James Blake - The Colour In Anything

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  • 「僕は一時代を手にした」。これはJames BlakeがThe Guardian紙に対し(英語サイト)、ポピュラーミュージックにおける彼の影響について語った言葉だ。ヒップホップとR&Bが澱んだサウンドに向かっている現在、彼の言葉はもっともだと思える。ダブステップの神童として登場し、コンピューター化したソウルに興味を示すようになった彼は、Drake、Kanye Westといったアーティストのお気に入りとなり、彼の作る控えめで内省的な音楽からは想像もつかないほどのインパクトを生み出した。Blakeによるセンチメンタルな楽曲はリスナーを彼の意識の中へと導くもので、実体のない声がさまよう思いのようにはためいたり、強迫観念のようにループする。セカンドアルバムまでは(英語サイト)非常にパーソナルな内容だったが、スランプ期間を挟んで、Beyoncéによる大ヒット作『Lemonade』へ参加した後に(英語サイト)ほどなくして発表されたサードアルバムは様々な方向性へと拡散していく作品となっている。そのサウンドは自分の殻を突き破ろうともがいている人のそれだ。素晴らしいトラックも含まれているが、必然的に不必要な模索も試みられている。 Blakeは『The Colour In Anything』で初めて第三者を制作過程に参加させたそうだ。その中には著名なプロデューサーRick Rubinも含まれる。さらに、人生において成熟した幸福な時期を表していると彼が説明する同作では、必ずしも陽気であるわけではないが、壮大で厚みのあるサウンドが用いられている。1曲目の"Radio Silence"では、R&Bからの影響を打ち出したハーモニーが今まで以上に明るく奏でられている。決定的なオープニングとは言えないが、十分に大胆なトラックだ(急激に立ち昇る終盤のシンセは"CMYK"時代を思わせる(英語サイト))。 『The Colour In Anything』におけるアレンジの大半は、これまでのBlakeの作品よりも素晴らしい。例えば"Points"のサウンドは表現される感情と同様に脆く打ちひしがれている。サイレンのようなサウンドが加わることでBlakeのセンスがいかに非凡であるのかが明確になる。今回のような柔らかな声に強烈なノイズを組み合わせようなど他に誰が考えるだろうか? "My Willing Heart"でもループを使った同様の巧みなアレンジが披露されており、背景にオーケストラのようなサウンドが加えられる。一方、アルバム後半のハイライト"Modern Soul"は軽やかなドラムブレイクに乗って滑り込んでいく。珍しく顕著なメロディが使われた同トラックはBlake作品の中でも極めて鮮烈な印象になっているだけでなく、2010年のFeist "Limit To Your Love"の傑作カバーに次ぐ、クラブミュージックからの影響が見事に発揮された仕上がりだ。 しかし、意識を融解させるアレンジの中核にあるのは、いつもと変わらぬ孤独なJames Blakeだ。彼の音楽には常に優美な痛みが伴ってきた。そして彼は自己憐憫になることを止めると約束したにもかかわらず、その傾向はそれほど変わっていない。Blakeの声に漂う、消えることのない痛みには人々を強く惹きつける力があるが、76分に及ぶ『The Colour In Anything』を聞き通していくにつれ、冗長な印象に変わる。許容できないほど痛々しく高らかな歌声に溢れており、全体が少ししめっぽくなってしまう。とりわけBlakeの少しどもるような歌い方がそれに拍車をかけている。悲痛な"I Hope My Life"のように、もっとパワフルに仕上げることもできたトラックもあり、本作の中盤に訪れる葬列を思わせる時間帯で冗長な印象を生んでいる。その後には"Noise Above Our Heads"や"Waves Upon Shores"といったトラックが控えているが、どちらも他のトラックを単に薄く模倣したようなサウンドだ。 数曲ではあるが、Blakeが新たに見つけた大胆な路線を上手く打ち出せているトラックもある。"Love Me In Whatever Way"は、彼がこれまでに行ってきた演奏の中でも特に強力な1曲で、Blakeらしいポストダブステップのかすかなメロディではなく、一般的なR&Bのメロディが強調された珍しい例だ。同志のBon Iverと共同で制作した"I Need A Forest Fire"はボーカルループと美しいハーモニーによる傑作だ。ふたりがトラックの終わりに向かって極上のメロディ上で重なり合う様は、一度聞いたら脳裏から離れなくなるだろう。静かにゆっくりと光を発するサウンドから琴線に触れる音楽を生み出すという、唯一無二の才能がBlakeには備わっている。こうしたトラックはそのことを再認識させてくれる。 Bon Iverをフィーチャーしているわけではないが、ラストの"Meet You In The Maze"はアメリカ人シンガーである彼の影響を最も強く受けているトラックかもしれない。同時に『The Colour In Anything』の独特の問題が最も表れているトラックでもある。オートチューンで加工され、か細い歌声を聞かせるBlakeのバラードは、はっきりとしない印象のままアルバムの幕を閉じる。彼がシンガーとして活動していた時代に後退するようなアレンジには首をかしげてしまう(当時の彼は"Lindisfarne"などのトラックで意図的にBon Iverの影響を打ち出していた)。『The Colour In Anything』に収録された傑作トラックがもたらす輝きや期待は最後の最後で倦怠感に置き換えられてしまう。静かで控えめなサウンドを生み出す使命のもと、Blakeは自身の微かなともしびさえも吹き消してしまいそうだ。
  • Tracklist
      01. Radio Silence 02. Points 03. Love Me In Whatever Way 04. Timeless 05. F.O.R.E.V.E.R 06. Put That Away And Talk To Me 07. I Hope My Life (1-800 Mix) 08. Waves Know Shores 09. Choose Me 10. I Need A Forest Fire 11. Noise Above Our Heads 12. The Colour In Anything 13. My Willing Heart 14. Two Men Down 15. Modern Soul 16. Always 17. Meet You In The Maze
RA