Larry Levan - Genius Of Time

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  • Larry LevanはDJの極致として考えられることが多い。1992年にこの世を去った彼はニューヨークのアイコンとしてダンスミュージック界から崇拝に近い尊敬を集めている。マンハッタンにあった、Levan仕様の特別設計を施した会場The Paradise Garageは多くの人々にとって史上最高のクラブとされている。The Paradise Garageが特別な場所になったのはLevanが細部にまでこだわっていたからだと誰もが口にしている。彼はすべてが特別なものになるように音楽のクオリティ維持だけでなく、複数取り付けられるミニチュアのミラーボールの輝き方にも等しく意識を払っていた。 Levanがオーディエンスの感情をコントロールする手段は驚異的だった。彼は選曲だけではなく照明や室温までも調節していたのだ。埋め尽くされたフロアがさらなる興奮を求めているときには、彼はバラードや奇妙なフリーキー・エレクトロニックミュージックをプレイして幅広いワイルドな音楽体験へとパーティーをリードすることもあれば、60分もの間レコードを2枚使いして同じパートを何度も繰り返すことでオーディエンスに異質な超絶体験を味合わせることもあった。彼のスタイルは型破りで情熱的、ときとして狂っていて完全に彼独自のものだった。 こうしたLevanの伝説は主に彼の作品にも通じている。Francois K、Walter Gibbons、Tee Scottに並び、Levanもスタジオでその名を築いてきたDJのひとりだ。彼のリミックスは斬新で全く新しい方向性で原曲を打ち出し、当時の最高峰だったであろう凶暴なまでの音量と重厚なベースを鳴らすThe Paradise Garageのシステムに映えるようなアレンジが成されていた。高次のオーディオマニアだったLevanはニューヨークにあるDavid MancusoのパーティーThe Loftで高い忠実度を誇るサウンドの在り方を学んだ。大きなシステムで最も映えるようにミックスを行った彼の作品は、現在でも素晴らしい鳴りをしているものがほとんどだ。 『Genius Of Time』にはLevanによる良作の一部が収められている。"Padlock"、"Seventh Heaven"、"Peanut Butter"といったGwen Guthrieとの楽曲が中でも特に素晴らしい。この3曲は、もともとIsland Recordsのリミックスオファーから発展して7曲入りになった「Padlock」に収録されている。バハマにあるCompass Point Studiosで行った長時間に渡るスタジオセッションにより、LevanはGuthrieやレゲエ界のスターSly & Robbieと共にコラボレーションすることができた(Island Recordsにとっては膨大な費用となった)。その音楽はトリップしたダブとファンキーなエレクトロニックディスコを革命的に組み合わせたものだった。"Peanut Butter"の序盤1分半はそのトップに君臨するものだろう。波紋のようなリバーブとエコーがかけられたトラックは緊張感を増し、その後、ビートがエンドルフィンを急上昇させる。照明が落とされ低域が轟くThe Paradise Garageでプレイされたこのトラックは人生を変える衝撃のサウンドだったのだろう。 Levanをフィーチャーしたことで知られるふたつのグループMan FridayとNYC Peech Boysによる音楽も同じく素晴らしい。「Padlock」の幻覚的なダブ、ドラムマシン、痛ましいソウルが彼らの作品においても共通している。NYC Peech Boysの"Don't Make Me Wait"はポストディスコ時代における重要作のひとつで、不可解さと歓迎的な感覚を同時に実現した情欲な作品だ。他にもDavid Josephの"You Can't Hide Your Love"のLevanによるリミックスやEsther Williamsの"I'll Be Your Pleasure"が素晴らしい。どちらもLevanのフリーキーなディスコタッチはそれほど感じられないが、それでもやはり鉄壁のクラシックトラックだ。 しかし『Genius Of Time』で気になることがひとつだけある。それは本作がLevanの決定的なコンピレーションではないということだ。コンピレーションタイトルはLevanの才覚を示唆しているが、前知識を持たない人にとってはLevanの良作を聞くことなく本作を放置するかもしれない。Salsoulに残した重要作は一切収録されていない。Inner Lifeの"Ain't No Mountain High Enough"、Skyyの"First Time Around"、Instant Funkの"I Got My Mind Made Up"が含まれていないのが気がかりだ。Levanのリミックスの中で間違いなく最も先進的だったLoose jointsの"Is It All Over My Face"も入っていない。シンプルに素晴らしいチョイスも数曲あるだけに、こうしたThe Paradise Garageのサウンドにとって極めて重要なトラックが含まれていないのは明かな欠落だ。Merc & Monkの"Carried Away"が収録されているが、これはLevanのリミックスの中で最も薄弱で無名なトラックだ。 『Genius Of Time』は限られた予算内で制作され、A&M、Island、MotownといったUniversal関連のレーベルのみの音源をコンパイルしている印象がある。財布のひもが堅くならざるを得ない業界ではしょうがないことではあるが、Levanが生きていたらこのようなやり方で何かを生み出していただろうか。そもそも彼は完ぺき主義者であり、言うまでもなく、会社の経費を使ってカリブ海で何週間も楽しく過ごしていたような男だ。さらに言えば、このコンピレーションはアーティストの死後にリリースされる作品に関して重要な疑問を浮き彫りにしている。アーティストがこの世を去ると、今回のようなプロジェクトを適正に評価する人がおらず、アーティストの作品をレーベルが好きなように扱ってしまうのかもしれない。ヒップホップのプロデューサーMadlibがこの問題の対処方法について語ったとき(英語サイト)、誤った解釈をされるくらいならすべてを燃やしてしまう、という極端な解決策を提案していた。『Genius Of Time』には時代の変えた傑作が詰まっている。しかし、ここで語られているのはLevanの歴史のほんの一部に過ぎない。
  • Tracklist
      CD1 01. NYC Peech Boys - Life Is Something Special (Special Edition) 02. Syreeta - Can't Shake Your Love (Larry Levan Mix) 03. Gwen Guthrie - Padlock (Larry Levan Mix) 04. Man Friday - Love Honey, Love Heartache (A Larry Levan Mix) 05. Merc & Monk - Carried Away (Larry Levan Remix) 06. Dee Dee Bridgewater - Bad For Me (Larry Levan Mix) 07. Bert Reid - Groovin' With You (Vocal, Levan Edit) 08. Tramaine - The Rock (Garage Vocal Version) 09. Man Friday - Groove (Larry's Yaw) 10. Jimmy Ross - First True Love Affair (Larry Levan Remix) 11. Gwen Guthrie - Seventh Heaven (Levan Mix) CD2 01. David Joseph - You Can't Hide Your Love (Larry Levan Mix) 02. Grace Jones - Feel Up (Larry Levan Mix) 03. Gwen Guthrie - It Should Have Been You (Larry Levan Mix) 04. Loose Joints - Tell Me (Today) (Larry Levan Mix) 05. Esther Williams - I'll Be Your Pleasure (Larry Levan Mix) 06. Man Friday - Real Love (The Paradise Garage Mix) 07. Central Line - Walking Into Sunshine (Special Mix) 08. Jeffrey Osborne - Plane Love (Specially Remixed Version – Larry Levan Remix) 09. Gwen Guthrie - Peanut Butter (Long Vocal) Larry Levan Remix) 10. Smokey Robinson - And I Don't Love You (Instrumental Dub) 11. Peech Boys - Don't Make Me Wait (Extended Version)
RA