Movement 2016: Five key performances

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  • 筆者は、開催場所の街の名前がこれほど頻繁に引き合いに出されるフェスティバルに参加したことがなかった。Tシャツにプリントされたスローガンから、パフォーマーたちからのコメント、タクシーの運転手との会話の内容、そして会場出口に設置された巨大なメッセージに至るまで、デトロイトの街は、フェスティバルに出演したどのアーティストのステータスをも超越する、スターそのものであった。そうなるのも至極当然のこと。豊かな音楽の歴史を持ち、経済復活の兆しを見せているデトロイトは、人々が応援したくなるような街だ。これには地元住民が重要な役割を果たしている。非常に困難な時期を過ごしてきたデトロイトには、窮地に立たされながらもプライドが残っているようだ。更には、アメリカ中西部の住民の真心と気さくなクラウドも相まって、ここでは3日間の都市型フェスティバルにおける、ほぼ理想的なムードを感じることができる。 2016年で、Movementは10周年を迎えた。デトロイトにおけるエレクトロニックミュージックフェスティバルの歴史は長く複雑で、イベント会社のPaxahauが同フェスティバルを運営し始めた10年前よりもずっと前から続いている。しかしこの点において、Movementは極めて順調であり、長年会場としているHart Plaza、そしてデトロイトの街そのものとピッタリと息が合っているようだ。 この週末にはたくさんのプレパーティーやアフターパーティー、その他のパーティーが開催されたが、ここではMovement 2016のキーとなった5つのパフォーマンスを振り返っていく。
    Mike Servito b2b Derek Plaslaiko この数日間は、Mike ServitoとDerek Plaslaikoにとって疲労困憊の日々だったはずだ。2人はそれぞれ4つのギグにブッキングされていた(Servitoは前日の夜、RAとsmart barがTV Loungeで主催したオープニングパーティーにも出演している)。他の街に拠点を移しているデトロイト出身のDJ達にとって、Movementは公私ともに年間で最も重要なイベントである。彼らのB2Bパフォーマンスは、Movementの初日に行われた。2本の木に囲まれた、フェスティバルの中でも最も小さなステージの上では、太陽が光り輝き、ヴァイブスは空のように高かった。2人はお互いを戯けるように挑発しながら、クラシックスからアシッディーなトラック、タフかつファンキーといった自身らが得意とするスタイルのトラックをトレードした。このステージはBrendan GillenとErika ShermanによるInterdimensional Tranmissionsがホストしていたのだが、去年の今頃RAのWill Lynchが同レーベルについての特集記事を執筆した際に指摘しているように、こうしたスタイル、そしてIT関連のアーティストは、典型的なデトロイトの感覚を象徴しており、それは筆者が今回過ごした週末の中でも最高の瞬間のいくつかを決定付けたものであった。また、翌日の夜にTangent Galleryで開催された、デトロイトのウェアハウスレイブ全盛期の精神を維持することにフォーカスしたパーティーNo Way Backは、そうした感覚が凝縮された素晴らしい内容だった。
    Kraftwerk ドイツ出身の4人組、Kraftwerkは、Movement史上最も重要なブッキングだっただろう。現在我々が知る限りで、テクノの創造にとって彼ら以上に必要不可欠だったアクトがいるだろうか?コンクリート製の円形競技場からデトロイトの空を臨むメインアリーナで彼らのパフォーマンスが始まった時のHart Plazaの雰囲気は、同フェスティバルにとって極めて重要な瞬間を意味した。筆者を含め、前もって場所を確保していなかった参加者は、演奏開始直後はアリーナの端の方からなんとかステージが見えるかといった状態で、"The Robots"のサウンドは、妨害装置のように憚る大勢の人間の身体を通して聴くこととなってしまった。その後筆者は、Renaissance Centerビルのそばで良い具合の場所を確保することに成功。Kraftwerkというグループに大きな影響を与えた自動車産業の象徴として知られるこの高層ビルの細長いライティングは、オレンジから青、白へと変わっていった。一方ステージのビデオスクリーンには、ドイツのアウトバーンがゆっくりと広がっていく様子が3Dグラフィックで投影されていた。その後は自転車にフォーカスが変わり、Tour De France(毎年7月にフランスとその周辺国で開催される自転車ロードレース)の白黒の記録映像が、グループによる同名のトラックに合わせて映し出された。ベストヒット満載のセットではあったが、音楽の展開がゆっくりだったこともあり、90分間のセットが進むにつれてオーディエンスの注意は逸れていき、よりスタンダードなダンスフロアのスリルを求めてアリーナを離れる人も少なくなかった。それでも尚、シンボリズムや、重要な意味を多く持つセットだったことに変わりはないが。
    DJ Godfather 過去数年間同様、今年のラインナップにもヨーロッパの著名ハウス/テクノアーティストが多く名を連ねており、アメリカのオーディエンスの大部分にとっては非常に魅力的であるものの、UKからドイツからやってきて同フェスティバルに参加する人たちにとってはあまり目新しいものではなかったかもしれない。個人的には、USクラブスタイルのブッキングを楽しみにしており、そのうちの一部は、月曜午後のRed Bull Music Academyの為にプログラムされていた。DJ Godfatherはデトロイトのゲットーテックにおける重要人物であり、彼のセットはこのスタイルのパワフルさと、パーティーを始めるのにはピッタリなサウンドを具体的に表現していた。彼は超凄腕のスクラッチDJだが、それは彼のセットにとって最高な要素であり、最悪な要素でもあった。MCによる粋なシャウトと、ダンスフロアを爆発させるようなタフでバウンシングなビートも相まった、よく出来たパフォーマンスだったものの、スクラッチや雑なミックスのせいで、セットの流れが崩れる瞬間もあった。また、フットワークと同様、ゲットーハウスやジャージークラブ、ゲットーテックは"Girl, bust it down"、"Get freaky"、"Put your ass on the floor"といったコマンドが繰り返され、クラウドはそうしたMCの言葉によって淫らになることも多々だ。こうした傾向はニューオリンズバウンスにも見られ、BeyoncéのコラボレーターであるBig Freediaが次のセットに登場した時には、コール&レスポンスや、ハイパーアグレッシブなドラムブレイク、 超ポップなサンプル、そしてスピーカーの上でトゥワークする女子たちなどで、お祭り騒ぎとなった。
    Modeselektor "I'm not into twerk, I'm into Kraftwerk"(「俺はトゥワークには興味ない、俺はKraftwerkに興味がある」)というメッセージが、Modeselektorが同名のトラックを演奏している際にビデオスクリーンに映し出された。フェスティバル最終日、メインステージの大トリとして登場した彼ら。エレクトロハウスとIDM、テクノ、ヒップホップのマッシュアップは、この時間帯にしては想定外のようにも思えたが、ひたすら4つ打ちを聴き続けた長い週末だった為、ペースが変わって嬉しかった部分もある。また、Sebastian Szaryのクラウドの煽り方は並大抵のものではなく、ステージギリギリの部分まで進んだかと思えば、自身が着ていたつなぎ服の前部分を開け乳首をさらけ出した。"From Berlin to Detroit, make some noise!" (「ベルリンからデトロイトまで、大騒ぎしよう!」)と、コンソールの場所まで戻った彼は煽動した。また、彼らは"The Black Block"をはじめ、Moderatの"A New Error"、LFOの "Freak"など、ヒット曲満載のセットを披露。Kraftwerkのパフォーマンス中に、イチャつくカップルの周りをド派手なレイバーたちが跳び回る、といった様子を見飽きた筆者は、Renaissance Center方面へと引き返すことにした。
    Mike Huckaby Mike Huckabyの前にプレイしたDetroit Techno Militia所属のローカルDJ Seoulは、DJ Godfather並みのテクニックの持ち主だ。彼がテクノとエレクトロの間でカット、ミックス、そしてスクラッチするスピードとスキルは、筆者が今まで見てきたDJの中でもトップレベルだった。その後登場したHuckabyは、エナジーレベルを上手くリセット。彼は、タフなビートとディスコのメロディックさが融合したトラック(Mood II Swingの"Do It Your Way"や、Norm Talley "The Journey"、Chesus & Earl Jeffers "Jump"等)が1番アガるようで、屋外ステージで午後8時からスタートしたセットにもばっちりハマっていた。Huckabyもまた、デトロイトのシーンと深く関わる深く関わるDJの1人であり、そんな彼のセットは、Movementに参加した老若男女のクラウドを魅了した。筆者の隣では、ハゲ頭で眼鏡の50代と思しき男性が、うっすらと汗をかきながら踊っていた。私は心の中で、Movementは彼にとって毎年恒例のレイブであり、地元の会社経営者か何かの彼は、デトロイトの街が作り上げてきたものにずっと心を奪われ続けているのだろうと想像した。 Photo credits / Lead - Douglas Wojciechowski Mike Servito b2b Derek Plaslaiko - Chris Soltis Kraftwerk - Bryan Mitchell DJ Godfather - Bryan Mitchell Modeselektor - Katie Laskowska Mike Huckaby - Chris Soltis
RA