Make Noise - System Concrète

  • Published
    Jul 8, 2016
  • Released
    November 2015
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  • モジュール収集は今もマニアックな少数の人のためのものと考えられているが、モジュラーシステムはかつてないほどの人気を得ている。一部のモジュラーファンは音楽制作よりもサウンドの可能性の追求に興味を持っており、また、お気に入りのアーティストが制作方法をモジュラー主体に切り替えて以来、作品からエッジが失われたと嘆くファンの姿もよく見られるようになってきているが、これは一般的なモジュラーのワークフローがイチから自分でサウンドを作らなければならないということに起因しているのかも知れない。ユニークでパーソナルなサウンドを生み出すという点を重視する一方で、細部に囚われすぎて全体像が見えなくなってしまうというのは良くある話だ。慎重に個々のサウンドの微妙なニュアンスを追求していくのは決して悪いことではないが、サウンドをどう操作するのか、そしてどう文脈に沿わせていくのかということの方が、重要なのではないだろうか? Make NoiseのSystem Concrèteを試してみようと思ったのはこれが理由だった。System Concrèteは名前が示す通り、イチからサウンドを作り出すよりも、サウンドの操作に主眼が置かれている。よって、サウンドソースとしてオシレーターを用意する代わりに、録音済みの外部音源を使うことを推奨するシステムになっている。このふたつの間にはたいした違いがないように思えるかもしれないが、サウンドを生み出すという点において異なる考え方で取り組む必要が出てくる。つまり、白いキャンバスにサウンドを描いていくというよりは、特定の目的のために使う実用的な機材なのだ。 System ConcrèteにはCV生成・変調モジュールのMATHS、グラニュラーサンプラーのPhonogene、ランダムボルテージジェネレーターのWogglebug 2014、フィルターのMMG、ピッチシフター/ディレイのEchophon、アウトプットモジュールのRosieという、ボルテージコントロールで操作する6種類のEurorackモジュールが組み込まれている。個々のモジュールについてはオンライン上に様々な情報が載っているので、今回はSystem Concrèteというひとつのユニットとしてどのように機能していくのかを見ていくことにする。他のモジュラー系機材と同じで、頭が混乱してしまう可能性はかなり高く、また、そのサウンドは急激に奇妙なものへと変化しがちだが、他のモジュラーシステムとは違い、System Concrèteは最低限の努力だけで非常に面白く、有用なサウンドを得ることが可能だ。 このシステムの中心はPhonogeneだ。ほとんどすべてのオーディオをこのモジュールの1/8インチのインプットを経由させることになる。コンピュータ上にDAWを立ち上げ、作業中のプロジェクトを開き、操作したいトラックをソロにして、それをPhonogene上にレコーディングすれば準備完了だ。また、YouTubeの動画やスマートフォン上のフィールドレコーディングを接続しても良い。想像できる限りのサウンドをソースにすることが可能だ。Phonogeneのオーディオのバッファサイズはレコーディングのクオリティと反比例しているので、サンプルの長さが短い方がサウンドクオリティは高くなる。よって、ロングサンプルをループさせる場合、そのクオリティはビットクラッシャーを通したように劣化する。Phonogene上にサウンドをレコーディングしたあとは、再生スピードと方向を自由に変化させたり、グラニュラーサウンドを作り出したり、サンプルをカットしてスプライス単位で再生させたりと様々なテクニックを応用することが可能だ。筆者は今回のテストまでMake Noise製のモジュールを使用した経験がなかったが、数分間試すだけで、引き延ばされて揺らぐサウンドを、まるでゴムバンドが縮むように瞬間的に短く変化させるテクニックなどを学ぶことができた。MATHSのLFOやWogglebugのランダムシグナルをPhonogeneのGene SizeやVari-Speedへ入力してサンプルをグネグネと変化させるのに天才である必要はない。
    System Concrèteは、完成間近のトラックに比較的簡単にかつ楽しくユニークな特徴を追加できる機材という印象だ。筆者はDAW側をアーム状態にし、Phonogeneにサンプルをロードして、EcophonのピッチシフトとPhonogeneのグラニュラー機能を中心に即興でパッチングを変えながらそれをDAWにレコーディングした。このふたつのモジュールのコンビは、もはや物理モデル音源に近いような金属的なトーンを生み出すのに非常に便利で、PhonogeneのGene Sizeを変化させながら、Ecophonのフィードバックのポラリティを切り換えるというテクニックが特に面白いと感じた。当然ながら、元となるサンプルによって変化の幅は異なってくるので、筆者もDAW上にレコーディングされたオーディオファイルに戻り、最適と思われるパートを見つけてトラックに上手くはめ込むという作業を行ったが、DAW上のサウンドをSystem Concrèteで処理して戻すという作業は、自分のサウンドをサンプリングするため、トラックのムードに沿ったサウンドが得やすく、何か別に新しいサウンドを探すために時間を取られることがない。System Concrèteによって生み出されるサウンドは、元のトラックの全体像を整えたり、構成にちょっとした変化を加えたりするのに非常に便利に思える時が多かった。筆者の場合は、System Concrèteのオーディオ(特にパーカッションサウンド)をリサンプリングすることも多かったが、こうすることで完全に違うトラックのアイディアが得られた。 System Concrèteはこのようなセット的な作業に秀でているが、ライブ用機材としてのポテンシャルも高い。もちろん、System Concrèteを中心に据えたライブセットを組めるようになるまでには自信を十分につける必要があるが、数週間練習を重ねれば、DJセットに組み込む強烈なエフェクターとして使用することができるようになる。完全に異なるジャンルを繋いだり、ブレイクやドロップにインパクトと個性を加えたりする手段として、ダブ処理とピッチシフトが施されたグラニュラーサンプルを使用するのはグッドアイディアだ。これはレコーディングしたサンプル(Loop)と他の外部入力(Line)のミックスバランスを決めるPhonogeneのSound On Sound(SOS)機能を使用して行う。SOSでは、サウンドソースを流しながら、その一部を抜き出して変化させることが可能だ。また、RosieにはCUEが備わっているので、System Concrèteをライブで使用する際には、オーディエンスが聴かせる前に自分でチェックできるセーフティネットが用意されることになる他、センド&リターンも備わっているので、外部エフェクターや他のサウンドソースを接続することも可能だ。 ここまで色々と書いてきたが、これらはSystem Concrèteの機能のほんの一部に過ぎない。また、ここまで読んでSystem Concrèteが魅力的だと感じた人は、大金を投じて購入する前に、各モジュールの機能をしっかりと勉強し、更に言えば、このシステムを使って何がしたいのかについて明確なアイディアを持っておくべきだろう。なぜなら、System Concrèteを購入して、1週間ほど試したあとに二度とこれに触らなくなってしまう人の姿が簡単に想像できるからだ。尚、筆者がSystem Concrèteで最も気に入ったのは、オリジナルサウンドに備わっているクオリティを変化させることで、トラックの全体像を考えるように仕向けてくれるという部分だ。一方で、全体像を完全に無視して、他の機材と組み合わせることなくモジュラーだけを使ったトラック制作に集中することも可能だ。とにかく、大金をつぎ込む前に自分が何を手に入れようとしているのかを確認することを忘れないようにしてもらいたい。 Ratings / Sound: 4.0 Cost: 3.2 Build: 3.8 Versatility: 4.2
RA