Allen & Heath - Xone:PX5

  • Published
    Oct 29, 2016
  • Released
    September 2016
  • Share
  • Allen & HeathはDJミキサーのスタンダードのひとつを生み出した。よって、このメーカーが新製品の予定を発表するたびに、ファンベースはどんな機能が備わるのかについて予想したり、議論を重ねたりすることになる。そして、今回紹介するXone:PX5の存在が明らかになった時、いくつかのウェブサイトはこれが世界各地で愛されたXone: 92の後継機になるのではと予想し、多くの人が名機の終わりに落胆することになった。しかし、Xone:92が生産中止になることはなく、Xone:PX5も、92よりはXone:43Cのような他の製品に近いことが明らかになった。また、92でAllen & HeathはXone: 22や42と同じ方向性を辿り、23Cや43Cのようにデジタルとの互換性を高めた後継機をリリースする可能性が高く、これを踏まえたPX5は、Allen & Heathの製品ラインアップの中でユニークな立ち位置を確保すべく開発された。
 PX5は非常に分かりやすく実用的な印象で、バックパネルを通じて様々なセットアップに対応できるようになっている。また、フロントパネル右側には独立したフィルター1基とエフェクトセクションが設けられており、全体的なレイアウトの印象は他のAllen & Heath製品よりもPioneer製品に近い。各チャンネルには3バンドEQが備わっており、ゲインノブの上には、LINE・PHONO・USBの入力を切り替えるスイッチが配置されている。USBはラップトップのためのもので、PX5にはステレオ入力5系統とステレオ出力5系統、計20チャンネルのサウンドカードが内蔵されている。その入力切り替え用のスイッチの上にはFX SENDのノブが配置されており、センド先をエフェクトセクションか外部センド、もしくはその両方のどれにするかをスイッチで選択したあと、ノブでシグナルレベルをコントロールする。ヘッドフォンセクションはジャックとミニジャックに対応しており、CUEとMIXのバランス調整やSPLITのオン・オフが行える。一番左のAUXチャンネルは他の4チャンネルとは異なりフェーダーが存在せず、クロスフェーダーにもアサインできないが、その他の部分に関しては他のチャンネルと同じ機能が備わっている。 エフェクトセクションの最上部では、エフェクトをセンドするチャンネルをAUXチャンネル、4チャンネル、マスターのどれにするかを選択し、PRE(プリ)かPOST(ポスト)をスイッチで選択する。外部エフェクトのリターンもフィルター経由でルーティング可能で、また、入力をUSBにすればシグナルをラップトップ - PX5間でやりとりできるようになるため、ソフトウェア上でシグナルを加工・編集できる。また、MIDI端子経由でMIDI同期も行えるようになっており、エフェクトセクションにはBPMカウンターも備わっている。尚、リミッターなどのエフェクターをPX5に接続したい場合は、マスターチャンネルのインサート端子が使用できる他、X: LINKを使用すれば、Allen & Heathのデジタルコントローラとの接続も可能だ。このように見ていくと、PX5は分かりやすいレイアウトながら、オールヴァイナルはもちろん、ハイブリッドなライブやDJのセットアップまで、様々なスタイルに使用できる機材だということが分かる。 フィルターはローパス・ハイパス・バンドパスをスイッチで選択し、複数のチャンネルにアサインすることが可能だ。そして、Allen & Heathではお馴染みのMILDからWILDへスウィープできるレゾナンスも備わっている。フィルター1基という仕様は、パフォーマンスの内容によっては不便に感じるかも知れないが、Allen & Heathは、このアイディアは各コントロールにスペースを与えるレイアウトを維持するために採用したと説明している。
    PX5で最もユニークな機能はエフェクトセクションだろう。このセクションはDBシリーズで培った経験を元に作られている。トラック全体をぼかしてしまうリバーブのような大雑把なエフェクト群ではなく、クリエイティブに使用できるエフェクト群が用意されているため、トラックを面白い形に丁寧に変化させ、厚みを加えたり、異なったグルーヴに変えたりすることが可能だ。個人的に気に入ったエフェクトは、ATTACK GATEとRESO GATEで、前者はリズミカルで跳ねるようなエフェクトをトラックに加え、後者は同じくリズミカルだが、レゾナンスの効いたメロディアスなラインをトラックに加える。その他にも多種多様なディレイとリバーブ、フランジャー、“TIME WARP”、ディストーションなどが備わっている。これらはいくつかのパラメータでコントロールすることが可能で、拍で分割するだけではなく、プレイ中のトラックに合わせることも可能だ。DJミキサー内蔵のエフェクトは仰々しいだけの時もあるが、PX5の繊細なエフェクトはシリアスな印象を与えている。
    PX5のシグナルパスはオールアナログで、筐体の作りや操作感と同様、サウンドにも重みと質感が感じられる。Allen & HeathはEQのバランスを再調整しているが、その理由は様々なジャンルに対応するためと伝えられている。尚、そのEQは非常に音楽的だが、ローのスロープが想像以上に緩やかで、ミッドとハイが混ざり過ぎている印象を持った。Allen & Heathは、PX5で4バンドではない3バンドの採用について、操作の簡略化と慣れるまでの時間の短縮化を図った結果だと説明している。 Allen & Heathはこれで92、DB4、そしてPX5とクラブ仕様のDJミキサーを3種類取り揃えることになったが、PX5はより多くの人たちに届けたいという狙いから開発されたように感じられる。サウンドと筐体のクオリティは申し分ないため、PX5はPioneerの上層部を多少不安にさせるかもしれない。新しくなったデザインは、Allen & Heathの特徴的な機能を好んでいるファンには受け入れられないかもしれないが、多種多様なDJを取り込もうとしているクラブの標準機材になる可能性もある。総括すれば、PX5は素晴らしいサウンドを備えた非常に使いやすい堅牢なDJミキサーという印象で、Allen & Heathらしい機材と言えるだろう。 Ratings: Cost: 3.7 Versatility: 4.4 Sound: 4.5 Ease of use: 4.6
RA