rural 2016

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  • カッティングエッジなエレクトロニック・ミュージックの祭典=rural。通を唸らせるマニアックなアーティスト・ラインナップで知られる同フェスティバルが、今年より会場を長野県・湯ノ丸高原に移して、7月16(土)~18日(月・祝)に開催された。前売りチケットも予定枚数に達し、例年よりも盛況を見せたrural 2016の模様をお伝えしよう。 新会場、湯ノ丸高原の標高は1700m。山道を会場に向けて車を走らせると目的地に近づくにつれてどんどん気温が下がる。16日の夕方前に会場に着くと半袖では寒いほどだった。浅間山付近に一帯に延びる、上信越高原国立公園内にある新会場は、美しい山々に囲まれた素晴らしいロケーションだが、昨年までの会場と比べると、キャンプエリアとフロアまでの移動距離が多少長く感じた。フロアは昨年同様に、メインのOpen Air StageとサブエリアのIndoor Stageの2つ。サウンドシステムもOpen AirがVOID Incubus、Indoor StageにPIONEERのXY-Seriesの最新モデルをインストール。さらにOpen AirのPAエンジニアに浅田泰氏を起用するといった、音に対してもぬかりのない仕様だ。レポートするOpen Air Stageのラインナップを見て感じたのは、例年にも増した“攻め”の姿勢。ライブ・アーティストを早めの時間帯に用意し、さらに実験性に富んだサウンドを提示したのち、深夜から早朝にかけてはダンス・セットという2部構成になっていた。 一日目のハイライトは、冒頭のChris SSGに続いて登場したFelix K & ENA。彼らにとっても初となるプレミアムなライブセットは、テクノ・ミュージックのフォーマットに則りながらも、キックではなくベース・ラインでリズムとクルーヴを構築。ドラムンベース出身者らしい解釈を盛り込んだ、斬新なベース・テクノを披露する。さらにセットの終盤には、地鳴りのような低音を響かせ、これまたドラムン系アーティストの“低音魂”を主張していた。ここから作り上げたDJ Nobuの流れも素晴らしいものだった。イーブンのキックをあえてハズしながら、呪術的なパーカッションやシンセなどのウワ音でグルーヴを構築するという実験的セットからは、改めて彼の引きだしの多さに圧倒された。続いて登場したO/Hは、昨年のruralでも好評だったORPHXの片割れ、Rich Oddieのプロジェクトだが、Nobuの縦横無尽のプレイのあとということもあり、多少一本調子な印象も否めなかった。AOKI Takamasaのあとにステージを踏んだSendai Sound Systemは、Peter Van HoesenとYves De Meyというベテラン2人によるDJセット。アシッドからミニマルまで安定したテクノ・オリエンテッドなパフォーマンスで、フロアも今日一番の動員数を誇っていた。夜が明け、日が昇ってから登場したのは2年連続出演のJane Fitz。先述のSendaiよりも緩く、かつ恍惚的なダンスセットで、1日目のラストを飾る。
    2日目でまず特筆すべきは、トップバッターを飾ったSolar。サンフランシスコで20年活動するベテランDJで、かなり遅めのBPMのハウスからプレイをスタートさせると、徐々にテクノを織り交ぜつつも多彩なサウンドを聴かせる。明るめの音色のトラックと、サンフランシスコらしいサイケデリック感覚に溢れたミキシングは昼下がりのフロアにはぴったり。踊り始めて気がつくと、隣ではCio D'Orが準備を始めているくらいに夢中にさせてくれた。rural 2016のDJのベストアクトと言えるほどの内容だ。Cio D'OrはSolarが作ったグルーヴィな流れを一度分断して、不穏な環境音からリ・スタートさせた。アブストラクトなテクノを中心としたセットで、フロアはCio D'Or目当ての観客で溢れていたが、Cioよりも印象に残ったのは、その後のWata Igarashi。叙情的なテクノ・セットと音質の良さが際立ったパフォーマンスだった。ライブ・セットにおけるサウンド・クオリティに職人的なこだわりを持つ彼は、毎年ruralのステージを追うごとに進化を続けているようだ。そして2日目のいろんな意味でハイライトだったのがMika Vainio。ライブの本番に10分程度遅れ、まさかの転換用のBGMがフロアに流れるなか、ひょっこりとステージに登場したMika。奔放な彼のキャラクターにオーガナイザー陣も肝を冷やしていたが、ひとたびステージに立って機材から音出せば、さすがの一言。この日も(アルコールで)相当に仕上がっていたようで、ライブ中の機材操作ミスも多々見受けられたが、それ以上にMikaにしか出せない、ドス黒く攻撃的なシグネイチャー・サウンドが説得力をもってたたみ掛ける。もちろん踊る類のものではなく、オーディエンスを圧倒する前衛的なエレクトロニック・ミュージック。Pan Sonicの首謀者であるMikaにしかできない代物だ。
    だが、そんなMikaの孤高のステージに匹敵するほど、FISのライブも卓越したものだった。ベースミュージックから派生した突然変異的なサウンドを得意とするFISだが、スタイル的に見ると、ボトムにイーブンなビートはほぼ皆無だが(ベースはある)、ウワモノの扱い方はダンスミュージック的なアプローチで、これらを構築しては破壊していくというスタイルは、本当にこの人しかできないんじゃないかというほどに個性的だった。FISに続いて登場したFelix KのDJセットは、ENAとのライブとは異なり、ミニマルながらにテンション感のあるテクノを中心に披露。先述の2人がかなり前衛的な手法を採ったため、フロアのテンションをうまくビルドアップする役割を十二分に担っていた。ラストのNeelはライブ&DJのハイブリッドセットで、質実剛健でディープなテクノ・ジャーニーを約5時間にわたって演出。音が止まったのは午前10時過ぎ、晴れわたった晴天のもと、rural 2016は幕を閉じた。 3日間、多少の雨もあったが、今年も天候に恵まれたrural 2016。特に湯ノ丸高原の朝方の涼しさは快適で、音が止まる昼前まで汗もかかずに踊ることができた。去年までの灼熱のモーニング・タイムをしのげたのは、オーディエンスにとっても嬉しかったのではないだろうか。既に先述したが、実験的なテイストを強く感じられたrural 2016は、ENA、Felix KやFIS、Pearson Soundといったベース系の気鋭アーティストのラインナップが今年の特徴でもあったと思う。そのなかでも2日目のMika Vainio~FISの流れは、マニアな音好きにとっては最高のエクスペリエンスとなったに違いないが、この時間帯に、ダンスしたいオーディエンスがフロアから離れてしまったのは、来年に向けての改善点であるのかもしれない。だが、こういった実験的なタイムテーブルで、最先端のエレクトロニック・ミュージックを聴かせてくれるのは、国内でrural以外にはないのだから、個人的にはこの道を突っ走ってほしいと切に願う。
RA