Boredoms in London

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  • カルト的な人気を誇る日本のバンド、ボアダムスについて、どこから説明したらいいのかは分からない。彼らは無調の音の嵐と、突拍子もない展開、トライバルなリズムを融合させたノイズアクトの元祖であり、Lightning Bolt、Black Dice、Battles、更にはAnimal Collectiveといった様々なバンドから影響を受けているという。とにかく、彼らは掴みどころのないバンドだ。例えチャレンジしたとしても、彼らを理解するまでの道のりには、連続的でありながらも非順序なEPシリーズや、様々な名義(個人的にはV∞redomsという表記がお気に入りだ)、曲名に何かのシンボルを使用したりと、難解な問題がたくさん溢れている。 実のところ、ボアダムスはライブパフォーマンスにおいて秀でている。不思議な存在のフロントマン、山塚アイ(EYヨ)は、エクストリームミュージックとステージ上での激しく奇怪なパフォーマンスが融合し始めた時期から活動するアーティストである。ハナタラシ(彼が中心となり'80年代に活動していたハードコアバンド)時代の、ユンボに乗ってライブハウスの壁を壊しながらステージに登場した話は有名だ。このようなパフォーマンスは、現在に至るまで続いている。筆者が初めてボアダムスのライブを見た時は、EYヨは7本のネックを持つギターをクリケットのバットで叩き割りながら、自身の周りを囲む多数のミュージシャンの指揮を取るという、カオスな状況が繰り広げられていた。 今回のロンドン公演には、我々観客の期待と、どんなものが見れるのだろうという疑問で、大きな注目が集まっていた。しかしライブの数週間前に、会場がケンティッシュ・タウンのThe Forumから、ステージサイズが約1/4のキングス・クロスにあるScalaへと変更された。筆者は、このことが原因でパフォーマンスの規模が縮小されるのではないかと心配したのだが、その予想は当たった。88人のシンバル奏者が参加した前回のロンドンでのライブと比較すると、この日のステージ・セットアップは、コアメンバーである横田佳美と楯川陽二郎の為の2組のドラムキットと、シンセサイザーやエフェクトボードなどの乱雑な機材群、そしてぶら下がった金属製のポールで組まれたリングフェンスという、少し寂しいものとなった。 トリオはしばらく経ってから、このポール同士をコツコツとぶつけ始めた。トランス状態を誘発することを目的としていたのかもしれないが、ポールが激しくぶつかり合う音が、アクシデントで1つのレールが離れてしまったことによって崩れた瞬間、呪文が解けてしまったかのような滑稽さがあった。しかしそれがようやく軌道に乗り出すと、非常にスリリングなパフォーマンスとなった。EYヨの腹の底から発せられる叫びと低いうなり声が、激しいシンバルと雷のように轟くビートと融合した。瞬く間に激しさが増し、時にはEYヨが空間に向かって叫ぶなど、息を飲むような瞬間があった。しかし、バンドは次の曲への切り替えにテンションを浪費してしまったのか(35分間にも及んだ)、その2曲目もいまひとつハマることができなかった。 純粋な勢いと、ガランガランと鳴り響く音を除けば、この曲が訴えかけてくるものは少なく、すぐに飽きてきてしまったのだ。そして誰かがステージ上に現れ、マイクが繋がれた様々な家庭用品をスパチュラを使って動かし始めた。まるで、彼らがアバンギャルドであることだけを狙っているようにも思えた。そこからのパフォーマンスは物足りなく、耐久力テストのようにすら感じられた。多くの人にとって、ノイズミュージックとはこういうものなんだろう、と筆者はそのとき思った。調子が良い時のBoredomsは、素晴らしいライブアクトであることに間違いはない。残念ながら、この日はそういう時ではなかったようだ。
RA