Escape From New York - Fire In My Heart

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  • もともとEscape From New YorkはAirstrip Oneという名前のポストパンクバンドとしてJohn Falleti、Mike Whitford、Nigel Swanston、Tim Coxの4人で始まった。『1984』に登場するブリテン諸島を表す架空の同義語としてGeorge Orwellが使ったのがAirstrip Oneだ。80年代初期に彼らが制作した数枚のシングルでは、Gang Of FourやThe Pop Groupといったグルーヴ重視のバンドのサウンドを巡っており、その音楽はまとまりがあるものだったが、既に古くなってしまった細かなアイデアの数々を重んじたことがマイナスに働いていた(彼らが81年にデビューするまでに、ABC、Heaven 17、Orange Juiceといったバンドは既にイギリスの流行最先端となっていた)。その2年後、Airstip OneはEscape From New Yorkとして再登場した。またしても短命に終わったプロジェクトではあったが、そこには決定的な違いがあった。陰鬱なディストピアを描いた『1984』の言葉から、比較的気軽な、John CarpenterとKurt Russellによる退廃した世界を描いた映画の名前にバンド名を変更する中で、同バンドの音楽は楽しさと冒険感覚が取り入れられた。 今回、Isle Of Juraから再発された「Fire In My Heart」は1984年の同バンドの目覚ましい変化を捉えており、ニューヨークのエレクトロやRoger Troutmanスタイルのファンクやダブの影響を取り入れたディスコが整然とした曲線となって描かれていた。圧搾音をたてるシンセやスラップベースに乗せたバラード"Won't Be Your Fool"からは80年代イーストコースト・ファンクの典型的スタイルがにじみ出ている。ピッチベントをかけたシンセや熱気を帯びたアルペジオが整ったメロディライン状に交差し、その秩序だった感覚により同作の歓喜の魂に規律をもたらしている。さらに整った配列が施されているのが"Fire In My Heart"だ。ミクロの刺繍模様で組まれたドラムにぎらつくベルやチャイムが縫い付けられている。しかし、心を鷲掴むのはこうした細やかさではない。Nigel Swanstonの不慣れでボーイッシュな音色に隠れるようにして、アクションヒーローのキャッチフレーズのように印象的で恐れを知らないJaki Grahamの果敢なメゾソプラノがウィンク越しに発せられる。しかし、Grahamのボーカルがリスナーの意識を完全に惹きつけているわけではない。北アフリカのスケールでシンセが奏でられることで、"Fire In My Heart"の意気揚々としたメロディは陽射しをとらえたチェインメイルのようにきらめいているのだ。
  • Tracklist
      A1 Fire In My Heart B1 Won't Be Your Fool B2 Fire In My Heart (Instrumental Dub)
RA