Make Noise - 0-COAST

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  • これまで、シンセサイザーのデザインはウェストコーストとイーストコーストという大きな2枠に分類されてきた。ウェストコースト系はサンフランシスコのDon Buchlaが開発したような、加算合成を中心とした開発が好まれてきたシンセ群を指し、一方、Bob Moogに代表されるイーストコースト系は一般的な減算方式を重用してきた。そして、モジュラーシンセにはこの分類が今も根強く残っており、様々なモジュール、そしてそれらを開発するアーティストたちは、空想上のフェンスが隔てるどちらかの世界に身を置いている。しかし、地理的な違いも意味していたこのふたつの世界は、最近はスタイルの違いだけとして用いられることも多い。その好例と言えるのが、ユーロラックのスペシャリスト、Make Noiseだ。Bob Moogがかつてホームと呼んでいたノースカロライナ州アッシュビルに本社を構えている彼らだが、開発するモジュールはウェストコーストの流れを汲んだ非伝統的な製品となっている。また、今年6月に彼らがリリースした初のデスクトップ製品は両海岸の差を埋めることを目的として開発されたものだ。0-COAST(ゼロ・コースト)と名付けられているのはそれが理由だ。 0-COASTが今年のNAMMで発表された時、インターネットのフォーラムはこれが純粋なデスクトップ製品なのか、それともユーロラックモジュールをデスクトップケースに詰め込んだ製品なのかを推測する声で盛り上がった。当然、多くのユーロラックユーザーは0-COASTを自分のラックに組み込めることを期待していたが、幅22.9cm・奥行き14cmというサイズはラックには大きすぎることが判明した。Make Noiseは最終的に、0-COASTは携行性と柔軟性を提供するためにデザインされた純粋なデスクトップ製品であることを発表したが、その携行性については、幅と奥行きを広げて高さを薄くする(高さ0.75インチ)ことで、ある程度実現されている。
    一見したところ、0-COASTのコントロールは分かりにくいが、Make Noiseらしいアーティスティックな機能がいくつか用意されているものの、一般的なデスクトップシンセサイザーに期待するような機能はほぼすべて備わっている。パッチポイント数は27個と多く、しかも重要な部分は内部でパッチングされているセミモジュラータイプなので、サウンドを鳴らすために複数のパッチケーブルを繋ぐ必要はない。電源アダプターを繋ぎ、MIDIクロックをMIDIケーブル=ミニジャックケーブルで流し込めば、すぐに同期してサウンドを生み出せる。他の多くのアナログシンセと同じで、入力されるMIDI信号はピッチCVとゲートに変換されるが、0-COASTの場合はピッチCVがオシレーターセクション、そしてゲートはCONTOUR(コントゥア)セクションに送り込まれる。オシレーターセクションは、FMとウェイブシェイピングなどを使用して様々な音色が生み出せるウェストコースト系のVCOモジュールとして人気のMake Noise DPOを簡略化したものになっており、CONTOURセクションは、基本的にはアンプエンベロープで、そのデザインはイーストコースト系を代表するMinimoogのラウドネスコントゥアの回路にインスパイアされたものになっている。 オシレーターとCONTOURにおけるウェストコーストとイーストコーストの組み合わせは、Make Noiseが提唱する「0-COAST」コンセプトの裏付けのひとつとして考えられるが、実際に触ってみると、イーストコーストの基本的な部分が大きく欠如しているように感じられる。しかし、0-COASTに周波数を変化させる選択肢が揃っていないわけではない。BALANCEノブを使用すれば、左右のオシレーターのバランスを自由に組み合わせることができる他、DYNAMICSノブを使えば高周波数を削りながら、Buchla 292のローパスゲートのような形で音量を調整できる。しかし、いずれにせよ、最終的には伝統的なフィルターの代わりにはならないので、今回筆者がOberheim SEMと組み合わせてテストしたように、多くのユーザーが0-COASTを他の機材に繋いで使用することになるだろう。
    CONTOURセクションの右隣には同じくエンベロープジェネレーターの機能を果たすSLOPEセクションが用意されている。デフォルトでは0-COASTのウェイブシェイピングを変化させるようになっているが、今回のテストではマニュアルがなかったため、MIDI信号を使ってこのエンベロープを変化させる方法がないことに気付くまでしばらく時間がかかった。そのような操作を行う場合は、CONTOURセクションのEONから信号を取り出してTRIGGERに接続する必要がある。ただし、0-COASTはパッチングをしなくてもトリガーができるようになっている。SLOPEセクションの最上部に配置されているLED付きのCYCLEボタンを押せば、SLOPEセクションのエンベロープが同セクション下部のRISEとFALLの設定に応じて繰り返しトリガーされるようになる。また、SLOPEセクションとCONTOURセクションには、エンベロープの形状を直線にしたり、やや膨らませたりすることができるEXPノブが用意されているが、SLOPEセクションのEXPノブは、左側のLOGの方向へ振れば対数エンベロープとなる。そして、それなりの価格で売られているあらゆるモジュールと同じく、0-COASTも両セクションのエンベロープをすべてのCVインプットにルーティングすることが可能だ。0-COASTにはMake NoiseのヒットモジュールMATHSのCVプロセッシングが流用されているため、ルーティング次第ではかなりパワフルなサウンドが生み出せる。 今回のテストを終えたあと、筆者は小さなサイズの中に数多くの可能性が詰まっていることに驚くことになった。0-COASTはMIDIを一切使用することなくワイルドなシーケンスや常に変化するドローンサウンドを生み出せる製品となっており、しかも、柔軟な内部アルペジエーターや、MIDI CCやモジュレーションホイールのCVルーティングも備わっているので、ライブとスタジオ制作の両方に対応している。既存のモジュラーラックに組み込めないサイズであることと、伝統的なフィルターが欠けていることが気にならなければ、0-COASTはMake Noiseらしいユニークな加算合成を音楽制作に持ち込める素晴らしい機材として活躍してくれるだろう。 Ratings / Sound: 4.2 Cost: 4.4 Ease of use: 3.9 Versatility: 4.2 Build quality: 4.4
RA