれだけ真剣に受け止めているかによって変わってくる。そして、平均的なサウンドクオリティのDJミキサーが偏在し、多くのプロフェッショナルDJたちがそれを選択していても地球は回る。しかし、Formula Sound/Funktion-One FF6.2 LのようなDJミキサーのテストは、DJミキサーがサウンドシステムに匹敵するクオリティを誇る場合、いかに素晴らしいサウンドと共にひと晩が楽しめるようになるのかを明確に示してくれる。 FF6.2 Lの価格帯が発表された時、世間はその法外な価格を侮蔑した。このDJミキサーは4,000ユーロ(約45万円)を超える(Funktion-Oneは、販売価格についてはローカルディーラーに問い合わせることを推奨している)。つまり、FF6.2 Lを個人で購入するのは、ただの贅沢、または行き過ぎた行為でしかない。このミキサーはクラブ、機材レンタル会社、ツアーDJたちのリストやライダーに記されるためのものだ。このDJミキサーがここまで高額に設定されている理由は、Funktion-OneがこのFF6.2 Lを同社の他製品よりも劣るクオリティにしたくなかったこと、そして製造を担当したUKのFormula Soundが、アキシャルコンポーネントとリニア電源を採用して製造したことにあり、彼らは開発段階ではコストについて一切考えなかったとしている。人気DJミキサーを開発している他のメーカーは商業製品の開発サイクルを熟知しており、新機能・高機能を追加した新しいバージョンを定期的にリリースしているが、FF6.2 Lはヒットを狙って作られた製品ではない。むしろ、これは時の流れに耐え抜くことを目的として開発された製品だ。よって、FF6.2 LをXoneやDJMと比較するのは間違っている。しかし、ロータリー/4チャンネル版のFF6.2の開発が予定されていることは記しておくべきだろう。これが開発されれば幅広い層へのアピールが可能になり、触れる機会も増えるはずだ。
 FF6.2 Lは、市場に出回っているほとんどのミキサーを小さく見せてしまう。幅は広く、奥行きもあり、内蔵ファンが常に回ってブンブンと音を立てている。このようなサイズのため、各種コントロールは余裕を持って配置されており、金属製のノブにも重量感がある。6チャンネルのうち、2チャンネルはマイク/ステレオが切り替えられるライン入力で、激しいパフォーマンスを展開するMCや、動作が不安定な外部エフェクト、シンセ、ドラムマシンなどのピーキングを抑えるためのコンプレッサーが内蔵されている。2系統のAUXは外部シグナルルーティングに便利で、シグナルを6チャンネルのひとつに戻し、EQ、音量、コンプレッションなどで調整することも可能だ。
    FF6.2 Lの電源を入れてすぐに気づいた特徴のひとつが、ヴァイナルとデジタルの入力レベルの差だ。ほとんどのクラブでは、ヴァイナルの入力レベルをデジタル音源の入力レベルに合わせようとして、各チャンネルのゲインを上げることになる。そして、メーターを見ながらレベルを合わせているうちに、かなりの熱を持ってしまう時もある。しかし、FF6.2 Lは、ハイクオリティなプリアンプと余裕のあるヘッドルームが備わっており、非常にオープンな、空間的に余裕のあるサウンドが得られる。2チャンネル、または3チャンネルを立ち上げても、トラック同士がスペースを奪い合っているような感覚はなかった。むしろ、筆者はこのミキサーを使うことで、他のミキサーではそのような奪い合いが起きていたのだと初めて気がつくことになった。FF6.2 Lを通せば、小型のスピーカーでさえも非常に余裕があるサウンドに聴こえ、サウンド同士がスペースを奪い合うことなく、あらゆるサウンドの要素をミックス内に落とし込むことができた。また、下の写真のRicardo Villalobosのようにレッドに突っ込んでも、サウンドは耳障りなクリッピングノイズを発さず、サチュレーションが軽くかかる程度で収まるのだが、もちろん、これは推奨される使用方法ではない。
    サウンドがオープンに感じられる要因のひとつはフェーダーにある。いくつかの他のミキサーでは、30%以下に下がっているフェーダーはほとんど何の機能も果たさず、上げていくにつれて徐々にサウンドが聴こえるようになるが、FF.62 Lのフェーダーは、私が慣れ親しんできたそのようなフェーダーより遙かに下まで下げても、クリアにサウンドを聴くことができる。レベル調整においてかなり細やかなニュアンスの表現ができるように感じられるこのフェーダーは、トラックを丁寧に減衰させるのに非常に便利だ。低いレベルから2曲目のトラックを正確にミックスできるこのフェーダーは、全体のトーンのバランスを微妙に整えながら、イーブンなミックスを可能にしてくれる。もちろん、他のセットアップでもこれは可能なのだが、FF6.2 Lはそのディテールの細かさが他とは格段に違う。FF6.2 Lでは、自分の両手の操作と耳に届くサウンドが密接な関係を築いている。 FF2.6 LのEQは、DJミキサーのEQというよりも、ミキシングデスクのチャンネルストリップのそれに近い。4バンドはそれぞれトータルキルが可能だが、派手にカットできるにも関わらず、シグナルがやせ細らないようなスロープとチューニングが用意されており、フェーダーと同様、周波数帯域の微妙な変化が楽しめる。細やかな操作が可能なため、周波数特性を滑らかに辿ることができるのだ。 各バンドはダンスミュージック向けに上手く調整されているように感じられる。ローミッドはキックのアタックをコントロールし、DJミックスのピーク時に強烈なインパクトをもたらすことができる。ローは基本的にはサブベースをカバーしており、トラックをやせ細らせることなく、完全にカットすることができる。そして、ハイミッドはクラップ、スネア、ハットのハードエッジな帯域をコントロールすることが可能で、ハイはチリチリと鳴る最も高い周波数帯域をカバーしている。また、このEQでは、ハイやローを振り切って強調するような、他のミキサーでは耳障りで過剰に感じるアグレッシブな設定にしても、音楽性が保たれているように感じられた。
    フィルターは慣れるまでに少し時間がかかる。各チャンネルにはローパスとハイパスフィルターが1基ずつ用意されており、スイッチひとつで両フィルターが同時にオンになるため、オンにする前に両フィルターの設定を確認しておく必要がある。今回のテストでは、ハイパスを使いたかった場面で、バンドパスの設定のままオンにしてしまったことが何回かあった。しかし、このワークフローにはすぐに慣れるだろう。また、レゾナンスが備わっていないという点も他のフィルターとは異なる。乱暴なDJがレゾナンスを使うとサウンドシステムにダメージを与えてしまう可能性があるというのが外された理由だ。つまり、このフィルター2基は激しくてドラマティックなスウィープのためのものではないということになる。そして、サウンドの透過性の良さも他のフィルターとは違う。たとえば、ハイパスでは、サウンドが細くなったり、高域がヒスノイズを出したりすることなく、最後までサウンドを自然な形に保ったスウィープができる。要するに、FF2.6 Lはクラシックなロータリーミキサーと同じで、フェーダーとフィルターだけであらゆるミックスを簡単に行うことができるDJミキサーなのだ。尚、このアプローチは、クラシックなミックススタイルでプレイされるような、全帯域をカバーするナチュラルサウンドに向いているが、フィルターとEQを併用すれば、サウンドの構成要素を個別に抜き出すことができるので、トラック全体にハットやクラップだけを抜き出すことも可能だ。 今回のテストで一番印象に残ったFF6.2 Lの特徴は、オープンスペース、ゲイン、EQ、フィルターを組み合わせれば、自分がミックスで何をしようとしているのかについて、耳で細かく確認できるという点だ。ヘッドフォンを使うことなく、スピーカーから出力されるサウンドだけでミックスに集中し、手元の操作がサウンドにどれだけ影響を与えているのかが把握できる。ミキサーの操作ではなく、自分の耳を使った直感的なサウンドコントロールが可能だ。この特徴はかなり重要で、私も異なったプロダクションスタイルのトラック同士のミックスをかなりスムースに行うことができた。ひと言で言ってしまえば、FF6.2 Lはミックスをさらに楽しくしてくれる機材ということになるが、一般人がまず触れることができないハイエンドDJミキサーであることを踏まえれば、このクオリティはある意味当然とも言える。私たちがこのDJミキサーを自宅に持ち込める日はしばらく来ないが、クラブで使用するチャンスに恵まれた場合は、FF6.2 Lが希少なクオリティを備えたDJミキサーだということを耳と体で感じることができるだろう。 Ratings: Cost: 3.0 Versatility: 4.3 Sound: 4.8 Ease of use: 4.0
RA