Sunwaves 19

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  • Sunwavesはヨーロッパにおいて最も愛されているフェスティバルのうちの1つであり、それには十分な理由がある。これまでに19回開催されてきたこのルーマニアのイベントは、ルーピーなハウス/テクノ、ロングセット、そして超クリアなサウンドという、シンプルな3つの要素を中心に据えた、明確な音楽ポリシーを掲げている。このコンビネーションは、同フェスティバルの熱心なファン層を生んだ。また、ミニマルなダンスミュージックのファンにとって、Sunwavesより素晴らしいフェスティバルは現時点では存在しない。そういったスタイルのキープレイヤーたち(Ricardo Villalobos、Zip、Rhadoo、Sonja Moonear)には、これから何を聴けるのかをはっきりと分かっているクラウドの前でプレイするゴールデンタイム枠が与えられる。これはこの手の反復的な音楽にとって、フェスティバルでの結果の明暗を分けることも多い、重要な要素だ。しかし、ここ数年間でSunwavesの規模が大きくなるのに伴い、フェスティバルの成功にとって重要なはずの要素が極端になりすぎている傾向がある。何人かのDJはバカみたいに長いセットをプレイさせられ、かつては同フェスティバルがエキサイティングである理由だったニッチなミニマルが、今や退屈なものに感じられる。 筆者は今年初めてSunwavesに参加したのだが、おそらく最初で最後の参加となったであろう。この最高の週末に向けて、あらゆることを準備した。親しい友人達と素敵なアパートを予約し、その次の週は休暇を取っていた。初日の金曜日は何もかもが素晴らしく、個人的に今回のフェスティバルの中で1番楽しんだ夜の1つだった。地元出身のCristi Consによるスムースかつ無難なウォームアップセットに続き、Ricardo VillalobosとZipは、エリアBの素晴らしいサウンドシステムの中で極上のハウスをプレイ。エリアBはSunwavesにおいて2番目に大きいアリーナであり、同フェスティバルの中でもベストパフォーマンスが聴けることが多い(Dan Andrei、Rhadoo、Raresh、Petre Inspirescuらは皆このアリーナに出演した)。この場所のリラックスした空気と、温かくもパンチの効いたシステムが、DJたちにクラブでプレイしているような気分にさせるのだろう。
    VillalobosとZipは、普段彼らがフェスティバルではプレイしないような、クレイジーなベースラインと、長尺のツール的なトラックを多用。音が騒々しくなりすぎることは一度もなく、爆発的に盛り上がる瞬間もそう多くはなかった(VillalobosによるDFX "Relax Your Body"の未発表リミックスだと思われるトラックには、Lil' Louisの"French Kiss"やJosh Winkの"Higer State Of Consciousness"のようなクラシックスよりも熱烈なレスポンスがあったが)。クラウドの注意が、セットの流れやそれぞれの曲の複雑さに持って行かれていたこともあり、この夜のフロアのエネルギーには波があった。この微細な空気感が、数千人もの観客がいるダンスフロアのムードを常におおらかなものにし、結果として一般的なフェスティバルよりもずっとどっぷりとハマれるようなリスニング体験を生んでいるのかもしれない。 しかし、このバランスを上手く取るのは困難だ。VillalobosとZipの“Less is more”なアプローチが大きく影響し、金曜の夜はその後の36時間で繰り広げられたものと全く対照的であることが際立った。一部のアクトを除けば、残りの時間で筆者が見たものはとてもじゃないが印象的とは言えなかった。tINIとBill Patrickを例にとってみると、彼らは31時間のB2Bという、筆者が過去に音楽フェスティバルで見てきた中でも最もとんでもないセットを任されていた。その長さから、このセットが滑稽であることは目に見えていた。ベルリンのクラブ(だとしても滅多にないが)であればこういったロングセットもありかもしれないが、フェスティバルの観客の前では無謀であり、無理がある。また、このペアのテクニックと選曲は、筆者が見た多くの他のDJたちよりも劣っていた。スタートから間もない頃ですら、彼らのプレイはまとまりがなく、その後も特に代わり映えがなかった。両方のフェーダーが上がりきったと思えば、次の曲のベースラインはガタガタになり、前の曲はすぐに切られてしまった。最近リイシューされたTransparent Soundの"Punk Mother Fucker"のような面白いトラックをかけても、煩わしくベースを切ってしまうのだ。 環境が違えば、こういったスキル不足もさほど気にならないのかもしれないが、この31時間の間に他のステージでプレイしていた他のDJたちと比べると、彼らのアプローチはどうしても深みがないものに感じられた。
    その他に筆者が見たアクトの多くはルーマニア人アーティストだった。その中でも、予想通りベストアクトであったRhadooは、シームレスなブレンドとカット満載の素晴らしいセットを披露。今かかっているトラックが何なのかを判断するのが困難な場面も少なくはなかった。中でも、あるトラックが完全にミックスされた状態だと思っていたところ、どこからともなく突然キックドラムやスネアが鳴り出し、フロアから更なるどよめきや歓声が湧いた瞬間は特に最高だった。 Alexandraを除けば、日曜日に筆者が聴いたローカルDJたちはさほどエキサイティングとは言えなかった。未発表トラックに依存しすぎることによって、その多くのセットは音質的に物足りなかったということもある。例えば、きちんとマスタリングされた既存のトラックで聴くことのできるようなファットなサウンドが、全くと言っていいほどなかったのだ。しかし、Alexandraは昔のハウスチューンも多く取り入れるなどし、この週末で最もバラエティ豊かなセットの1つであった。彼女が紡ぎ出すベースラインは重く、パンチが効いていたが、その上に重ねるディテールもしっかりと聴くことができた。それに引き換え、彼女に続いて登場したCapは、アトモスフェリックすぎるが故にかえって薄く聴こえ、そう長く経たないうちに音楽がBGMのようになってしまった(CezarとPrasleshの時も同様のことが起こった。)
    ルーマニアンスタイルのミニマルDJ(未発表トラックやアトモスフェリックな曲を多く取り入れたロングミックス)には、もちろん良い部分もたくさんある。BaracやPetre Inspirescuなどが然るべき時にかける音楽は、ダンスフロアに大きな影響を及ぼす。しかしSunwavesにおいては、そういったデリケートな音が連続でかかると、それぞれのインパクトもなくなってしまうのだ。tINIとBill Patrickの31時間セットが行き過ぎだと感じられたのと同様、削ぎ落とされ、ギラギラとしたミニマルは4時間続くとあっという間にその輝きを失う。DJたちは不思議でチャーミングなテックハウスを発掘することから一度離れたが、シーンが成長して多くのDJが出てくることによって、友人や仲間による未発表トラックでセットを構成するDJが増え、結果として彼らのパフォーマンスにネガティブなインパクトを与えるところまで来てしまっている。Villalobos、Zip、Rhadoo、そしてAlexandraが証明したように、バラエティは今も尚、重要なのだ。クールなステージ、素晴らしいサウンド、そしてレイドバックな雰囲気と、Sunwavesが最高である為の要素は全て揃っている。だが、音楽的な多様性がもう少し増えるまでは、個人的にはママイアまで行くよりもベルリンで過ごす週末をお薦めしたい。
    Photo credit / Ogarev Luke Cotza
RA