Matmos - Ultimate Care II

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  • どうやら、前アルバムのMatmosはDrew Danielの頭の中にあるアイデアをテレパシーで複数の被験者に伝えようとしたようだ。しかし実際に伝わったのはそのアイデアではなく、そこから派生した別のアイデアだった(もともとのアイデアはいまだに謎のままだ)。変態的な制作手法、多岐に渡るコラボレーション相手、そして、奇妙に混ぜ合わせたスタイルなどを理由に、二重の意味や誤った解釈に意識が向けられることになったのだ。芸術作品にはよくあることだ。私たちはアーティストの意図を本当に汲み取ることなどできない。『The Marriage Of True Minds』では、そうした謎めいた要素が楽しみの中心として据えられていた。 Matmosのふたりによる最新作では正反対の路線を取って同様の視点に向かっている。洗濯機が立てる音だけで構築した38分のアルバム『Ultimate Care II』には、前作に欠けていた一極集中性がある。しかし、洗濯機が回転するたびに呼び起こされる解釈は異なり合っている。『Ultimate Care II』とはふたりが所有する洗濯機のモデル名だ。このタイトルは家事という感情労働や自宅生活を暗示している。製造停止状態にある同機を使うことは、ダンスミュージックカルチャーで旧式な要素が好まれ、製造停止の機材が高い信頼を獲得している状況を模している。さらにMartin Schmidtは大量に水を消費する洗濯機をカリフォルニアの干ばつと"アメリカのゴミ"に関連付けてきた。 洗濯機にまつわるもうひとつの要素は、回転/循環することだ。同じことは人生、日々のルーティーン、そして、この20年間Matmosが巧みに解体してきた音楽文化にも言える。ふたりはこの点を強調しており、洗濯機に水を汲み込む音から『Ultimate Care II』をスタートさせ、最後は洗濯音を長く鳴らして終了させている。その間、音楽は見事にブレンドされ(各トラックと同じくアルバム内の移行具合も面白い)、複数のアイデアがトラック上で繰り返される点も、やはり循環であり、シンフォニー的な循環だ。 ふたりはコンタクトマイクとトランデューサーを洗濯機の反響ドラムに取り付けて数々の豊かなサウンドを獲得している。音数が少ない場面(例えば、6:40の時点から大きくうねり出すグラニュラーサウンドの塊が使われる場面)では、Pierre Henryのようなミュージックコンクレートの巨匠を思い起こさせる。他の場面ではミュージックコンクレートの手法が現代的に活用されている。序盤付近でジャージークラブのような場面が少しだけある他、21分頃にはドタバタとしたスローハウスになる場面もある(湿った親指で金属を擦っているような甲高い音は象が苦しんでいるかのようだ)。 Matmosにとってこうした点はどれも特別なことではなく、彼らが構築してきた音楽を覆すものでは一切ない。しかし洗濯機という変わったアイデアにより、彼らのサンプルトリックに劇的なエッジが生まれている。時折、洗濯機の内部にまで深く下降しているかのような感覚になることがある。終了前の3分半に渡って使われている流水音には柔らかくフィルターがかけられており、ヘッドフォンを通すと意識の中をぐるぐると回転しているかのように聞こえる。この微細な場面は轟く金属音と甲高いグリッチ音のループからなる絶頂的なガバアレンジによって吹き飛ばされる。そして本作は不快なビープ音と共に終了する。リスナーは音楽プレーヤーの画面を見つめ、頭を掻きながら、ふたたび再生ボタンを押すことになるだろう。
  • Tracklist
      01. Ultimate Care II
RA