Moodymann in Tokyo

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  • 有り余るほどのパーティーがありながら、それらのパーティーへ行く人口が決して多くはないこの東京の街で、MoodymannことKenny Dixon Jr.のように会場を満員にできるDJは数少ない。今月初めの金曜夜、東京のクラバー達は、国内のフレッシュな顔触れと共にこのエキセントリックなDJがデトロイトのソウルを披露する瞬間をキャッチする為に、渋谷Contactへ詰め寄せた。ソウルフルなハウスを尊重し、信頼性を重視する日本のファンは、このデトロイト出身のDJであり、Three Chairsのメンバーである彼を、どこか神聖な人物として見てきた。東京では2年振りのギグとなった今回、午前1時半頃に入場規制がかかったのも頷ける。 Mahogani Musicのボスのサポートを務めたのは、国内ヒップホップ/ハウスシーンのアーティストたち。MCやビートメイカーとして活動するKiller-Bongや、日本人グループSimilabのメンバーであるHi’Specが、メインアクト登場前のメインフロア、Studioを温めた。Moodymannのハウスとジャパニーズヒップホップを合わせるという視点は、ヘッドライナーであるMoodymannの幅広い音楽性を踏まえつつ、日本人アーティストにも露出の機会を与えるという、見事なブッキングであった。Killer-Bongはプレイ開始後機材トラブルに見舞われながらも、アブストラクトでグリッチーなビートを披露。Hi’Specはトラップ中心のセットでMoodymannへと繋いだ。 一方で、サブフロアのContactはダンスにフォーカスした強力なセレクター陣で固められ、クラウドを一晩中踊らせた。この夜唯一の女性アーティストであったDJ Kumikoは、アンセム的なディスコを求めていたクラウドの欲求を満たし、ベテランのDJ Ageishiはヴォーカルトラックからハウスへと方向転換。また、デトロイト出身のKai Alceが主宰するレーベルNDATLからリリースされた、Dangerfeel Newbiesの2015年のトラック“What Am I Here For?”をプレイするなど、モーターシティを十分に意識したセットを披露した。この日1番の至福の音楽を、クラブの中でもバーの横に位置する小さなサブフロアで効くことになったのは残念だった。DJ Ageishiのミキシングスキルは、より大きなサウンドシステムと広いフロアで聴くに値するほど素晴らしかった。
    複雑な作りで、ヴェールの付いた黒いヘッドドレスを装着したMoodymannがブースに登場する頃には、熱狂的なクラウドが集まったフロアはさながらサウナのようになっていた。メインフロアは禁煙になっているにも関わらず、ムッとするような暑さで頭がクラクラするほどだった。サンプルへヴィーなヒップホップでスタートしたMoodymannは、あっと言う間にクラウドをシンクロナイズドされたグルーヴへ引き込み、フロアではまるで溜め息のエコーが聴こえてきそうな雰囲気となった。デトロイトのレジェンドは、セットを通して我々の予測可能なストーリーを描いただけではなく、彼の音楽へのおおらかな愛を感じることができるようなジャーニーへとクラウドを導いた。From Ol’ Dirty BastardからParanoid London、Bill Withers、そしてShaggyまで、控えめに言ってもMoodymannのセレクションは変化に富んでいた。トラックをクイックミックスしていく彼は、1人リビングルームで、お気に入りのレコードを聴いているようにも見えた。 Moodymannの選曲が完全に予測不可能という意味で、彼のセットはファンを惹き付けて止まなかった。この日のハイライトの1つは、彼がJimi Hendrixの“Purple Haze”をかけた瞬間。今は亡きギタリスト、そして故Princeへの明らかなオマージュだ。そのロッククラシックは、観光客やローカルが入り混じったクラウド全員に向けて何かを語りかけているようであり、フロアの皆は揃って拳を突き上げていた。汗にまみれた夜を踊り明かしたクラウドの為に、Moodymannは、間もなく発表予定だというニューアルバムの収録曲を初披露してくれた。そのディープでダビーなトラックは、リスナーをトランス状態へ導くような長いイントロが続き、その後突如入ってきたパーカッションで我々の目を覚ました。ダークなララバイは、長年のファンと新しいファンどちらにも、新作アルバムに対する高い期待を与えたはずだ。 一見チグハグかに思えた今回のラインナップだったが、結果として様々なジャンルやスタイルが融合することで、より記憶に残るような夜になったことは間違いない。リアルなデトロイトのテイストを感じたくてたまらない人たちで満員のフロアと、Contactのドアの外に伸びる行列には、見ていてワクワクさせられた。Moodymannもまた、彼らの情熱を十分に理解していたはず。そして彼はその期待に、大いに応えてくれた。
    Photo credit: Masanori Naruse
RA