Pan Sonic - Atomin Paluu

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  • Pan Sonicによる『Gravitoni』の幕を閉じたのは6分間に渡って大爆発を起こす"Pan Finale"だった。そこから伺えたのは、同作がフィンランドの2人組である彼らのラストアルバムになるのではないか、ということだった。同作以降、Mika VainioとIlpo Väisänenは多忙に過ごしているが、ふたりが長年行ってきた共同制作が再び行われることはなかった。2009年に行われたふたりの過酷なライブセットが2014年に発表されていたが、今回、彼らはついに新曲を収めた1時間に及ぶアルバムと共に帰ってきた。 『Atomin Paluu』は前代未聞という意味で新しい。収録された音楽はふたりが共に活動した過去5年間で録音され、フィンランドにある原子力発電所建設の同名ドキュメンタリーのために制作されたものだっだ(英題『The Return Of The Atom』)。電気と物理学を好み、巨大機械の内部機構のような音楽を頻繁に制作するふたりに相応しいテーマだ。Jussi Awardを受賞したこの音楽を(英語サイト)Vainioが編集したのが今回のアルバムだ。その結果は復帰作やグランドフィナーレというよりもPan Sonicのディスコグラフィから浮いた作品となっている。パワーエレクトロニクス好きには必須の作品ではあるだろうが、Pan Sonicが既に濃密なカタログを有していることを考えれば、入門作品としてはそれほど相応しくない。 『Gravitoni』が発表されるまでに、VainioとVäisänenは自らのサウンドを爆発寸前の状態にまで高めていた。約20年に及ぶ革新の日々を通じて、彼らはダイナミクスとボリュームの実験を行った後、本質部分で自らに火を放っていたのだ。『Atomin Paluu』には"Part 3"でピストン式に放たれるドラム音のように攻撃的な場面があるが、本作の大半は不思議な安らぎに満ちている。完ぺきに削り取られたファズの猛攻が展開されていないときは、ガラスの共鳴や不適切に接続したオーディオケーブルの不安なハムノイズのように薄く尖った音色が使われている。本作の半分は不安な気持ちを煽り、残りの半分は奇妙な美しさを感じさせる。 『Atomin Paluu』は緊張と開放をスリラー映画のように弄んでいる。VainioとVäisänenは極限に高められたサウンドの間を行き交うことで、素早く本作を挑戦的な作品へと変化させている。前半の乱高下に続いて、後半はわずかに勢いが弱まっている。ドローンが長時間にわたって引き伸ばされ、リスナーはそこに残された沈黙を楽しむことになる。その効果は最後の3曲が猛々しく登場するころには減退している。 サウンドデザインの面で『Atomin Paluu』はPan Sonicの最高峰として君臨するだろう。一連の完ぺきなスタジオ実験として本作を捉えると、極めて魅力的な瞬間が続いていくことになる。アルバム作品として本作は頑なではある。しかし、Pan Sonicのファンがこれまでに分かりやすさを求めたことなどあっただろうか? これまでVainioとVäisänenは常にエレクトロニックミュージックの限界を感じ取ってきた。そしてその片鱗は静寂と沈黙による重々しいパートと並んで本作にも表れている。
  • Tracklist
      01. Atomin Paluu Part 1 02. Atomin Paluu Part 2 03. Atomin Paluu Part 3 04. Atomin Paluu Part 4 05. Atomin Paluu Part 5 06. Atomin Paluu Part 6 07. Atomin Paluu Part 7 08. Atomin Paluu Part 8 09. Atomin Paluu Part 9 10. Atomin Paluu Part 10 11. Atomin Paluu Part 11 12. Atomin Paluu Part 12
RA