Scheich In China - Scheich In China

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  • NinaとGood NewsはハンブルクのクラブGolden Pudelに所属するDJだ。ふたりのミックスは、不穏なアヴァン・インダストリアル的雰囲気に通ずる路線を開拓しているが、そこには同時に音響要素も含まれている。先日、Raimeが語ったように(英語サイト)、例えば、実物のドラムセットの音を耳にするとき、その音の向こう側にいる人物の存在やレコーディングが行われた空間も一緒に聞き取ることになる。NinaとGood Newsの選曲にもそれと同じ感覚があり、不機嫌なインダストリアル・サウンドをプレイする数多のDJたちとは一線を画している。彼らのレーベルV I Sで体現されているのがこの点で、特にScheich In Chinaの新作ではそれが特にあてはまる。 「Scheich In China」の両サイドではシンセサイザーの回路の中へリスナーを引き入れる。電流や電圧が作り上げるその内部機構は自然環境であるかのような様相を呈している。そのため、リスナーの好みや期待に応えようという意識はあまりないが、その背後では人間の存在感が大きく浮かび上がっている。Aサイドに収録された3曲の展開は抑圧と超越、もしくは、意図と偶発の間に位置している。 A1ではフィルターが少し開かれたり、音程が一時的に変化したりすることで重苦しいドローンの中に印象的な場面を生み出している。一度だけ打ち込まれるタムは沼の表面から顔をのぞかせている光景を思わせるが、ほとんどの素材は同じ周波数帯の中へ、隙間が無いにもかかわらず押し込まれている。A3では不揃いのビートが組まれており、本作では珍しくグルーヴを感じさせるトラックになっている。そのサウンドはぬかるんだ溝を汚れが這っているかのようだ。しかし、今回のオススメは明らかにBサイドだろう。フィールドレコーディングによって雨や過ぎ去る自動車といった自然環境音が捉えられているが、ラインノイズやシンセのテクスチャーによって現実世界と人工的アンビエンスの境目があいまいになっていくにつれ、リスナーの知覚が混乱させられる。足音が鳴り響く中、スローモーションのデスメタル・ギターが同じ場所で漂っているが、18分が経過するころには、そうしたサウンドの断片が広範な不安感を生み出している。
  • Tracklist
      A1 Untitled A2 Untitled A3 Untitled B1 Untitled
RA