Ultra Japan 2016

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  • 今年は3日間で約12万人、1日に約4万人が集まったというUltra Japan 2016は、現在、国内最大規模のダンスミュージックフェスティバルとなった。元を辿ると、本祭であるアメリカ・マイアミのUltra Music Festivalは、音楽カンファレンスWinter Music Conference内のイベントとして1999年に始まったが、ここ数年で世界的なEDMブームと共に巨大化し、現在は各国で開催され世界的なムーヴメントとなっている。Ultra Japanは今年も去年に引き続きお台場にある公園を借り切って開催され、9月17日から19日の3日間に渡り行われたのだが、その初日に筆者は足を運んだ。設営された3ステージを大きく分けると、Main Stageはメジャー・シーンのダンスミュージック、Resistance Stageはアンダーグラウンド・シーンのダンスミュージック、Ultra Park Stageはチルアウトがテーマとなったステージとなる。 昨年に比べて幅広いラインナップとなり、電子音を取り入れたダンスミュージック全般を扱うフェスティバルとして進化した。今年の出演者ではDubfireや石野卓球などテクノシーンの大御所アーティストから、近年人気が沸騰しているトラップやトロピカルハウスなど新ジャンルのアーティストまで、さまざまなジャンルに触れられる空間を提供している。それでいて、フェスに普段行かないような人でも行きやすい敷居の低さもこのイベントの魅力だ。会場は都内近郊でアクセスが良く、近隣の公園と隣接した会場はリストバンドがあれば出入り自由で、近くのショッピングセンターで食事を取ることも可能。日常と非日常が地続きになった、初心者でも遊びやすい空間を都内近郊に作り上げていた。 昨年も参加したが、会場に到着するまでに明らかに参加者が増加しているのがわかる。最寄り駅の東京テレポートから地上に登ると、遠方からMajor Lazer & DJ Snake”Lean On (feat. MØ)”が聴こえてくる。会場までの移動道中はすでに混雑しており、入口付近では当日券を購入する人々の行列がざっと1000人以上並んでいるように見えた。昨年は3万人、今年は4万人という急増するオーディエンスの待望感を肌身で感じた。では、今回見た3つのステージを紹介したい。 ひとつめのMain Stageは、高さ10メートルはあるDJブースが設営され、昨年よりも数が増えた巨大なLEDディスプレイによって映像演出が常時上映され、曲のブレイクに合わせてステージ上部とDJブース前のファイヤーマシンから火柱が立ち上り、時折DJブース前で外国人ダンサーがパフォーマンスを行い華やかさを演出する。エンターテイメント性に特化したダンスミュージック・フェスティバル、その象徴的な場だ。まさにハレの場。この日の個人的注目株は、初来日のKygo。そのKygoを見に行こうとMain Stageまで移動すると、リストバンドをチェックするゲートに1000人以上の長蛇の列ができて、なかなか身動きが取れない。その後もステージ間の移動に20分近く掛かるなど、昨年までは快適に過ごせた会場のキャパシティが限界に来ているように思えた。Kygoの、南国でのバカンスを彷彿させるメロウなトラックはトロピカル・ハウスと呼ばれ、シーンに新しい潮流を生み話題となっている。ノーベル平和賞授賞式のパフォーマンス、リオでのオリンピックの閉会式パフォーマンスなど、まさにメジャー・シーンで活躍中だ。いままでのアップリフティングなプレイが多かったフェスティバル・シーンに対してのカウンター的なプレイが受け入れられ、ゆったりとしたひとときを過ごすことができ、その心地よさに身を揺らす人で賑わっていた。 続いて、2年連続出演のDJ Snake。Lil Jonとの”Turn Down for What”など自身のヒット曲を織り交ぜながら、US派生のダブステップ、トラップなど多ジャンルを横断するプレイが終始アップリフティングで客を煽り続ける。メロディアスなKygoと対象的なプレイ内容ともあって、激しく飛び回る客の振動でアスファルトの地面が揺れていたことには驚かされた。MCで客をしゃがませてブレイクと同時に飛び上がらせて盛り上げる”Get Low”のパフォーマンスも体験でき、フロアとのコミュニケーションが目に見える形で行われ、まさに記憶に残る瞬間となった。 ふたつめのステージResistanceは、この日Anna、RebootやNicole Moudaberなどが出演。このステージは、コマーシャルになりつつあるMain Stageのサウンドと区別されるようにオーガナイズされた、アンダーグラウンドミュージックに特化したスペースだという。ステージ前に設置されたサウンドシステムはVoid。音響面はクリアで音圧のあるクオリティの高い鳴りで、快適にダンスをできる環境が提供された。ステージ全面にLEDパネルが敷かれてシンプルでミニマルな映像が流れ、Main Stageとは対極的な映像演出で楽しませてくれる。しかしこちらのステージでもダンサーによるパフォーマンスもあり、それによってか、Nicole Moudaberのプレイでは曲のブレイクとともに、半分以上のオーディエンスが手を挙げて盛り上がる瞬間も起き、フェスならではの光景が見られた。 ステージをおおまかに比較してみると、Main Stageはジャンルは元よりさまざまなビートや音色、BPM、曲調の変化に富み、大味な曲をショートミックスする、抑揚のわかりやすい派手やかなプレイが多く見られた。それと比較すると、Resistanceは四つ打ちを中心とした、繊細な音にハマるロングミックスのDJプレイが主となり、各ステージの楽しみ方の違いを感じた。フロアキャパシティの大きさもあるが、メジャーとアンダーグラウンドは違った進化を遂げていることを実感した。 3つ目のステージとなるUltra Park Stageは、VIP向けチルアウトスペースと一般の芝生という休息を促す空間にスピーカーを向けたDJブースとなる。ただ数回通りがかった際に聞こえたプレイはアップリフティングなサウンドが多く、個人的にはアンビエントやダウンビートなどが流れていてほしかった。客層は20代が中心。10年後のシーンを考えると、彼らが今後の国内のダンスミュージック・シーンを担っていく一員になるのかもしれない。また同時に、ダンスミュージックという広い枠組みで捉えたときにアンダーグラウンド・シーンはどういう立ち位置なのかを体感させられる場でもあった。そして来年以降もイベントが巨大化を続けた際に、どういった成長を遂げるのかも目が離せない。 Photo credit: ©ULTRA JAPAN 2016
RA