Max Graef & Glenn Astro - The Yard Work Simulator

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  • Max GraefとGlenn Astroのふたりは自然に調和しているように見える。彼らのレーベルMoney $ex Recordsと同じく、ふたりが共作した作品には、個々のスタイルが本能的にお互いを映し出し、引き立てているものがあった。少なくともその理由の一部はふたりに共通するディガーとしての姿勢にある。GraefとAstroのソロ作品は共に、ジャズ、ヒップホップ、ファンク、ディスコ、ソウルからサウンドを引き出しているのだ。彼らの音楽はそうしたビンテージものからの影響の間で素早くざっくりと揺れ動き、それを覆う暖かく音割れしたようなサウンドは、レコード探しに数えきれないほどの時間を費やしてきたアーティストならではのものだ。 昨年の共作EP「Money $ex 01」に続く『The Yard Work Simulator』はGraefとAstroにとって初となるフルレンクスアルバムだ。本作は「明確な構成要素を持たないダンスミュージック」と言われているが、そこに目立ったコンセプトや方向性が確立されているわけではない。それに代わって彼らがシンプルに見出しているのは、ふたりの才能が調和する、酩酊系ハウストラック9曲だ。コラボレーションの成功例の多くがそうであるように、本作のいずれのトラックにおいてもどちらが何を担当しているのか区別がつけられない。 通常、ふたりのソロ作品ではヒップホップ・サウンドが定番だが、本作にはその要素が一切無い。しかし、うなずいてしまう要素が数多く含まれている。銀河系ファンクトラック"Money $ex Theme"や、Madlibによるジャズサイド・プロジェクトYesterdays New Quintetを連想させる表題曲、そして、崇高なまでに広大な"Viktor's Blues"では、ファンキーなエレクトロニックジャズの領域がさらに模索されている。 GreafとAstroがダンスフロアに歩み寄ってトラックを制作するとき、明快な仕上がりになることは滅多に無い。"Flat Peter"では太いドラムサウンドとウォーキング・ベースラインによって絶え間なく旋回するコードと泡立つ電子音が固定され、"W313"は毛羽立った異端の変異形ハウスとなっている。本作からシングルカットされたパーカッシブな"Magic Johnson"では鈍く響かせたローズによるジャムセッションが繰り広げられ、熱狂的な生ドラムやターンテーブルのスクラッチ、そして、圧搾したような音を立てるシンセの猛攻が含まれている。 『The Yard Work Simulator』がカバーする範囲の広さは感動的なのだが、かすむように蛇行する構成により、当然ながらコンセプト的な道筋が乱雑になっている。機能的なクラブミュージックに限定されないサウンドを扱うふたりのスキルは彼らの特徴の中でも特に強力なものだ。そうなると、不規則なアレンジや掴みづらいミュージシャンシップ、そして、遊び心が本作の焦点になる。GraefとAstroが特定の方向性を示していなそうに見えても、彼らと相乗りして聞く煙たいサウンドはやはり楽しい。
  • Tracklist
      01. Intro 02. Where The Fuck Are My Hard Boiled Eggs?! 03. Money $ex Theme 04. The Yard Work Simulator 05. Flat Peter 06. China Nr. 04 07. W313D 08. Magic Johnson 09. Jumbo Frøsnapper 10. Viktor's Blues
RA