Alpha 606 - Afro-Cuban Electronics

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  • 不朽のエレクトロ・リズムを追い求める信者たちの多くと同様、Alpha 606ことArmando Martinezも広範な神話性をTR808を用いたファンクネスに落とし込んでいる。DrexciyaがSF的な背景設定(英語サイト)を通じてアフロフューチャリスティックなアイデアを持ち込んだのに対し、Martinezが物語性を求めたのは地元のマイアミだ。キューバ移民の末裔としてマイアミに生まれたMartinez。彼の名義が示しているのは、反体制派グループのAlpha 66とRolandのドラムマシンTR606であり、彼の音楽ではアフロキューバンのパーカッション、マイアミベース、デトロイトエレクトロが組み合わされている。しかし、そうした背景設定を知らなかったとしても、もしくは、サンテリア儀式のパーカッションをMartinezが学んでいることを知らなかったとしても、Alpha606のファーストアルバム『Afro Cuban Electronics』は楽しめる作品だ。しなやかなエレクトロを多様に表現した本作では、このジャンル特有のベースとスネアのリズムが月夜の脱出劇というドラマ性で満たされている。 Underground Resistanceと同じく、Martinezも急進的なダンスミュージックを制作することが多い。"Shake"のようなトラックは引きつったようなファンクと持続するパッドから構成されており、Anthony Rotherの拡張的な初期作品を彷彿とさせる。BPMが113にまで遅くなった"Gauges"では、Rolandの骨格むき出しなリズムシーケンスの中で巨大なハンドパーカッションがきらめいている。"Guajiro"の"Alternate Jam"バージョンはストレートなデトロイトサウンドとなっており、はじけるようなスネアで打ちつけた殺伐としたミニマリズムが展開されている。 ボーカルが挿入されると、"カストロによる圧政からの脱却"という『Afro-Cuban Electronics』のコンセプトが明らかになる。"Engineered Flotation Device"ではトークボックスを使って「Engineered flotation device / Get it ready we leave tonight(工学浮遊装置を準備しろ / 今夜脱出する)」という詠唱的なコーラスが実現されている。"Defection"ではその脱出の理由が語られる。「唯一の選択肢は亡命だけだ。我々の考えを弾圧されたのがすべての始まりだった」と深いロボット声がつぶやく。 アルバム1枚分の価値に相当する最高級のエレクトロトラックで幕をきり、緩く物語性が持ち込まれる本作だが、その後は行く先を見失ってしまった印象になる。重々しい展開の"Dahomey"はかなり教科書なトラックだ。これまでの素晴らしいハンドパーカッションがここでは余計に感じられる。"Black Mermaid"で使われているのはグラつくベースラインと電子音響ドラムの混合物くらいだが、アルバム終盤に収録されたトラックとしてはそれほど特別感がない。 しかしハッとさせられる場面はまだまだある。最後の2曲は、キューバが彼方へと消えていく様を反映したかのような鮮明さを携えている。鼓動するローエンドは勢いをひそめ、"Endangered Cuban Crocodile"と"Boatlift"では、コンプレッションによって完ぺきに連鎖し合ったパートが希望に満ちた美しい混沌へと変化する。この2曲、特に"Boatlift"はPanorma Barのブラインドが開いて陽射しが注ぎ込まれる光景を思わせるが、同時に、そうした恍惚体験だけにとどまらない何かを感じさせる。『Afro Cuban Electronics』はMartinezの活動の集大成だ。その本質は、社会から取り残された考えが快楽の世界で極めて重要になることの更なる証明となっている。
  • Tracklist
      01. Afriba 02. Armambo 03. Shake 04. 808 Trax 05. Gauges 06. Whale Memory 07. Guajiro (Alternate Jam) 08. Engineered Flotation Device 09. Defection 10. Dahomey 11. Black Mermaid 12. Endangered Cuban Crocodile 13. Boatlift
RA