Rainbow Disco Club 2016

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  • Rainbow Disco Clubほど“ディスコ”というテーマに特化したフェスティバルはなかなか珍しいのではないか。2010年から晴海客船ターミナルにてデイイベントとして開催されてきたRainbow Disco Clubは、昨年より会場を東伊豆クロスカントリーコースに移し3日間にわたるフェスティバルに進化した。大型ダンスミュージックフェスティバルMetamorphoseが2012年以降開催しなくなった反面、The Labyrinth、TAICOCLUB、The Star Festivalそしてruralと活気を見せている日本のダンスミュージックフェスティバルシーンにおいて、Rainbow Disco Clubは間違いなくその一例と言えるだろう。ロケーション、プロダクション、オーディエンス、そしてラインナップ。そのどれもが素晴らしく、活気と恍惚感に満ちた週末だった。今年は4月29日(金・祝)から5月1日(日)にわたって開催された。 山と海が隣接する伊豆半島・稲取高原に位置する会場は東京から電車で約2時間半。 3日間の幕開けを飾ったのは前年同様にRDCのレジデントDJであるSisi。フリージャズやワールドミュージックなどを中心とした緩くて心地良いサウンドが、来場者を迎える。3日間ともに音が鳴り始める時間帯のジャンルレスなサウンドジャーニーはRDCの魅力のひとつ。なかでも、まだ人もまばらな緑一面のフロアで聴くSisiのDJは、贅沢な時間のひとつと言える。続くKikiorixから一段階テンポを落とし、Nightmares On Waxがフロアを沸かせた。得意のダウンビートやダブはもちろん、ヒップホップから4つ打ちまでを混ぜた縦横無尽なミックスに、サウンドシステムあがりのMCを挟み込む。ラフながらに味のあるベテランらしいパフォーマンスを聴かせてくれた。 続いて、この日ヘッドライナーでトリを飾る予定であったAndrew Weatherallのやむを得ないキャンセルにより代役を努めたのが、前日まで東京でプレイをしていたRadio Slaveだ。昼間の雨の後の湿った空気とライトアップされた木々を背景に、特有の固いビートが響き渡る。ディスコ調サウンドを時折楽曲内に挟むも、ダークなテックハウスを貫くスタイルはAndrew Wheatherallを期待した来場者にとっては物足りなさを感じたかもしれない。前者Nightmares on Waxのコントラストも目立ったようだ。終了時間の21時を迎え、もう一方のRed Bull Music Academy特設ステージへ足を向ける。体育センター館内は、暗闇にブラックライトのインスタレーションが映し出され、ウェアハウスのようなナイトクラブ仕様となっている。DJ FunkはBPM早めの“シカゴ・ゲットーハウス”スタイルでフロアの酔っ払いを賑わせていたが、筆者は翌日に備え早めに切り上げることにした。 快晴を迎えた土曜日。Kaoru Inoueがスペーシーなディスコを主体としたセットで早くもフロアを賑わせており、続くKenji Takimiは徐々にテンポを上げハウス・ディスコに調子を切り替え、雰囲気を汲み取るかのようなセットでフロアに安定感を与えていた。正午を迎えると爽やかなブルーのシャツを着たGilles Petersonが登場。Roy Ayersの“Everybody Loves Sunshine”を筆頭に人々がフロアにじわじわと集まりはじめる。ジャズを軸としたダンスミュージックをはじめ、アフロやラテン、ダブ、そしてもちろんディスコなど、国籍も世代もカテゴライズされない多種多様な選曲かつ、一つ一つの曲を丁寧に披露する姿はまさに圧巻。バランス良くストーリー性のある展開が組み込まれていた。
    続くMove DはPrinceの“Controversy”でフロアのムードを一気に高揚させた。徐々にジャジーなミニマルハウスや多幸感溢れる曲調に移行し、Move Dらしい温かみのあるメロウなディープハウスセットを披露。日も暮れ中盤にさしかかると、ハイハット強めのアップビートな曲にスウィッチ。安定したプレイと夕方の風が心地よい相乗効果をもたらした。その後のDJ NobuとThe Black MadonnaのB2Bは本当に素晴らしかった。DJ NobuのパワフルさとThe Black Madonnaのユーモアさを融合させたアップリフティングなディスコ・ハウスセットを披露。この絶妙で飽きさせることのない選曲の数々はオーディエンスの心をがっちり掴んでフロアから離すことなく、あっという間に終了時間を迎えたのだった。
    遊び足りない人々のほとんどが、RBMAステージへぞろぞろと足を運ぶ。Sauce81の明るいビートが入り交じるライブセットも良かったが、ラストを飾ったEgyptian Loverは予想以上に素晴らしいパフォーマンスを披露した。彼の愛機であるTR-808を使用したチープでバウンシーな独特の電子音と、重低音がバランスよく響き渡りダンスフロアに拍車をかける。また終盤はフロアにいたオーディエンスがステージへ流れ込んで踊るといった盛り上がりをみせるなど、大きな一日の締めくくりとなった。 強風でテントがつぶれることが心配された夜だったが、大きな問題もなく翌日を迎えた。朝のメインステージではRush Hour主宰のAntalがリズミカルで聴き心地の良い陽気なラテンや、ブラジリアンディスコを中心にフロアを賑わせていた。違和感なくバトンを引き継ぐHuneeはレゲエやハウスなどのポップで親しみやすいトラックの数々を披露。続いて登場したSoichi Teradaは“Saturday Love Sunday”や“Do it Again”など、どこか日本らしくも力強く多幸感溢れる代表曲の数々や、ホウキをギターに見せ掛けたパフォーマンスが印象的であった。フロアの空気をまた一転させたのはSan Properだ。ディスコやファンク、アシッドを交え、飽きさせることのない期待通りのプレイを披露。彼の選曲は予測できないからこそ、もっと聴きたくなるような不思議な中毒性がある。その後のB2BではRush Hourクルー全員の個性がそれぞれ際立ったグルーヴィーなハウス、テクノ、ディスコが続いた。誰の選曲か定かではないが 、Eri Ohnoの“Skyfire”はまさにこのフェスティバルの象徴曲のようであり、このフェスティバルにおける一つのハイライトとなった。終盤を迎えSan ProperのセクシーなMCと同時に曲のテンポがスローダウン。Intrinsic Tranceの“Hey Policeman!”と同時に、フロアでひと際目立っていたダンスクイーンらが壇上に登場。熱気に包まれた会場は19時にエンディングを迎え、大成功に幕を閉じた。
    全体的に昨年より多くの集客数を得た今回のRainbow Disco Club。オーディエンスは20~30代が中心だったものの、国籍や世代問わず、幅広い年齢層が楽しめるフェスティバルであると感じた。コンセプトとして掲げる「過去と未来の交錯・共存を、音楽、アート、映像、ライティング、写真など数多くの要素で表現すること」は昨年に比べ十分にパワーアップしたように思う。また主催側と参加者のホスピタリティも然ることながら、会場である東伊豆に於いては地元の自治体が大変協力的だったことも大成功の理由の一つだろう(SNSを通しての情報発信なども積極的に行なってくれた)。信頼性と来年への期待を高めた今回のRainbow Disco Club。着々と日本を代表するミュージックフェスティバルの一つとして確立していることには間違いないだろう。 このレビューの執筆にはDaisuke Itoも参加しています。 Photo credits / Alexis Wuillaume, Masanori Naruse
RA