Matthew Herbert - A Nude

  • Share
  • Matthew Herbertは近年行っているレコーディングを「音を通じて物語を伝える」試みだと説明する(英語サイト)。普遍の真理を追い求める年老いた作家のように、最近の彼が綴る物語はかつてなく壮大でシリアスなものになってきている。2013年の『The End Of Silence』は、2011年にリビアに落とされた爆弾の音を5秒間録音したものから制作された。同作の繊細かつ冷ややかで抽象的な音楽は、リベラルな介入主義、インターネット時代における戦争リポート、サンプリング倫理といった暗示的なテーマの重さに押しつぶされていた。その鬱憤を晴らすかのようにHerbert名義で発表されたポップハウス・アルバムに続く最新作も同等に厳めしい。作品のコンセプトを支える音楽的要素は増えているものの、音楽とコンセプトが両立しているかどうかは引き続き疑問が残る。 「ヌードは何世紀にもわたってビジュアルアート表現の主要形態であり続けている。しかし、純粋な形において音楽のヌードはこれまでに存在してこなかった」と『A Nude』のプレスリリースに記されている。この点を正すため、Herbertは「24時間かけて個室で裸体のサウンド」をレコーディングして身体のあらゆる動作の音を捉えた後、8曲のトラックに「凝縮して整えた」そうだ。本作のサブタイトルは"The Perfect Body"となっており、年齢や人種などによって変わることのない、誰もが耳にしている普遍の身体を提示していることを意味しているが、残念ながら本作でHerbertが主題にしているのは女性ではないかと強く思わせられる。男性アーティストが女性の形態を描写する長年の系譜に沿って考えると、途端に本作の率直さから画期的な印象が少し失われる。Herbert自身の身体をレコーディングしていれば、もっと深みのあるコンセプトになっていたかもしれないが、もしかしたら彼は自分の射精音を何千人もの人々に聞かれたくなかったのかもしれない。 そのため、Herbertが音楽のヌードの制作方法について相克するアイデアを持っているように思えてしまう。そのアイデアの一端に位置する1曲目の"Is Sleeping"は、マイクを近づけて寝息を1時間レコーディングしただけで、一見何の処理もされていないトラックに思える。寝息が吐かれるたびに生じるざらついた音やリズムの微細なばらつきなど、馴染みのあるサウンドが新鮮で奇妙な印象に変わっていき、身体の姿勢を変えるという何でもない行為が音楽的性質を帯びるほど時間の経過が遅くなっていく。この対極に位置する"Is Hurting"では、Herbertは積極的な媒介者となる。ループする喘ぎ声やLee Gambleのような微かなパッドが流れる中、身体に響くパーカッションの衝撃が撃ち込まれる。彼が身体という音源からどのようにしてこのようなサウンドを生み出したのかは分からないが、その効果は劇的だ。 それ以外のトラックでは、日常のサウンドが複雑なモザイク状につなぎ合わされ、雰囲気は曖昧としていながら魅力的だ。"Is Eating"と"Is Moving"は共に強力で、衝撃的ですらある。しかし、さらにショッキングなものが最後に待ち構えている。そこでは、Herbertのアプローチが持つ細やかさが徐々に無くなっていく。"Is Coming"はタイトルから想像できる通りの内容となっており、ゆっくりとした昂ぶりの中、突如、めまいのしそうなクライマックスが訪れる。覗き魔的スリルを味わった後は、ほとんど何も起こらない。"Is Shitting"では、マイクを近づけて録った放屁や排泄の気持ち悪いサウンドから陽気なグリッチのリズムが削り出される。おそらくこれは遊び心に満ちたHerbertの手法の中で最も昔から行われているアレンジだろう。このアレンジをするときの彼は次に何が起こるのか分かっていない印象だ。残りの数分間をかけて、トラックは飛び散ったり、放屁したりしながら展開していくが、そこにはもはやコンセプトなど存在しない。
  • Tracklist
      01. is sleeping 02. is awake 03. is grooming 04. is hurting 05. is eating 06. is moving 07. is coming 08. is shitting
RA