- TJ Hertz(Objekt)にミックス制作を任せると、今年一番の興味深い仕上がりになる。シンプルさへの回帰がハウスやテクノにおける広範なDJトレンドになっている現在、『Kern Vol.3』のように36曲をスタジオでミックスするというアイデアは正確には流行最先端ではない。ときどきJoris Voorn(英語サイト)がやるようなセットを除けば、100曲を使うようなミックスCDの時代は遥か昔のことに感じられる。ミックス作品というフォーマットにおいては基本的に変革の無い状態が続いている。かつてAbletonのようなソフトウェアは新鮮でエキサイティングな結果へと至る手段であり、音楽を巧みに解体し再構築することを可能にしていた。RAのエディターであるRyan Keelingが数か月前に記したように、DJという行為は決して容易であってはならない。ハウスやテクノのトラック10曲を繋ぎあわせ、それをSoundCloudにアップするだけなら、デジタル技術を使ってDJすれば当然のようにできてしまう。
ダンスミュージックで高名なミックスCDの中には、比較的明快で、似たようなトラック十数曲を控えめなミックスでつなげたものがある。Ricardo Villalobosの『Fabric 36』(英語サイト)やMichael Mayerの『Immer』、Marcel Dettmannの『Berghain 02』(英語サイト)などがそうだ。しかし、そうした伝統的なミックスは現行のポッドキャストの時代以前の話であり、今ではグルーヴ主体のクラブミックスが至るところに溢れている。リスナーの立場からすれば、特定のミックス手法が好まれるようになっており、安定したグルーヴによって前進していくミックスであれば、どのような素材が使われていても関係なくなってきている。Kr!zの躍動するテクノにせよ、Ben UFOのUKベース~ガラージにせよ、もしくは、DJ Kozeのハウス/ヒップホップにせよ、一貫したグルーヴが久しくミックスCDというフォーマットに不可欠なものとなっている。そうした従来の在り方に勇敢にも挑んでいるのがObjektの『Kern Vol.3』だ。
どのようにアプローチするかによって、Objektによる初のミックスCDは叩きつけるテクノ/エレクトロセットになるか、もしくは、複雑な瞑想トリップになる。ミックスは散漫としていて不意に行われることが多く、ドラムとベースラインによる物語を何度も白紙に戻している。Hertzは雰囲気やサウンドデザイン、そして、ムードのコントラストを強調している。ある意味、彼のミックスはDJという行為の本質を垣間見せるものかもしれない。そこで象徴となっているのは、DJ愛好家とトップDJを大きく分かつもの、つまり、一見、異なり合った要素をひとつの一貫した流れへと繋ぎあわせる能力だ。
75分にわたる『Kern Vol.3』ではAnna Caragnano & Donato Dozzyによる"Love Without Sound"やOndo Fuddの"Blue Dot"といったアンビエントのインタールードがフィーチャーされている他、大きなテンポの転換が行われており、The PersuaderがSvekから発表したクラシック"What Is The Time, Mr. Templar?"からDave Smolenの"Manual Control"までの25分間で、テンポはBPM15以上速くなる。その間に使われているトラックは特に前衛的であるわけではないが、そのミックス方法が前衛的だ。同じ方法でミックスが繰り返されることは一度も無く、数分ごとにムードが変わり続ける。収録曲はおおむね2分を超えることがなく、エディットされているものが多いが、大部分はオリジナルの状態のままであるため、ループというよりも肉付けしたトラックがプレイされているように聞こえる。
Beatrice Dillon、Jesper Dahlbäck、DJ Sotofett、Machine Womenといった新旧のアーティストによる全体的に軽快な音楽が使われているが、『Kern Vol. 3』で重要なのは緊張感の満ち引きだ。本作のヒプノティックな特性はひたすら強度を強めていく。Hertzは、機能性のある破壊力抜群のトラックを3時間プレイしまくるのと同じように、ベルリンのテクノクラブでローテンポのセットを問題なくプレイするようなDJだ。彼はモダンなダンスミュージックの先を見据えているひとりである。そのため彼が廃れかけているフォーマットに新たな息吹を送り込んでも何ら驚きではない。『Kern Vol. 3』によって鼓舞されたDJたちが本作に続くことを期待したい。
Tracklist01. _moonraker - Canobraction
02. Beatrice Dillon - Halfway
03. Aleksi Perälä - UK74R1409037
04. Seldom Seen - So So So
05. Final Cut - The Escape
06. Mono Junk - I'm Okey
07. nsi. - Squelch
08. Echo 106 - 100M Splutter
09. Future/Past - Nebula Variation
10. The Persuader - What Is The Time, Mr. Templar?
11. Birdland - Can U Dance To My Edit?
12. Pollon - Lost Souls
13. Fret - Stuck
14. Shanti Celeste - Lights
15. Anna Caragnano & Donato Dozzy - Love Without Sound
16. Clatterbox - Aspect Ratio
17. Via App - From Across The Room (Edit)
18. TX81Z - Googol
19. Polzer - Static Rectifier
20. Thomas Heckmann - Chiswick Days
21. Sole Tech - Jit The Anthem (75 South)
22. Ueno Masaaki - Supersolid State
23. Dave Smolen - Manual Control
24. Aleksi Perälä & Nick Forte - Untitled (Colundi EveryOne) / Druse
25. Bee Mask - Frozen Falls
26. Marcus Schmickler & Julian Rohrhuber - Linear Congruence / Intercalation
27. Ondo Fudd - Blue Dot
28. Yair Elazar Glotman - Oratio Continua (Part I)
29. Rully Shabara - Faring
30. ACI_EDITS - 02
31. Dresvn - Bliss feat. Sensational (DJ Sotofett's Raggabalder Dubplate Version)
32. Machine Woman - Swedishmanwithtwoblackboxes
33. Anokie - Black Knight Satellite
34. Skarn - Revolver
35. Ruff Cherry - The Empath
36. Space Brothers - Lodore (Purple Twilight Remix)