Lawrence - Yoyogi Park

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  • Peter Kerstenの音楽を言い表すときに最も頻繁に使われている言葉は「暖かい」かもしれない。この言葉は彼のトラックに漂う柔らかく迎え入れるようなオーラを形容しているが、これは童話『3びきのくま』と同じで、「熱すぎず、冷たすぎない」という意味で丁度よく使われているだけかもしれない。KerstenはLawrence名義において、燃えさかるような熱さと冷たさの中間に位置する控えめなハウスを制作することでキャリアを形成してきた。彼の最新アルバム『Yoyogi Park』では、その"ほどよさ"の良さと悪さが表れている。 カバーデザインにはKersten御用達のイラストレーターStefan Marxによってアルバムのタイトルである東京都心のオアシスが描かれている。代々木公園が薄っすらとスケッチされているだけだが、同所のみずみずしさは健在だ。収録された10曲のほとんどにも同じことが当てはまる。"Tensui"は削ぎ落したリズムに深みのあるメランコリックなメロディときらめくピアノを組み合わせ、ほろ苦く心地よい雰囲気を生んでいる。おぼろげなトラックが多く収録されており、その中のひとつ"Illuminated"は大聖堂を思わせるコードに玉虫色の音色が時おり短く挟まれるだけというシンプルな内容だ。"Ava"のループするブレイクビーツでは、抑制したシンセを背景にして軽い金属音によるパーカッションが加わり、ベルベットのような華やかさと抑制されたファンクネスが心地よいバランスで成り立っている。 Kerstenの落ち着いたエレガンスの欠点は、その音楽が時としてあまりにも従順に感じられることだ。特に『Yoyogi Park』を前から順に聞いていくと、そのことがよく分かる。全曲を通じて霞むような雰囲気が漂っており、ヒプノティックではあるものの、冗長になってしまうことがあるのだ。きらめくシンセと抑制したコードが使われた"Joy Ride"はきらびやかではあるが、少し物足りなさが残る。"Blue Mountain"は本作の中では勢いのある方だが、削ぎ落されてビートと弾力性のあるシンセだけになると、存在感がほぼ無くなってしまう。 しかし、Kerstenは自分の音楽が完全に影を潜めてしまわないようにする技巧を十分に持ちあわせている。"Joy Ride"ではCarl Craig風のパーカッション・フレーズを重ねることで、か細い楽曲にダイナミズムを加えている。味わい深い低域が『Yoyogi Park』中に広がっており、必要不可欠な密度を音楽に与えている。"Night Life"にローエンドが無ければ、単なるドリーミーなシンセのグリッサンドに終わっていただろう。しかしメロディが厚みのあるベースラインによって支えられることでトラックはハウスミュージックの涅槃へと昇華していく空間に変化する。 『Yoyogi Park』で素晴らしいのはKerstenが得意分野から外れていこうとしているトラックだ。例えば、エレクトロ的シンコペーションとジャズ色の強いメロディによる"Simmer"がもたらす異なる印象は作品に欠かせないものだし、ジャッキンな"Clouds And Arrows"を特徴づけているのはディスコ・ミーツ・デトロイトとでも言えるヴァイブスを感じさせる、遊び心溢れるループだ。この手の夢心地なハウスで言えば、Kerstenはトップクラスのアーティストだ。しかし、今回のようなトラックでは彼は自らの射程を広げるべきだということがしっかりと示されている。
  • Tracklist
      01. Marble Star 02. Nowhere Is A Place 03. Tensui 04. Ava 05. Nightlife 06. Blue Mountain 07. Simmer 08. Clouds And Arrows 09. Joy Ride 10. Illuminated
RA