Nicholas - Bonus Beats Volume 1

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  • デトロイトのハウスミュージックとディスコサンプルとの関係は、同市の自動車産業とFord社のMustangとの関係に等しい。どちらも基本要素であり、それほど流行り廃りがないということだ。Moodymannの"Shades Of Jae"やTerrence Parkerの"Your Love"のように、20年前の曲からロングランヒットを生み出せるのはこの性質によるものだ。そのため、一見シンプルに思えるMPCのエディット作業を真似てみたいという気にさせられるが、たいていの場合、それほどシンプルではないことに気付く。なんとなく昔の曲を使っているだけに終始するため、KDJやTheo Parrish、Norm Talleyといったアーティストによる90年代の作品を超えるのはほぼ不可能だ。しかし、この考えを覆したのがイタリアのプロデューサーであるNicholasだ。以前のスウィングするイーストコースト・スタイルからミッドウェスト・サウンドへと移行した彼の最新作はそうした難関を突破している。 Nicholasの技巧は自身のレコードコレクションを見事に用いるところから生まれている。Nu Grooveのエディットで知られる彼だが、以前、彼は大胆にもMFSBの"Love Is The Message"やNervous所属のディーバKim Englishをサンプリングしている。「Bonus Beats Volume 1」の1曲目"Hot Nights"では、彼はMinnie Ripertonの作品を使ってNorma Jean Bellを模しており、過度に感傷的なボーカルを取り出し、ハンドパーカッション、華麗なローズ、そして、ソロサックスによって変化を加えている。"ATMO"でもアクロバティックなローズサウンドを聞くことができる。盛り上がっているハウスパーティーのサウンドと共に陽気な雰囲気が流れるトラックだ。この手法はMarvin Gayeの"Got To Get It On"のような主要ダンスチューンで使われている伝統的なものだ。 Bサイドはストレートな内容に仕上がっている。"Together Beats"のサウンドはGuidance Recordsスタイルのフィルターハウスだ。ここでも拳を突き上げる瞬間はサンプリング(ストリングス、ホーン、ギターを豊富に使ったみずみずしいディスコブレイク)によってもたらされている。2013年のTeshnoでのインタビューでNicholasは以下のように語っている(英語サイト)。「ダーティーな要素を作品に加える方法を新しく考えるようにしている。例えば、昔のレコードからいくつかサンプルを使ってみるとか。自分が持っているレコードからディスコのビートをサンプリングするんだ。そうすれば音楽にソウルと温かみを加えられると思う。僕はそういう理由でサンプリングしている。単なるノスタルジアとは違う」。「Bonus Beats Volume 1」という何の工夫もないタイトルを見ると、本作が拡張的な芸術性を代弁しているとは言えないが、この楽しいパーティートラック4曲は脈々と語り継がれている伝統に沿うものだ。これは、Nicholasが昔のレコードに宿る魔法のような力を最も見事に捉えた作品かもしれない。
  • Tracklist
      A1 Hot Nights A2 ATMO B1 Together Beats B2 Something To Believe
RA